『22、お披露目パーティー③~アリナお姉さまのサプライズⅠ~』
全員が歓喜の表情で指輪の男――イグルを見やる。
イグルは自身が身に着けている指輪を畏怖の視線で見つめていた。
「どうだい?私特製の指輪は。魔法の効果を底上げする効果があるんだよ」
ドアの前に一人の老婆が立っており、不敵に笑っている。
「あれぇ?“指輪のお店 フタンズ”の店主さんじゃないですか?」
俺の声にフェブアー騎士団長が老婆の顔をマジマジと見つめ、声を上げた。
「本当ですね!あの無礼な老婆じゃないですか」
声が怖いって・・・。それにしても、今にも剣を抜きそうな態度である。
「だからいつも通りだと言っておろう。殊にあなたはやはり王子でありましたか」
「はい。リレン=グラッザド。この国の第1王子です」
突然、敬語に変えて恭しくなる老婆。
目だけで軽く会釈し敬意を示す。一応、人生の先輩だからな。
それにしても、何をしに来たんだろう?
そんな疑問を察したわけではないのだろうが、老婆が舞台の真下までやって来た。
「改めまして、フタンズでございます。今宵は祝いの品を献上しようと参った次第」
「祝いの品?もしかして指輪?」
やや食い気味に尋ねると、フタンズさんは大きく頷いた。
「王子が欲しがっておりましたからな。自信作を渡したいと思いまして・・・」
「あの時に既に王子だと分かっていたと?」
「はい。といってもそこの騎士を見て分かったのですがな」
フェブアー騎士団長を指さすフタンズさん。
指された本人は目を見開いて、恐る恐るといった感じで尋ねた。
「何で私を見て王子の一行だと分かったのですか?」
「そんなもの、そなたの鎧を見れば一目瞭然じゃろうが。逆に今までよくバレておらんかったな。私としては、そっちの方が不思議だよ」
鎧に視線を向けると、確かに薄っすらとだが騎士団の紋章が彫られている。
ところどころに金箔があしらわれていることから団長職の人物。
つまり、フェブアー騎士団長だということだ。
「なるほど。確かに良く見たらバレバレじゃん」
「グッ・・・まさか鎧からとは。今度があれば紋章は隠した方が良いな・・・」
悔しそうに呻くフェブアー騎士団長。
フタンズさんはそんな彼女を半目で見つめた後、俺に向き直る。
「では気を取り直して。これが私からの祝いの品でございます」
「ちょっと失礼。――うむ、問題ないな。ではリレン王子、直接受け取るが良い」
ホブラック宰相がプレゼントを確かめた後、フタンズさんに返す。
俺は壇上から降り、フタンズさんと真正面から向き合った。
というか俺、今までよく壇上に一人でいたな。襲撃されなくて良かったよ。
「リレン王子、店での無礼な対応をお許し下さい。これは祝いの品でございます」
「大丈夫ですよ、僕は気にしていませんから。祝いの品、ありがとうございます」
「開けていいですか?」
「遠慮せずとも開けてください」
促されて包みを開けると、虹色に光る宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。
指を嵌めるところにも細かい模様が入っており、時間がかかっているのが分かる。
試しに嵌めてみると、小さな宝石が俺の指とマッチしている。
稀に宝石がデカすぎて重いなんてことがあるが、それも一切無い。
「光にかざしてみてください。特殊な仕掛けを施しておりますから」
フタンズさんの言葉に従い、光にしばらくかざしていると何かが浮かび上がってきた。
浮かび上がってきたのは、虹色に光る結界。
思わず見惚れてしまうほど綺麗だったが、ラオン公爵の剣も父上の魔法も弾く。
フェブアー騎士団長が意地の悪い笑顔で試してみようと言い出したのだ。
その口車に乗せられ、全力で斬ったであろうラオン公爵も、顔を大きく見開いていた。
父上は口をポカンと開けて結界を手でなぞっている。
「凄い・・・。フタンズさん、こんな素晴らしいものを頂いていいんですか?」
「もちろん。護身用に是非お持ちください。きつくなったら当店で直しますから」
「本当にありがとうございます!大切にしますね!」
笑顔で言うと指輪を嵌めた腕を下ろし、同時に結界も無くなった。
指輪をしばらく眺めていると、会場の電気が次々と消えていく。
あれ?もうそんな時間?
また襲撃なのではと焦りの色を隠せない参加者だったが、アリナお姉さまの声が響いたことで冷静さを取り戻した。
「只今より、私が考案、制作いたしました魔法劇を披露いたします!」
そう。これはアリナお姉さまのサプライズである。
1ヶ月前くらいから参加者を集めて稽古を行っていたのを何度も見かけた。
ジャンルは恋愛とアクションとヒーローショー。
恋愛系のストーリーで大人の興味を引き付けておきながら、主人公の騎士が戦うシーンでは子供たちに応援の歓声を呼び掛けるのだそう。
メインは恋愛で、ヒーローショーはワンシーンだけだったけどね。
大人と子供、どちらの興味も惹きつける良い策だと思ったよ。
やがて、舞台上に1人の騎士が現れた。この劇の主役、ブルート副騎士団長である。
何でもこの物語は、彼の実話を元にしているのだとか。
「ぬ?あちらに敵がいるな・・・。でもあれは強い。俺じゃ倒せない・・・」
大げさな動きで頭を抱えるブルート。
何かを決心したように彼は後ろを振り向く。
「おーいエリール!あいつを遠くから攻撃できるか?」
舞台袖からローブを着た女性が出てくる。エリールを演じるアスネお姉さまだ。
ちょっと・・・人任せにする気かい!
「私を舐めないでくれるかしら?出来るに決まっているでしょ?」
冷たく言い放つと杖を振りかざし、#風の刃__エアカッター__#を3発放った。
奥から響いてくる断末魔のような呻き声。
「どうしてあなたは魔法を使えないんでしょうね・・・」
「そんなの、俺が聞きたいよ・・・」
暗い声で会話する2人。舞台は真っ暗で、2人の周りだけが照らされていた。
母上の光魔法があるから出来る芸当である。
そんな暗い会話を続ける2人に黒い影が近づいていた。
影はエリールの後方2メートルまで接近すると一瞬で加速。
エリールだけを掴み上げ、舞台袖に引っ込んでいく。
あれは魔装?ということはあの影はフェブアー騎士団長か。
魔装は体に魔力を纏わせ、身体能力を向上させること。
意外と制御が難しく、この国でまともに使えるのはフェブアー騎士団長とラオン公爵くらい。
「おい!?エリール!――何てことだ・・・。あいつらは黒の影か!?冒険者の中でも最弱の俺が最凶と言われる黒の影に勝てるわけがないだろう!?」
ヒステリックに喚き、ガックリと力なく項垂れるブルート。そのまま舞台袖へ引っ込む。
『この時、既に20人以上の女性を誘拐していた犯罪組織、黒の影。彼らに誘拐された女性は、これまで誰1人として帰って来ていませんでした』
アリナお姉さまのナレーションが入る。その声は暗く、覇気が無い。
恐らく臨場感を演出するためなのだろう。
俺もその策に嵌まり、徐々に惹きこまれているのを感じた。
舞台は変わり、冒険者ギルド。
酒場で剣士冒険者、ホブラックに事の顛末を話すと、彼は顔を歪めテーブルを叩く。
ホブラックは正義感が強く、最弱と嘲笑を受けていたブルートの数少ない味方だった。
現在のホブラック宰相であり、もちろん本人出演である。
彼は射殺すような視線を虚空に向けた。
「まさか同じ日に奪われるとは・・・。俺の恋人も今日、黒の影に攫われたばかりだ」
「えっ・・・そんな・・・」
絶句して言葉が出ない様子のブルートに、試すような視線を向けるホブラック。
「で、お前はどうするんだ?このまま騎士たちに捜査を任せるのか?」
「そんなのは嫌だ。・・・でも、俺にどうしろと?冒険者最弱の俺に出来ることなんて・・・」
自嘲気味に笑うブルートにホブラックが平手打ちを入れた。
パンという乾いた音が響き渡る。
「おい!お前の覚悟はそんなもんなのか?最弱だろうと何だろうと気持ちだけは、覚悟だけは持つべきじゃないのか?助けるんだろ?お前の大切な人を!その手で!」
「そうだよ!助けたいよ!でもどうにもならないだろ?気持ちがあろうが覚悟があろうが、俺は最弱なんだ。剣の筋も弱いし、魔法も使えない落ちこぼれさ!」
感情を剥き出しにしながら叫ぶブルート。
参加者たちは言葉での応酬に釘付けになっている。
「二の句には仲間がいるとか言い出すんだろ?“こんな足手まとい、仲間にはいらない”
何度そう言われてきたか・・・。もうそんな悪意を向けられるのはうんざりなんだよ!」
「誰が悪意を向けると言った?今度の仲間は俺だ。お前は俺にも悪意を向けられると、本気でそう思っているのか?だったら俺はよっぽど信用が無いんだな!」
ホブラックが冷たい声で言い放つ。
さっきフログに放った声よりも、もっと冷たく、憎悪に満ちた声だった。
「え・・・いや・・・お前は本当に俺の仲間になってくれるのか?こんな俺の?」
「当たり前だろ?俺はいつでもお前の味方だと言ったはずだ」
その言葉を聞いたブルートは涙を流し、立ち上がる。
「ならば、俺はお前と共に黒の影からエーリルを助けてやるぞ!」
ブルート、決意の瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます