『21、お披露目パーティー②~襲撃者の手口~』

さて、面倒な奴が絡んできたな・・・。

胸の紋章は確か伯爵家のもの。ということは対処できるのは俺とイグルか。

そう思って会場を見回すと、イグルはビットに水を貰っているところだった。


――何て間が悪い!ご近所さんが絡まれているというのに呑気に水を・・・。

そうこうしている間にも事態は悪化するばかり。

恐怖で足が竦むタトルくんたちに動く意思が無いと判断したのか、伯爵家の男の子の表情が憤怒に染まっていく。


タトルくんたちは憤怒の雰囲気を感じ取って、さらに足が竦むという悪循環に陥っていた。

やがて、伯爵家の男の子が堪えきれなくなったのか、声を荒げた。

「おい、このフログ=マークが退けと言っているのが聞こえないのか?この下級!」


「ちょっと君、その言葉は言い過ぎだと思うけど?」

その態度に苛立ちを覚えた俺はついに席を立ち、フログを睨めつける。

フログは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに大きく顔を歪めた。


「何なのだお前は!突然しゃしゃり出てきて!引っ込んでおれ!」

あーあ・・・言っちゃったよ。フログ、終わったな。

後ろからの膨大な殺気に体を震わせるフログ。

恐る恐る振り向くと、そこには4人の大人が仁王立ちで待ち構えていた。


「貴殿は伯爵家の者だと言うが、間違いないか?」

ホブラック宰相がいつもの2割増しくらい低い声で聞いた。

彼の姿を見ただけでフログの顔がテーブルクロスのごとく真っ青に染まっていく。


「おい、聞いているだろ?質問に答えなさい」

ラオン公爵が容赦なく追い詰める。


「はい・・・間違いありません。マーク家のフログ=マークです・・・」

それだけを話すのが精一杯といった感じだ。

うむ。ではそちらの金髪の少年がどなただか知っているのか?」

俺の護衛を担当していたフェブアー騎士団長が臨戦態勢で尋ねる。

今にも剣を抜いて襲い掛かってきそうで怖い。


「知りません。ただ、身なりなどから同程度の爵位ではないかと・・・」

「バカモンが!そのお方はこの国の第1王子、リレン=グラッザド殿だ!」

全身から殺気を出している伯爵、ボア=マークが大声で怒鳴った。

彼がフログの父親であることは言うまでもない。


フログは目を大きく見開き、俺の顔をまじまじと見つめていく。

随分と失礼な視線だな。俺のイライラ度が高まる。


「あらフログ、お久しぶりね。今度は誰に絡んだのかしら?」

「まさか私の弟になんて絡んでいませんよね?」

後ろからヒールの音が聞こえたと思うと、冷たい声が左右から響いてきた。

俺の右にアスネお姉さま、左にアリナお姉さまが陣取る。


お姉さまたちが登場した途端、フログは必死の形相で土下座を始めた。

「申し訳ありませんでした!数々のご無礼、お許しください」

お姉さまたちは俺に視線を向ける。俺が何かアクションを起こせということなのだろう。


「いや、謝るならそっちの3人でしょ。キミが最初に絡んだのはあっちだし」

そう言ってタトルくんたちを指さす。

フログは露骨に顔を顰めたが、全員からの射殺すような視線に耐えきれず方向を変えた。


「みんな、怖い思いをさせて済まなかった!許してくれ!」

「どうするんだ?このお兄ちゃんを許してあげるか?」

優しい表情でタトルくんたちに問いかけるイグル。


「ええ。その代わり、早く去って下さい。僕たちはパーティーを楽しみたいので」

子供とは思えない殺気と気迫でフログを睨むバドくん。

随分と度胸がある子だなぁ・・・。

他の2人もバドくんと同意見なのか、特に言葉を発すことはなかった。


フログはさらに顔を歪めたが、イグルが3人の前に立ちはだかる。

「こいつらがそう言っているんだから、あっちにいけ」

前にイグル、後ろに殺気を振りまいている大人たちがいる状態で反抗することなど出来るはずもなく、フログはトボトボと退散していく。


完全に退散したのを見届けると、母上がやってきた。

「リレンは凄いわね。何も言わずここまでの人間を動かすなんて・・・」

その言葉に、ふとあたりを見回す。


ホブラック宰相、ラオン公爵、フェブアー騎士団長、ボア伯爵の大人たち4人。

それにアスネお姉さま、アリナお姉さま、イグルの子供3人もいた。

お姉さま2人が王女、イグルが公爵家の長男であることを考えれば、そうそうたる面々だ。

というか、ネームバリューなら誰にも負けないんじゃないか?


「そうですね・・・僕は何も言ってないんですが・・・」

苦笑いをしながら、キンキンに冷えた果実ジュースを口に含む。

ふぅ・・・暑いからやっぱり冷たい果実ジュースが合うよね!


ん?暑い?この部屋、魔導具が付いていなかったっけ?

少なくともパーティーが始まった時は涼しかったはずだけど・・・。

異常に気付いたのか、参加者たちが徐々に魔導具の周りに集まっていく。


「ブルミ、魔導具が壊れたの?」

アスネお姉さまがブルミなる人物に問いかけた。

すると輪の中から萌黄色のドレスを着た赤髪の少女が歩いてくる。

彼女は首を横に振った。


「いいえ、スイッチは入っているわ。ただ涼しい風が出てこないってだけね」

「ということは、あっちの魔導具もそうなのかしら?」

アリナお姉さまがドア付近に設置された魔導具を指さした。

そちらも涼風が吹いてこないらしく、周りに参加者が集まっている。


「リレン、父上は水魔法の派生の氷魔法を使えたわよね」

「はい。ならばあれを使えば・・・」

アスネお姉さまの意図を理解した俺は、父上を連れて舞台に上がっていく。

風を吹かせる魔導具のスイッチを入れると、一陣の生ぬるい風が会場を吹き抜けた。


うう・・・生ぬるい風はあまり心地よいとはいえないな。

ならばこの風を涼しくしてしまえ!

「今です、父上。氷魔法を」


軽く頷いた父上が杖を振ると、会場がヒンヤリとした空気に包まれていく。

だが、それも一瞬だけだった。

冷たい空気は瞬時に消えさり、暑い空気に取って代わった。

なんで?まだ魔導具のスイッチは切っていないし、氷魔法も続けられているのに。


「リレン、魔導具のスイッチは切っていないわよね?」

「バッチリついているよ!まさか・・・風自体が届いていないの?」

「ええ、全くの無風よ。お父様、試しに氷魔法を切ってみて!」

父上が氷魔法を中断すると、再び生ぬるい風が会場を吹き抜け始めた。


「なるほど。これでハッキリしたな。ここは何者かに魔力支配されている」

ラオン公爵が探偵のように言うと、参加者たちが一斉に目を剥く。


「どういうことですかな?魔力支配?」

ホブラック宰相が弱々しい口調で尋ねると、ラオン公爵は顔を歪めた。


「ある特定の魔力を支配してしまう闇魔法ですな。この場合、恐らく氷魔法系の魔力を含むものは霧散するようになっているのだと思われます」


説明を分かりやすくまとめると、こういうことだ。


この世界での魔法は、魔力を源として様々なアクションを起こす。

魔力は前世でいう原子のようなものであり、繋がり方によって効果が異なる。

例えば酸素原子が2個で酸素分子になり、3個だとオゾンになるといった具合だ。

今回の支配魔法は氷魔法系統の繋がり方をした魔力を霧散させてしまう効果があるため、俺たちは冷たさや涼しさを一切感じない。

ただ、その繋がり方を一旦はしている=魔力を消費するということになるため、魔力を放出しているのに魔法が発動しないという珍現象が起こるのだそうだ。


「これは上級魔法ですから、解除するにもそれなりの腕が必要ですよ・・・」

「確かに・・・支配魔法にどのくらい魔力を注いでいるかも分かりませんもんね」

ホブラック宰相がラオン公爵に同意する。

全員が難しい顔をする中、父上が部屋の中央に向かっていく。


「国王として、パーティーの主催者として、ここで負けるわけにはいかん!」

毅然とした態度でそう言うと、杖を天に突き上げる。


「皆の者、顔を伏せよ!――行くぞ!?#聖光__ホーリーライト__#!」

無詠唱で紡ぎあげられた聖光。視界が一瞬だけ光に包まれる。

しかし、光が消えても魔導具は涼風を発してくれない。


「何と・・・儂の魔力よりも多くの魔力を使っているというのか・・・」

父上の声が絶望に染まった時、一人の男が指輪を嵌めた手を突き上げる。

「我に眠る魔力の根源、魔力よ!広間に集いて聖光となれ!#聖光__ホーリーライト__#!」

謳いあげるような詠唱の後、先ほどよりも強い光がチラつく。


――それらが全て終わった後、会場を涼風が支配した。

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