『24、お披露目パーティー⑤~リレン王子の毒殺未遂~』

厨房に入ると、グリーソンさんを筆頭に、料理人たちがボウルなどの準備をしている。

「グリーソンさんたち、準備をありがとう」

「ああリレン王子、あっちで早速作りましょうか」


そう言って指された調理台の一角を見てみれば、タルトの材料がしっかりと準備されていた。

さながら調理実習のようだな。


そこから俺は2刻くらいかけて、ひたすらタルトを作り続けた。

ひたすら同じ作業ばかりで気が狂うかと思ったわ。

ただ、昨日の劇についての面白いことも分かった。


実は黒の影のリーダーはグリーソンさんだったのだそう。

しかし彼は“別の人物”に操られていただけで、実際は心優しき聖騎士の青年。

そこで父上が料理の腕を高く買い、料理長として雇ったのだそうだ。

料理長の仕事自体が罰則のような感じではあるものの、特に不満は無いらしい。


ちなみに“別の人物”は、騎士と聖騎士が総出で探したものの、尻尾すら掴むことは出来ずこの事件は闇に葬られた。

恐らくは“別の人物”=今回の事件の依頼者なのではないだろうか。

目的は不明だが、人を操るという点に関しては両依頼者は一致して長けている。


このような分析をしながら飾りつけをすること1刻ほど。

ついに250個のフルーツタルトが完成したのである。


正直このまま布団に転がってしまいたいが、時刻は既に17鐘を回った。

昨日と同じく18鐘にはパーティーが始まってしまう。

今回は堅苦しい入場と初めの挨拶が無いので、幾分かは楽だが。


そして18鐘を示す鐘が王都に鳴り響き、2日目のパーティーが始まる。

昨日と同じく赤い椅子に座っていると、イグルがやってきた。


「依頼者が仕掛けて来ないのが不気味だな。何を企んでいるんだか・・・」

「そうだね・・・。イグルの闇魔法はまだ解けていないの?」

「まだだな。だがアイツの言葉を信じるなら、今日に何かしら仕掛けてくるはずだ」

すると横からキトが現れ、イグルに二言三言耳打ちして去っていった。

心なしか顔が青ざめている気がした俺はイグルに問いかける。


「ちょっと大丈夫?顔が青いよ?」

「――俺宛てに脅迫文が届いたらしいんだ。“リレン王子に近づくな”ってな」


俺に近づくな?魔法対決を警戒しているのだろうか。

いやそれはない。全属性を使える父上の方が、数倍面倒なはずだ。

ならばどうしてイグルを?イグルに使える技といえば・・・。


「リレン、危ない!光の矢<フラッシュアロー>!」

父上が叫んだかと思うと、1本の光る矢が俺の真横を通過。

こちらに向かってくる黒い矢と衝突し、両者が粉々に砕け散った。


そうか、イグルに使えるものは光魔法だ。確か闇の魔力を感知できるんだったか。

「ねえ、何で光魔法の使い手は闇魔法の魔力を感知できるの?」

「光と闇、それぞれの魔法の使い手が同じ陣営にいた場合、光が気を付けないと闇を潰してしまうからな。それが原因だと言われている」


それだ。依頼者は恐らく、イグルに闇の魔力を感知されるのを嫌がっているんだ。

ならば襲撃方法は強力な闇魔法だと分かる。

人1人を死に至らせることが出来るほど魔力をつぎ込んだ闇魔法。

喰らったら最後、俺は助からないだろうな。絶対、避けて避けまくって生き残ってやる。

決意しているうちに時間は流れ、俺のサプライズの時間となった。


俺は一旦退出し、舞台袖にタルトを配置。一気に舞台上に躍り出る。

「僕からの贈り物は、フルーツタルトです!皆さま、僕の手作りフルーツタルトをお楽しみください。こう見えても、料理には自信があるんですよ?」

自信満々に言い切り、タルトを配っていく。

上級貴族の方々は、相変わらず俺を値踏みするような視線で見てきたが。


やがてそこら中から感嘆の声が上がり始める。

「美味しい!フルーツの組み合わせが秀逸だな」

「中に入っているペーストのようなものも美味しいぞ。上のフルーツを崩さない優しい味だ」

良かったぁ・・・。皆様方には概ね好評なようだ。


「私どもの果物が美味しいタルトに・・・。果物屋、冥利に尽きますよ!」

「あ、レシンさん。そう言って頂けて嬉しいです」

王都散策の時に、果物をタダで譲ってくれた果物屋店主のレシンさん。

その代わりに、王城のパーティーに参加してもらった。喜んでもらえたのなら何よりだ。


ホッと胸を撫で下ろしていると、ドサッと何かが倒れる音が響いた。

振り返ると、フログが白目を剥いて床に倒れている。

その手にはフルーツタルトが握られており、一口齧られていた。

おい・・・この状況マズくないか?まるでフルーツタルトに細工がされてたみたいじゃん。

待てよ。これが依頼者の闇魔法だとしたら・・・フログの命は・・・。


「おいフログ?どうした?返事をしろ!」

慌てたようにボア伯爵が揺さぶるが、全く反応を示さない。

その時、事態を聞きつけたらしいキトが一目フログを見下ろし、一言呟いた。


「中級魔法、茨の毒・・・。解毒は教皇様でもない限り無理でしょう」

会場が絶望の色に染まっていく。やっぱり依頼者か・・・。


茨の毒は闇属性の中級魔法で、茨が侵食するようにジワジワと命を蝕むことからこの名が付いた。

解毒は比較的難しい方だが、教皇様で無くとも普通に解けるだろう。


「どうして教皇様でないと無理なんですか?上級魔法じゃありませんし・・・」

「魔力が相当使われている。儂の全魔力を開放しても解毒できるかどうか・・・」

父上が苦虫を嚙み潰したような表情で言うと、ボア伯爵がキッと顔を上げた。


「リレン王子、あなたが責任を取って下さいよ!あなたのタルトを食べたから息子はこうなったんでしょう!?もういいや・・・責任を取れ!このクソ王子がぁ!」


血走った目を大きく見開きながら詰め寄ってくるボア伯爵。

言いがかりもいいところだ。全くこの親子は面倒だな・・・。

俺はため息をつくと、真正面から向き合う。


「まず言っておきますが、僕は4歳です。魔法なんて、しかも中級なんて使えません」

「どうせ誰かに頼んだのだろう?貴様ならそのくらいのことはしそうだ」

「誰に頼めと?王城にも闇魔法の使い手は父上しかおりませんよ?それとも貴殿は父上が・・・国王がタルトに闇魔法を込めたと言いたいのですか?」

俺の言葉に、ボア伯爵は口を噤んだ。こうなったら俺の勝ち。


「それにこのタルトは今日の17鐘に作ったもので、今までずっと厨房の冷蔵庫に入れておりました。誰かが闇魔法を込めたのなら、料理長のグリーソンさんの目を盗まなきゃいけません。ですが彼は昨日の劇で見たように元聖騎士。彼の目を盗むなんて芸当、並みの者に出来ますかねぇ?」

謳いあげるように言うと、苦しそうなフログに視線を向ける。


「そんな馬鹿なことを考えている暇があるのでしたら、教皇様に会う手続きでもしたらどうですか?この毒は教皇様にしか解けないのでしょう?」

「そ・・・そうだな・・・」


悔しそうに唇を噛みしめながらフログを抱き上げるボア伯爵。

だが、その行為を1人の男が制止させた。


「待て、その毒、俺なら解けるかもしれない」

その男、イグルが指輪を嵌めた手をフログの胸にかざす。


「我に眠る魔力の根源、魔力よ!心臓に集いて聖光となれ!解毒〈キュア〉!」

詠唱と共に、凄まじい量の光が心臓に食い込んでいく。

顔を顰めながらも魔力を送り続けていると、膨大な光が一気に弾け飛んだ。


その瞬間、フログが意識を取り戻す。

「あれ?確かタルトを食べたら急に胸が苦しくなって・・・」

「フログ、良かった!毒が解けたのか!」

歓喜の涙を流したボア伯爵がお礼を言おうとイグルに視線を向ける。


しかしイグルは目線の先にはおらず、近くの椅子にぐったりした様子で座っていた。

「イグル様、ありがとうございます!何とお礼を申し上げたらいいのやら・・・」

「お礼はいいからあっち行っててくれ。魔力がごっそり減ってキツイ」


その意思を汲み取って退散しようとするボア伯爵たちを俺は引き留める。

「ちょっと待ってください。今回、俺とフログくんを襲った犯人を明らかにします」


全員の視線が突き刺さる中、俺は大胆不敵に笑った。

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