第9話 爽やかな声のとりめしや…
私は、探していた…
ちょうどお昼時だったので、ランチを食べれる店を車に乗りながら、探していた…
国道沿いには、チェーン店がいくつかあったが、久しぶりに来た田舎町なので、その土地の人がやっているような店に入りたかったのだ…
そして、その町の鄙びた駅の前に一軒の店を見つけた。
私は、すぐに車を停め店の前に立った…
看板には、「播州三木のとりめしや」と書いてあった。
その店は、とりめしをテイクアウトも出来るし、店の中でも食べれるという店であった。そして、昼時はランチメニューもあり、ランチメニューが店頭のボードに書いてあった。
「日替わり定食(豚ロースの生姜焼き)680円、とりめし定食 500円、ひね丼 500円、冷やしうどん400円、カレーライス 500円」
私は、とりめしやなんだから、この中だとさすがにとりめし定食かひね丼だけど…中に他のメニューがあるかもしれないので、中で決めようと思った。
私は店のドアを開けて、中に入った。
店内は、お洒落な感じでテーブル席が3つあり、2つは4人がけのテーブル席で、もう1つが店の中央に大きなテーブル席があった。
店内には、お客が2人いた…4人がけテーブルに1人と中央の大きなテーブル席の端に1人…私は、中央の大きなテーブル席の先客と対角線の席に座った。
私は、テーブル席に置いてあったメニューを見た。私がメニューを見ていると、中肉中背の40才前後の女性店員が音も無く現れ、私が座った席の少し離れた所に音も無く水の入ったコップとお手拭きを置いてから、二歩下がり直立不動で何も言わずに立っていた…
私は、メニューのとりめし定食の説明が気になっていた…そこには、とりめし2個・ミニうどんと書いてあった。
私が気になったのは、2個という部分である。とりめし2個って何だろう?とりめしって茶碗に入ってないのかな?
この店は、とりめしやなんだから、やっぱりとりめし定食を頼もうと私は決めた。
直立不動で立っている40才前後の女性店員に私は言った。
「とりめし定食、お願いします!」
「あっ、はい…」
女性店員は、少しオドオドしながら返事して、厨房に消えて行った。
私は、店内を見渡すと内装がかなり真新しかった…この店は、どうも最近出来たばっかりなのだろう…
「だから、店員もあまり慣れていないんだろうなぁ〜」と私は、心で呟いた。
そして、私は何気なく厨房の方を見た。すると厨房の中から、どう見てもヤバい系のかなり怖い顔をした男がこちらをジッと睨んでいた…私はエッと思い心で叫んだ!
「めっちゃ怖い…なんで睨んでるんだよ〜!」
私は、その男の顔をもう一度見た。やっぱり、こっちを睨んでいる…だが、よく見ると目線が私より少し上にあるような気がした…私は、恐る恐る私の席のすぐ後ろの壁の方を見上げた。
そこには、壁掛けのテレビがあった…どうやら、テレビを観ていたらしい…
やがて、先程の女性店員が「とりめし定食」を持って来て、
「お待ちどうさ…。」
ほとんど聞こえない声で言った。
私は、「とりめし定食」を見て、先程の疑問が解けた…とりめしは、茶碗に入っているのではなく、おにぎりだったのである。
私は、とりめしのおにぎりを一口食べた…鶏肉の甘辛い味とゴボウのシャキッとした食感が融合して、実に旨い!
次にうどんを食べた。うどんは、とろろ昆布の入ったうどんであった…うどんも出汁も普通だが旨かった。
「とりめし定食」は、かなりシンプルな感じであったが、意外に旨かった。価格も500円税込だし、リーズナブルであった。
私は、思った以上に満足していた。
そして、私は立ち上がり、厨房に向かって言った。
「ご馳走さま!」
すると、女性店員が小走りにレジに向かい…
そして、ほとんど聞こえない声で言った。
「500円で…。」
私は、500円を支払うと言った。
「美味しかった。ご馳走さま。」
女性店員は、ニッコリ笑った…凄く綺麗な笑顔であった。
私は出口に向かった。
すると、私の背中に向かって、中肉中背の40才前後の女性店員のハッキリ聞こえる声がした。
「ありがとうございました!」
そして、そのすぐ後に
「ありがとうございました!」
という男性の爽やかな声も聞こえた…
その店にいる男性は、1人しかいない…
あの怖い顔の男の声は、意外にも爽やかであった…
店の外に出ると爽やかな風が私の頬を撫でた…
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