第8話 「後ろから失礼します。」で始まって、やってしまった夜…

 私は、事務所を出るといつものように、妻に電話を掛けようとした…


 だが、ハッと気付き…そして、やめた…

 そう…今日から妻は、家に居ないのであった。

 私は、そのまま電車に乗り、自宅の最寄り駅で降りた。改札を抜け、左に曲がって駅を出た。ふと見ると、そこには梅川ちゃんが立っていた…

「梅川ちゃん、退院したんだ…良かったね!お帰り!」と私は、心で呟いた。

 綺麗になった梅川ちゃんが、ニッコリ笑った…ような気がした…


 私は、そのまま真っ直ぐ北に向かい、家に帰った…

 家には鍵がかかっており、私は持っていたキーで玄関の戸を開けて家に入った…

 家の中は、ガランとして誰も居なかった…


 私は、玄関にかけてある自転車の鍵を取り、すぐに出かけた…

 自転車に乗って冷んやりとした空気の中走るのが気持ち良かった。


 5分程で、目的の店に着いた…

 店の前に自転車を停めて、私は入口に立った。店の看板には「すし久」と書いてあった。


 私は、入口の引き戸を開けて、中に入った。

 すると、カウンターの中には、誰もいない…

 奥の厨房に中島君という店員がいるのが見えた。

 私は、「こんばんは!」と声を掛けた。

 すると中島君は、

「いらっしゃいませ…」と返事した。


 そして、誰もいないと思っていたカウンターの中から、マスターが立ち上がり

「いらっしゃい!」と私に声をかけた。


「今日は、2人?」とマスターが言う…

 私は、「1人です…」と返事した。

 マスターは、

「左から2番目の席に座って!瓶ビールでいいかな?」と言って

 私は、「はい…」と答える。


 マスターは、奥の中島君に言った。

「中島!馬場さんに瓶ビール!」


 すぐに中島君が瓶ビールと冷えたグラスを持って来た。

「後ろから、失礼します。瓶ビールです…」


 私は、グラスにビールを注ぎ、一気に喉に流し込んだ…

 冷えたビールが旨かった…


 すると、また中島君が現れて、

「後ろから失礼します。突き出しです。」


 突き出しは、ホタルイカの沖漬けであった…

 1つ箸でつまんで食べてみる…

「やっぱり旨い!」

 私は心で呟いた…


 そして、マスターに言った。

「お造り3種盛り」

「はいよ!」マスターは返事した。


 数分後、中島君がやって来た…

「後ろから失礼します。お造り3種盛りです…」


 お造り3種盛りは、本マグロとサーモンとブリであった。

「これで500円は、やっぱり安いなぁ〜」

 私は、呟いた。


 私は、半分食べたところで、マスターに次の注文をした。

「天ぷらの盛り合わせをお願いします。」

 マスターは、奥の中島君に言った。

「中島!天ぷらの盛り合わせ!馬場さんとこ…」


 私がお造り3種盛りを食べ終えた頃、中島君はやって来た…

「後ろから失礼します。天ぷらの盛り合わせです。」


 私は、まずタコの天ぷらを箸でつまんで口の中に入れた。タコは、プリプリで最高に旨かった。私は、すかさずビールを流し込んだ…最高に幸せな気分になった。

 私は思わず言った。

「マスター、この天ぷらめっちゃ旨い!」


 マスターは、言った。

「中島の奴、また手を抜いたなぁ〜!中島は、真剣にやるとダメなんだよ。あいつは、適当にやった方がいいんだよなぁ〜」


 私は、天ぷらを食べている途中である事が頭を過ぎった。そして、メールした…

「今日、店に出てるの?」

「ママ同伴なんで、私は7時から店に出てるよ!」


 私がメールした相手は、たぁこであった。

 たぁことは、あるスナックで夜働いている女性である。


 私は、メールに返事した。

「行くわ。」


 そして、私は天ぷらを食べ終え、3本目のビールを飲み干してから、マスターに言った。

「マスター、ご馳走さま!お会計お願いします。」


 私は、会計を済ませ、外に出た。

 外は、すっかり日が暮れて暗くなっていた…


 私は、自転車に乗り、次の店に向かった。


 5分程でその店に着いた…

 その店とは、「スナック純」である。


 店に入ると、業者の人が2人いてカラオケの機械を確認していた…

 そして、カウンターの中には、美人風の美人従業員がいた。たぁこである…

「いらっしゃい!ちょっとカラオケの調子が悪いので見てもらってるの…」


 私は、カウンター席に座った…


 カウンターには、私のボトルが出ていた。

 このボトルは、3月にホルモン屋の店主ちゃーちゃんと来た時に4月のちゃーちゃんの病院の検査が良かったら、一緒に飲もうと思ってキープしたボトルである。

 だが、検査結果が悪かったので、そのままになっていた…このままにしていると縁起が悪いので、今日このボトルを飲み干して新しいボトルをキープしたかったのである。


 それで、私は言った。

「今日このボトル、封切るわ!全部飲んでしまいたいから、たぁこも一緒にこれ飲んで!」

 たぁこは、水割りを2つ作り、そして乾杯した…


 やがて、業者の確認は終わり、マイクを新しい物に交換して、帰って行った。


「新しいマイクの封切りに歌うわ!」と私は言って歌い始めた…


 そして、何曲か歌った後、たぁこが言った。

「あゆみんが、友達と2人で来るみたい…」


 数十分後、2人はやって来た…

 入口のドアが開いて、メガネ美人の女性とポッチャリ風ポッチャリ女性が入って来た。

 ポッチャリ風ポッチャリ女性の方があゆみんであった…


 そして、そこからのことはあまり覚えていない…


 ただ、あゆみんが来て嬉しかった事と楽しかった事とボトルを飲み干して、新しいボトルを入れた事だけは、覚えている…


 気がついた時、私はいつの間にか店のカウンターで眠っていたみたいであった…時間は午前1時を回っていた…

 私は慌てて、言った。

「お会計お願いします。」

 するとママが言った。

「先程、頂きました。」


 知らない間にママが出勤していた…

 会計をした後、私は寝ていたのだろうか?

 私は、

「帰るわ!」と言って店を出た…


 そして、自転車に乗って帰路に着いたと思われる…その後の記憶もない…


 だが、次に意識が戻った時、私は家のベッドの上で寝ていた…時間は、午前5時であった。

 私は、慌てて風呂に入った…


 湯船に浸かりながら、私は呟いた…

「やってしまった…」

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