第6話 胡麻油で揚げる天ぷらの店

 私は、電車に飛び乗った…


 定時で仕事を終えると私は、急いで駅に向かい、駅のホームに入って来た電車にギリギリ間に合ったのだ…


 次の駅で私は降りると急いで改札を出た…

 そして、駅を出ると私は、梅川ちゃんに声をかけた…

「梅川ちゃん、明日から入院頑張れ!」

 梅川ちゃんは、微笑んだ…気がした…


 私は、駅からの歩道橋をいつものように北に向かったが途中で、東に曲がった。

 そして、少し行ってから下に降りる階段を降りた…

 一階に降りて、また北に向かって私は歩き始めた…TSUTAYAの前を素通りして更に北へ歩くと、商店街があり、その入口付近にその店はあった。

 店の看板には、「食事処 大川」と書いてあった。この辺りでは、珍しい本格天ぷら屋である。


 この店は、以前からたまに天ぷらを食べに行く店であった…

 今日は妻が芦屋の病院に行くので、夕食を一人で食べる日だった…


 私は、朝からこの店に来る事を決めていたのである。


 店に入ると、60代の女将が無表情で迎え入れてくれた。

「お一人様でしょうか?」女将は聞く…

 私は、「一人!」と答えた。

 女将は、

「では、こちらでお願いします。」

 と言って、カウンターの1番奥の席に案内してくれた。


 私は、「お得セット!生ビールで…」と注文した。

「お得セット」とは、天ぷらの盛り合わせと1ドリンクのセットで1000円というお得なセットであった。


 その店は、カウンターが4席とテーブル席が5つという割と小ぢんまりとした店であるが、店員は厨房担当の店主とフロア担当の女将の夫婦2人という店である。


 少しして、女将が天ぷらセットのトレーを持って来て私の前に置く…トレーには、塩の入った皿と天つゆの入った小鉢と天ぷらを置く台が乗っていた。もちろん、天ぷらはない…これから揚げるのだ…


 女将は、「生ビール、入れますね!」と言って、ビアグラスにサーバーから生ビールを注ぎ始めた。

 そして、「お待ちどう様」と言って生ビールのグラスを私の前に置いた。


 私は、一口生ビールを喉に流し込んだ…

「旨い!」と私は心で呟いた。


 店主が、カウンター越しに天ぷらを揚げ始めた…この店は、油にこだわりがあり胡麻油を使っている。

 胡麻油の香ばしい香りが漂う…

 そして、店主は私の天ぷら台に揚げたての天ぷらを並べた…

 店主は、並べながら言った。

「ナスとイカとシシトウでございます…」


 私は、まずシシトウを箸で摘み塩につけて口に運んだ…一口噛むとサクッという音がした。私は、すかさずビールを飲む…最高の気分であった。


 私がイカを食べている途中で店主が、次の天ぷらを私の前に並べ始めた。

「キスとカボチャと海老でございます…」


 私は、天ぷらを味わいながら、ゆっくり食べて行った…生ビールもそれに合わせて、ゆっくり味わいながら飲んで行く…


 私がこの店に入った時には、この店には客がテーブル席に2人とカウンター席に2人しかいなかった。だが、私が天ぷらを食べ始めた頃から、急にお客が入り始めて気がつけば、超満員になっていた。

 私は、お得セットを食べた後、何品か頼んでビールも結構飲むつもりでいた…だが、一気に20人近く入って来たので、厨房はパニック状態になっていた…たぶん、お得セットを食べた後、注文してもしばらく出て来そうにない感じであった。


 私は、仕方なく天ぷらを食べ終えて、ビールを飲み干してから、女将にお会計をお願いした…会計を済ませると女将は、「ありがとうございました。」と申し訳なさそうに言う。

 店主も忙しい厨房から「ありがとうございました。」と言った。

 私は、「ご馳走さま…」と言って店を出た…


 私は、思った。

「お得セットだけで帰るのも悪く無い…」


 外は、日が暮れかかっていたが、まだ明るかった…

 風も少し吹いていて、気持ち良かった…

 少しほろ酔いも気持ちいい…


「コンビニでつまみ買って、家で録画しているドラマを観ながら、飲み直すか!」

 と私は心で呟きながら、コンビニに向かった…

 私の足取りは、軽かった…




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