第3話 雨の夜の幸せな時間…

 定時が過ぎて私は事務所を出た…


 雨がパラついていたので、私は事務所に置いていた傘を持って出た…

 そして、私は妻にいつものように携帯で電話した。

 妻は、すぐに電話に出た。

「はい。」

 私はいつものように聞いた。

「なに?」

「えっ、なにって何?」

「だから、晩ご飯なに?」

「この前、言ったでしょ!今日、病院…」

「あっそうだった…じゃ、ご飯食べて帰るわ」

 私は、電話を切った。


 数日前に妻から、今夜は芦屋の病院に行くので、夕食を一人で食べるように言われていたのを私は、すっかり忘れていたのだ…


 だが、今夜は夕食をどこで食べようかと考えるだけで私はウキウキしていた…久しぶりの一人夕食であったが、その日は月曜日。私の知っている店は月曜日が定休日の店が多い…

 一瞬、月曜日が休みでは無い頑固オヤジのたこ焼き屋が頭を過ぎったが、今から行くと着くのは19時前ぐらいになる…たこ焼き屋は19時閉店なので、やっぱり無理である…


 いろいろ考えているうちに家の最寄駅に電車が着いてしまった。

 そして、私は決断した…


 私が決断したのは、コンビニで惣菜を買って家呑みする事であった。その方が溜まっている録画したドラマも観れるし、飲んだ後家に帰る心配もない…


 改札を出た私は、駅の構内にあるコンビニに入った。このコンビニは、品揃えも豊富なので、いろいろ迷ってしまうが…私は4品選んだ…「鯖の塩焼き」「ふんわり玉子ときくらげの中華炒め」「淡路島産新玉ねぎとおかかのサラダ」「パストラミポークのポテトサラダ」である。


 私は、レジでプリペイドカードで精算して店を出た。駅の出口で私は、いつものように梅川ちゃんに「ただいま!」と呟いてから、北に向かって歩いた。すると前からノシノシ歩いて来る人に気が付いた…私は、危ないので避けようと思い、横にズレた。するとその人は、こちらをギロリと見て立ち止まった。


 私は、恐る恐るその人の顔を見た…その人は、私の妻であった。


 妻は、こちらを見ていつになく和やかであった…多分、私の持っていたコンビニの袋に気付いたからである。

 私が、コンビニで惣菜を買っているということは、真っ直ぐ家に帰るということを悟ったのである。

「今日は、飲み歩かないつもりだなぁ」と思って、自然に和やかな顔になったのであろう。


 そのまま家に帰った私は、まず風呂のスイッチを入れて風呂を沸かした。

 いつもは、先に夕食を食べてから風呂に入るのだが、今日は何故か風呂に入ってサッパリしてから、家呑みしたかったのである。


 風呂から上がった私は、身体を拭いた後パンツとパジャマのズボンをはいて、シャツを着た。

 そして、買って来た惣菜をリビングのテーブルに並べ、鯖の塩焼きと中華炒めをレンジで温めた。

 それから、冷蔵庫から缶ビールを出してリビングに持って来た。

 すると、風呂上がりなので、汗が吹き出て来た…私は、無造作に近くにあったタオルで汗を拭いた。拭いてから、そのタオルがやけにカラフルなのに気が付いた。


 そのタオルは、先日行った居酒屋さんで貰ったタオルであった…

 私は、その居酒屋の甘い玉子焼きと野菜チーズ焼きが好きでよく行くのである。その居酒屋には、長身の美人風玉子焼き名人がいて玉子焼きが兎に角絶品なのである。

 そして、その店には、もう一人ユリちゃんではないスキンヘッドの男がいて、玉子焼き名人によく怒られている…それがマスターである。

 その2人に惹かれてみんなその店に通うのでいつも店は賑わっている…

 その店の名前入りタオルを持っていることがこの街では、一つのステイタスになっている。

 その店の名前は、「リトルキッチンかなちゃん」である。


 汗を拭き終わった私は、缶ビールを一気に乾いた喉に流し込んだ…

「クッー!」私は思わず唸った!


 最高に幸せな瞬間である…


 それから、鯖の塩焼きを箸でほぐして口に入れる…鯖の旨みが塩で際立って口の中に広がる。すかさず、私はビールを流し込む…

「旨い!」私は叫んだ!


 次に中華炒めを箸でつまんで、口に運ぶ…ふわふわ玉子と豚肉とキクラゲの融合した旨みが口の中に広がる…すかさず、私はビールを流し込む。

「ウッ旨すぎる…」私は呟きながら、感動していた…


 私は、録画していたドラマを観ながら、旨いコンビニ料理を堪能していた…私は幸せであった…


 だが、そんな幸せな時は、いつまでも続かないのであった…


 私が、2本目のドラマを観終わった頃、玄関で物音がした…


 私の夢のようなゆったりとした時は、玄関の戸が開くと同時に終わりを告げた…私は、飲みかけていた缶チューハイを一気に飲み干して、コンビニ袋に食べ終わった料理の容器と使っていた割り箸を入れてキッチンのゴミ箱に捨てた。そして、ビールとチューハイの空き缶を空き缶入れのゴミ袋に入れて全てが終了した。


 私は、1人のゆったりとした時の余韻を楽しむように、寝室のベッドにゴロンと寝転んだのであった…


 いつの間にか外の雨が強くなっていて寝室の窓に雨が打ち付ける音が聞こえていた…




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