あの星と生命

やぎしろ

第1話

何故だかは分からないけど、会いに行かなければならないと思った。


遠くにいる君に会うために、僕は生まれてきたんだと間違いなくそう思った。


「日が落ちるまでに、海を渡って」と、神様がそう言った。

そうするしかないなと僕はふやけた足で海の上を歩く。


この長い長い水面を歩いて、空に浮かぶ星へ向かわなければならないのだ。


それは果てしないことで、不可能なことだった。

ふと、水面を歩くことが出来る自分を不思議に思った。


夢な気もしたけど、足の裏へ伝わる海の冷たさが現実だと言っているようだった。



どれほど歩いたか、まだまだ星は遠い場所にある。

あぁ届かないなと思った。僕のこの足では、君に会いに行くことができないのだと思った。

しかし、足は僕の思考とは裏腹に水面を進んでいく。

ここまで来たのだから、という気持ちが後に引けなくしているのだろうか。


汗もかかないし、疲れもしない。お腹も空かないし、眠気もない。

生きている心地はまるでないが、感覚だけはしっかりと機能している。


きらめく海の冷たさと、正面にある星の暖かさ。どこからか吹いている暑苦しい風と一緒に、磯臭い香り。


初めての場所なのに、懐かしい気持ちになった。自分が生まれた場所のような気がした。

そう思うと涙が止まらなくなった。偉大なる存在に縋りたくなった。


海の上を、不器用に、頼りなくフラフラと歩く僕を見ている人も、星も、きっと居ない。


気がつけば、空は赤くなり、僕が目指す星も、半分しか顔を出していなかった。



こんなにもこんなにも歩いたのに近づくことさえできないのだから、もう無理だと思いそのまま座り込んだ。


世界が反転し、指先から気泡が空へ向かって飛んで行った。

ああ沈んでしまったと理解ができたが、息が苦しいわけではないし、目が開けられないわけでもなかった。


足を動かさなくてもただ落ちていくだけなら簡単だなと思った。

今まで頑張って歩いたのだ、少しだけ休んでもいいだろうか。


誰かのために頑張っていたはずなのになぁ。


誰かって誰だろう?







目を覚ますと、そこは確かに目指していたあの星だった。

包まれているような生暖かい風の流れが心地よかった。


ようやく僕は、目的が果たせたんだなと目を瞑った。

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あの星と生命 やぎしろ @yagishiro

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