第47話「キマイラ」⑧
"火の奇跡"によりアンカの群れが焼け落ち、死骸から燃え上がる炎で揺らめく空気の中から現れた1人の女性は、私達のよく知る、意外なお方でした。
「危ない所だったわね。私がいなければあなた今頃プロメテウスのように生きたまま内臓を啄ばまれてるところよ」
そう言いながら、ゆっくりと歩み寄ってくるシャルロット様は四年前にご両親と共にエルサレムへ聖地巡礼に来られた時から大きく変わり、長かった髪も短く切り揃え、雰囲気もなんと言うか、あの時の自らの力への怯えと抑圧された環境への鬱憤も消え、より凛々しく美しく、そしてたくましくなられていました。
「何よ。久し振りの再会なのに黙りこくって。まさかこのハルピュイアの群れに襲われた恐怖で口がきけなくなったのかしら?」
「……こいつらはハルピュイアではなくアンカだ。よく似てるがな」
「あら、口がきけなくなった訳では無いのね」
あまりの突然の再会に驚いていたご主人様ですが、ようやく出た第一声がこれとは。
「……まずは助けてくれた礼を言おう。お陰で助かった。しかしシャルロット様!何故このような場所に、そのような格好で!」
「シャルロット"様"はやめてくれないかしら。私も今や聖ヨハネ騎士団の一員。あなたとは同格の騎士のつもりよ」
「な……ネラ・アンジュー様は認めたのか!こんな危険な真似をする事をっ」
「お父様はあの後フランスに帰ってすぐに亡くなってしまったけど……それでも最期には私の生き方を認めてくれ、騎士叙任をしてくれたわ」
確かに当時シャルロット様は、貴族として生まれながら、騎士になれない事を悔やんでいましたが……まさか本当に騎士に、それもここ聖地で修道騎士になってしまわれるとは……もはやなんでもありのこの地でも、流石に驚かずにはいられません。
「よし分かった。なら様付けも無し、特別扱いも無しだ。聖ヨハネ騎士団とテンプル騎士団、お互いライバル同士といこうじゃないか」
「ようやく私の言ってる事が理解できたようね。ほらさっさと行くわよ」
「行くって……」
「もちろん、この辺を荒らし回る凶暴な怪物退治へよ」
「ではバグラス城に現れたという聖ヨハネ騎士団と言うのも……何故怪物退治なんてする。それも1人で」
「私はそこら辺の男なんかよりずっと強いわ。剣も奇跡の使い方もね。それでも新入りの女ってだけで、誰も私を一人前として扱わないわ。だからこの怪物退治に立候補したの。斬り落とした怪物の首を、連中の前に投げつけてやれば、誰も私の事を半人前なんて言わなくなるでしょ」
かつて危惧したように、シャルロット様はすっかり脳筋に育ってしまったようで。そんな事をしたら、誰も近寄らなくなるのでは。
「……ようく分かった。だが、俺も怪物の首を持って帰らなくては総長に怒られちまう。だから2人で怪物を倒しても、首は早い者勝ちだぞ」
「そうこなくっちゃ!なら怪物を見つけたら競争ね!どちらが先にトドメを刺せるか」
強く、凛々しく、美しく、そして脳筋に育ったシャルロット様。なんだかこの先が心配です。
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