第39話「彷徨える亡霊」⑥

 ヒキガエルの後を追い、盗品を取り扱う店に辿り着いた私達。そこで遂にギルバート様の剣を見つけたのです。店の主人はテンプル騎士団に引き渡し、盗品は全て押収したのですが、私にはどうしても気になる事がありました。


「ご主人様、あのヒキガエルは一体何だったのですか?」


「あぁ、あれはジュヌン、ジンの一種だ。ジンと言うのは強大な力を持った精霊で手懐けられれば大きな見返りが得られるが、なかなか気難しい存在でな。今回もしっかりお願いの"見返り"を取られちまったな」


 あのヒキガエルが精霊だったなんて。確かにグールやらなんやらの怪物が闊歩するこの世の中ですが、まさかこんな身近にもいるとは。


 さて日が落ちた頃、ギルバート様の剣を携えテコアの街の郊外に建つ小さな教会へと来た私達。当時は埋葬権の特権が得られる前でしたので、戦いの戦死者は皆ここに葬られたのです。


「"修道騎士ギルバート ここに眠る"…か」


 木で作られた簡素な十字架が建てられたギルバート様の墓を感慨深そうに見つめるご主人様。心を失っていると言っても、やはり何か感じるものはあるようです。


「ご主人様、そろそろ……」


「そうだな」


 黒い塗料を綺麗に剥がし、元の姿になった剣を墓に立てるご主人様。数歩下がり、それを見つめていると、初めは朧げながら、しかし徐々にと輪郭が形成され、ギルバート様が現れたのです。


「ようやく見つけたぜ、親父の剣」


「ギルバート……」


「すまない、レード。手間を掛けさせてしまったようだな」


「俺の方こそすまない。お前を死なせて」


「何言ってやがる。修道騎士と言えど騎士。戦場で己の意思で死ねたんだ、悔いは無いさ。それに死んで初めてお前の苦しみを知る事もできたからな」


「俺のなんて……」


 次第にギルバート様の身体の輪郭がボンヤリとなり、薄く光に包まれて来ました。


「おっと、そろそろのようだな。最後にレード、お前の探し物は案外近くにあるからな、注意して見た方が良いぜ」


「ギルバート……!」


「あばよ……相棒」


 そう言うと、ギルバート様の亡霊は跡形もなく消え去ってしまいました。どうやら無事に、"天と地を繋ぐ門"を通られたようです。


「ギルバート様も無事天の国に入られたようですね」


「あぁ…そうだな」


 私は後に残されたただただ立ち尽くすだけのご主人様の手を握り話し掛けましたが、ご主人様の顔は晴れません。


「ご主人様!そんな顔でどうするのですか!それではギルバート様のような立派な騎士になれませんよ!」


「うっ……そうだな、その通りだコーディス!よぉし帰って飯食って寝るぞ」


「はい!ご主人様!」


 その日以来、ご主人様のうなされようが少しマシになったのは、大きな前進と言えるでしょう。

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