第38話「彷徨える亡霊」⑤

 ギルバート様の亡霊が無事に天の国へ行けるよう、生前大切にしていたと言う剣を探していた私とご主人様。手掛かりの無い中、何を思ったのかご主人様はヒキガエルを追いかけ始め……


「ご主人様!ご無事ですか!」


 水田に嵌り、膝まで泥に埋まるご主人様。それでも顔は真面目なままです。


「大丈夫だコーディス。それよりもあの方を見失うな」


「あの方と言われましても……」


 ご主人様が"あの方"と呼ぶヒキガエルは、土手でゲーコゲコゲコと愉快そうな鳴き声を上げたままです。その鳴き声は、ようやくマントにサーコート、それにチェインメイルまで泥だらけにして水田から出てきたご主人様を見て、一層大きくなるのでした。


「ご主人様……今日も日差しが強く、暑いのは分かりますが……」


「このイタズラ好き具合、やはり本物だな。目的の物は近いぞコーディス!遅れるな!」


 ご主人様はそう言うと、また跳ね行くヒキガエルの追跡を再開したのです。あぁ戦場でも無いのに、あんなに泥だらけになって……なんて思っているとヒキガエルはとある商店の前で足を止め、2、3回ピョンピョンと跳ねて見せたのです。


「ここか……」


「ここ、とは?ご主人様」


 私の疑問を他所に、店の中へと入るご主人様。すると奥からこれまた小狡そうな男が出てきました。


「お前がこの店の主人か?」


「へへっ、左様でございますテンプル騎士様。何か武器をお求めですかね、へへっ」


「あぁ、戦場帰りなんだが剣を失ってしまってな」


「へへっ、その格好、やはりそうですか。ウチは腕の良い鍛冶屋に作らせたいい剣が揃ってますよ。ところでその戦場とはどちらの方ですかね、へへっ」


「聞いてどうする?行って死体漁りでもするか?戦利品は勝者の物だと知らないのか」


「へへっ?滅相もございやせん。行って埋葬の一つでもしてやろうと……」


 店の主人が言い終わるが早いか、ご主人様はいきなり剣を抜き、切っ先を首筋に突きつけたのです。


「黙れ、ここが盗品を取り扱っている事は調べが付いてる。命が欲しければ盗品保管庫を見せるんだな」


「へっへへ……こっ、こちらでやんす……」


 ご主人様の気迫と剣の鋭さに押されてすっかり神妙になった店の主人。その案内で裏の倉庫へと入ってみると、そこには剣や鎧だけでなく、元の所有者の紋章の付いた盾やサーコートが所狭しと並べられていたのです。


「すごい量ですねご主人様……これ全部盗品ですか……」


「死体に群がるのはグールだけじゃ無いとはな。全くたちが悪い」


 そして盗品の山を登る事一刻、遂に見つけたのです。剥がれた黒い塗料から金色が覗き、刃元にはオブライエン家の紋章が刻印された剣が。

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