第37話「彷徨える亡霊」④

 生前のギルバート様が唯一所持していたという私物、父から贈られた剣が今回の鍵になっていると言う事をハットー様に教えられたご主人様。ハットー様自身は正直言って気に入りませんが、ようやく重要な手掛かりが掴めました。


「戦場に残った死体は後に街を占領したエルサレム王国軍によって葬られたが、恐らくその前に剣は行方知れずになっていたのだろう」


「そしてその剣を探しに夜な夜な亡霊となったギルバート様が現れる……と言う訳ですねご主人様」


「そうだ。だから俺達でその剣を探し、ギルバートの下に返してやれば、あいつは心残りなく天の国へ行けるはずだ」


「そうとなれば早速取り掛かりましょうご主人様!」


 それから私達は目を皿にして、足を棒にして探しましたが剣は一向に見つかりません。諦める気は毛頭ありませんが、日がすっかり高くなり、容赦無い太陽が照りつける中、気がつけば貯水池の側に涼を求めて二人揃って座り込んでいるのでした。


「見つかりませんね……」


「金の装飾が付いた高価な剣だ、戦利品として持ち帰られてたら見つけようが無いぞ」


 そう二人で嘆いていると、一匹のヒキガエルがどこからともなく姿を現し、私達の目の前をピョンピョンと飛び跳ねて行きました。私がその姿をただなんとなく眺めていると……


「これぞまさに天の助けだな。大いなる存在よ、我らに知恵を授けたまえ」


 ご主人様はそう言うと、いきなりそのヒキガエルの前に跪き、恭しく語りかけたのです。


「ご主人様一体何を……」


「コーディス!お前も跪いてお願いしろ」


 訳もわからず言われるままにご主人様に習って跪きますが、ご主人様の変人振りはますます進行してしまったようです。


「私達はギルバートの剣を探しております。何卒我らにお導きを」


 手と膝を付き、頭を下げてヒキガエルにお願いするご主人様。するとそれを見たヒキガエルは、ゲコゲコと鳴きながらピョンピョンと飛び跳ねて行きました。


「追うぞコーディス!見失うな!」


「え?あっはい」


 今はそんな事をして遊んでいる場合でも無いと思うのですが……周囲の人も、ヒキガエルを追いかけているテンプル騎士を見て笑っています。しかしそんな事はお構いなく、ご主人様だけは大真面目な顔をしてヒキガエルを追跡しています。あっ、でもそのまま行くと……


「ご主人様危ない!」


「ぬおっ!」


 なんとヒキガエルを追いかけていたご主人様、水田に足を突っ込んでしまったのです。


「大丈夫ですか!?ご主人様!」


 それを見てゲーコゲコゲコとヒキガエルが愉快そうに笑っているのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る