第3話「グール」③

 お二人が襲撃現場の検分していると、背後から物音がしました。


「グールか!?」


 振り向きざまに剣を抜き、構えるギルバート様。


「グールにしちゃ動きが緩慢だな。出てこい」


 対照的にゆっくり振り返るご主人様。もう少し慌てるべきです。


「おぉ神よ!まさに天の助け!」


 そう言いながら、5人の男女が出てきました。やや裕福そうな身なりからして、聖地巡礼に船で来られた方々のようです。


「ふぅ……次からは心臓に悪くない出方をしてくれよな」


 ため息混じりに剣を収めるギルバート様。


「この惨劇の被害者達か。俺たちはテンプル騎士団だ。何があった?」


 ご主人様の問いに、私達を見て心底安堵したような顔の、中年に差し掛かった男が話し始めました。


「私達は罪の許しを聖墳墓教会で乞うため、フランスから来ました。昨日ヤッファに到着し、今朝聖地エルサレムに向けて出発したのですが、その途上、神をも恐れぬ異教徒の一団に襲われまして……」


 肩を震わせながら語る様から、さぞ恐ろしかったのだろう。


「南方のアスカロンが未だファーティマ朝エジプトの支配下にある以上、ヤッファからエルサレムまでの道は危険だ。おまけに血の匂いにつられて怪物までも出没する。それを丸腰で行くとは……巡礼?殉教に来たの間違いでは?」


「ご主人様!」


 正論ながら、相変わらず場に相応しく無い言葉を吐くご主人様。


「私達には神のご加護があります。神は私達に試練を与えましたが、同時にあなた方と言う救いも与えました」


「その熱い信仰心には感服する。まぁここからは俺たちが護衛に付くから少しは安心してくれ。早速出発だ」


「お待ち下さい!異教徒共に、我々と志を共にするうら若き娘1人と若者が1人拐われてしまいました!荷は諦めますが何卒、神の慈悲によりて助け出して下さいませ……」


 首から下げた十字架を握りしめ、跪いて懇願する男。


「捕虜を探して野盗退治か、巡礼者の保護を掲げるテンプル騎士団としては断れないな、レード」


「どうせ今頃はアスカロンの奴隷商人の下か、鬱憤ばらしに殺され……」


 冷たい目線がご主人様に集まります。


「ご主人様!!」


「はいはい、分かりました、分かりましたよ」


 ご主人様は口ではこう言ってますが、やる時はやると私は信じています。

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