第4話「グール」④

 野盗に拐われた巡礼者を探しに行く前に、私達には差し当たって解決するべき問題がありました。


「死体を火葬するんで、準備してくれ」


「レード……もう少し言い方を……」


 ギルバート様の言う通り、ご主人様の言い方は直球過ぎます。


「何ですと!?そんな神をも恐れぬ所業、まことにテンプル騎士団ですか!」


 キリスト教徒の教義では、復活には肉体が必要となるので、はるばる遠方から聖地巡礼に来るような方々が、火葬に怒るのは当然と言えます。


「このまま死体を放置しておいたら、直ぐにでもグールが集まってくる。奴らは死体だけで無く生きた人間も食うんだが、旅の終わりをグールの腹の中で迎えてもいいのか?」


「せめて土葬に……」


「普段は墓穴を掘り返してる怪物だぞ、埋めるだけじゃ何の意味も無い」


 黙ってしまう巡礼者の皆さん。致し方ありません。あの醜いグールに生きたまま食われるのは、考えうる限り最悪の最期ですから。


  渋々納得した皆さんと協力して死体を火葬した後、隠れて待つように言い、私達は野盗を追う事にしました。


「しかしもしアスカロンにそのまま向かったのなら、かなり急がないと間に合わないぞ」


「いや、相手は薄汚い野盗共だ。まずは荷と捕虜をアジトで山分けにするさ」


 そう言うと、ご主人様は付近の地面を注意深く観察し始めました。


「恐らくこれだな。アラブ馬サイズの足跡が、荷物を載せて走ったためか深く残ってる」


「なるほど、これを辿っていけばアジトに行き着くと言う訳か。何にしても急ぐか」


 早速足跡を辿って行く事にした私達。サラセン人は馬車を使わないため、可能となった追跡法です。


  しばらく足跡を辿って行くと、道を外れ、寂しい一軒家へと着きました。とりあえず近くに身を隠し、様子を伺う私達。家の周辺には、巡礼者の荷物が入っていたであろう箱が積まれています。


「これは、いかにもって感じのアジトだな。さてどうする、レード。野盗の正確な数は分からんが、足跡の数からすると恐らく2人ってことは無さそうだが」


「正面から乗りこむのは危険ですよご主人様」


 いくらお二人共、マントとサーコートの下には鎖を編んだチェインメイルと言う鎧、アクトンと言う厚い生地の鎧下を着用しているとは言え、油断は禁物です。


「そうだな……火を掛けよう。それで驚いて飛び出して来た野盗を斬って万事解決だ」


「!!!何を言っているのですかご主人様!中には捕虜がいるのですよ!火傷や、それどころか焼死されたりでもされたらどうするのですか!」


「あーはいはい、もっと苦労する手を考えるよ」


 全くご主人様は、良心のかけらも無いです。



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