第40話 住むなら持ち家か賃貸か
ジュワ~~
という音と共に、肉が焼けるいい匂いがする。今日は久々の外食。なぜかと言えば、雅様の生誕祭のためだ。何か作ろうかとも思ったのだが、付き合いもある程度長くなると、手料理というものに特別感が無くなってしまう。それに何か理由を付けないと、ちょっと奮発した外食にもいきにくくなってくるし、ちょうどいいタイミングだったのだ。
「何が食べたい?」
という俺の問いに間髪入れず
「焼肉!!」
との答えであった。で、駅から少し離れた商店街と言えるか言えないかの、ほぼ住宅街にある焼肉屋さんにやってきたわけだ。
「ん~~、やっぱりここの焼き肉は美味しいわね! カルビの脂の甘みが口いっぱいに広がるわ!
意外としっかり焼くタイプの雅が待ちきれなかったのか、俺より先に一切れ食べていた。
「だよな、やっぱりこのお店の焼き肉が、このあたりでは一番美味いと思うよ。」
「ん、普通のカルビ頼んでもチョイチョイ上カルビのお肉が混ざっているしね。 ちょっと見た目は悪いけど、味は同じだもの」
そう、おそらく上カルビなどを切り分けた時、形がそろわない等の理由で、切れ端が出るのだと思う。そのあたりの部位が普通(並)のカルビとしても提供されているようなのだ。まあ、確認したわけではないのでホントかどうかはわからんけど。こう言うところは大手の資本が入っているマニュアル化されたチェーン店ではない、小規模店のいいところだと思う。そのためか、駅前でもなく、商業中心地でもない、住宅街の中にあるようなお店が何年も続けられる一つの理由でもあるのだろう。
「さて、俺は次頼むけど、雅はどうする?」
空いたウーロンハイのグラスを傾けながら、雅に聞くと、
「私は紹興酒にする!」
とのお返事が。もう一杯ウーロンハイ飲むつもりだったけど、俺も紹興酒にしようかな‥‥
などと少し悩んでいるうちに
「すみませ~ん、ウーロンハイお替りと紹興酒ください!」
と、雅が注文を済ませてしまった。仕方がなく、
「そういえばさ、この前戸建が良いのかマンションが良いのかっていう話したじゃん? で、思ったんだけど、もう一つ考えなきゃいけないことがあるんじゃないかと思うんだ」
「と、言いまふと?」
雅がふがふがと石焼ビビンバを頬張りながら、聞き返してきた。
「うん、戸建かマンションかという問題も大きいけど、これって【持ち家】を前提とした話じゃない? でも、そもそも家を買うとなるとハードルが高いし、そう考えると、その前に持ち家か賃貸かという検討をすることも必要だと思うんだ」
そういう俺に、
「まあ、確かにそうよね。昔は住宅双六とか言って、賃貸から頭金貯めて、最後は郊外の戸建がゴールみたいな時代があったらしいけど、今は一生賃貸でというライフプラン立てている人も多いでしょうね。あ、ちなみに、うちの父親も引退したら戸建に買い替えるつもりだったらしいけど、最近は結構悩んでいるみたいだし。私が結婚して家を出たらお母さんと二人になるし、そうしたら郊外の戸建より、便利な都市部のマンションのほうが良いのかな~、なんて話もしてたしね」
そこまで言うと、
「お待たせしました~」
と、やってきた店員さんに、
「あ、ウーロンハイが彼で、紹興酒は私にください!」
と、指示を出していた。
「まあ、そうだよな、実際子供が小さいうちに郊外の環境のいいところで子育てしたいと考える人も多いようだけど、その頃って、仕事も丁度一番働き盛りだったりするしな。そういう考えって、昔の【女は専業主婦で家庭に、男は外で仕事をして】という考え方がまだ主流だった時のライフスタイルだったんだろうね。今みたいに夫婦共働きという家庭が増えてくれば、環境のいい郊外の戸建となると、共働きは難しいものな。そうすると、家と職場が近いほうが何かと便利だという結論になっちゃうのかもな」
俺がカルビの追加を頼みながらそう言うと、
「確かにね、実際私もカズ君と結婚した後も仕事はやめないだろうし、そうなると、郊外に戸建というのはちょっと考えにくいわね。まあ、この辺は東京と違って、駅から徒歩圏内でも十分戸建が買えるくらいの価格水準だから、買うとなると、戸建かマンションかは前回検討した項目をよく考えなおしながら選ぶのがいいと思うわ。でも、確かにその前に賃貸か持ち家かというのは考えないといけないわね。闇雲に持ち家のほうが良いという時代でもない気がするもの」
そう言いながら、雅はタン塩を追加で頼んでいた。しかしよく食うな……と思いながら、
「まあね、ほら、最近は不動産の相場が上がったせいかあまり見なくなったけど、数年前、俺が就職したばかりのころは、結構【家賃並の負担で家が買える】なんていう広告も沢山あったしな。でも、あれって実際には違うと思うんだよ。」
そう言うと雅も、
「確かにね~、ああいう広告で言っている【家賃並の負担】っていうのは
【家賃≒ローンの返済額(含む金利)】
という程度の意味だもんね。この前の話でよく分かったけど、まあ、仲介手数料はしょうがないとして、そのほかに『毎年の固定資産税』のほか『何かあった時の修繕費』もかかるしね。あ、あと、忘れたころにやってくるという【不動産取得税】も結構な負担だからね、これはみんな忘れがちだから気を付けないと」
そういう雅に対し、
「そう、それにさらに大きいのが、これはマンションの場合だけど『修繕積立金』と『管理費』が大きいよ。持ち家の場合、これらは自ら負担しなくちゃいけないけど、賃貸の場合、これらは基本的に家賃に含まれるからね。まあ、『管理費』を家賃とは別に請求されるケースもあるけれど、大抵の場合大家が支払う管理費よりは安いみたいだよ。あれって結局家賃の額面を安く見せるための方便みたいなもんだね」
と、俺が答えると、
「確かにね~、うちのマンションも修繕積立金と管理費の合計で、数万円は払ってるからね。いくら賃貸物件だからって、これらの費用が安くなるわけじゃないだろうけど、実際には家賃と別に請求されることってないものね」
「そうなんだよ、そう考えると、特にマンションの場合は、【家賃≒ローンの返済額】で比べるのではなく【家賃≒ローンの返済額+固定資産税(1月当たりの負担額)+毎月の管理費・修繕積立金】というくらいで考えないと、本当の意味で【家賃並の負担】とは言えないと思うんだよな」
そこまで話したところで、
「ねえねえ、カズ君、そろそろテーブルの食べ物が無くなってきたけど、追加どうする? 少しおなか一杯になってきた気がするけど、折角だからもう少し食べたい気もするのよね」
と、雅さん。確かに気が付くと、注文したものはあらかた食べつくしてしまっている。しかし、何となくもう少し食べたい気もするんだよな~、滅多に食べにもこれないし。
「そうだな、確かに申もう少し食べたい気がするけど、少し休もうか。話も丁度盛り上がってきたところだし。とりあえず何か飲み物追加しようか?」
そう言うと雅も、
「そうね、次のお酒は何がいいかしら。マッコリも飲みたい気がするけど、あれ甘いから飲むとお腹いっぱいになっちゃうかな~? そうすると、やはりウーロンハイか…… あ!私緑茶ハイにするわ!」
と言うので、
「あ~、最近緑茶は言ってたまに見るな。俺もそれにしようかな? でもジャスミンハイっていうのも気になるしな…… よし、俺はジャスミンハイにしよう。すみませ~ん!」
と、注文も済ませたところで、
「でも、色々考えると、特にマンションに関しては、実は持ち家よりも賃貸のほうがお得かもしれないけど、それって、あくまで【その時の金銭的負担】についての話だものね。確かに経済的な問題はよく考えないといけないわ。ここの見積もりが甘くてローン破綻に
と雅が言うので、
「そうだな。その意味では、ローンの返済額を抑えたり、ローンの返済期間を短く検討するなどの対策も必要んだな」
と言うと雅が、
「そうなのよね~、最近の住宅ローンって、35年まで組めるから35年ローンで借りる人が多いみたいだけど、これもよく考える必要がありそうよね。たとえば今は定年も60歳じゃなくなりつつあるけど、とりあえず60歳定年で考えるとするじゃない? そうすると、定年までに返せる期間で考えると、35年ローンって25歳で借りないと60歳までに完済できないのよね。たとえば、退職金でローンの残りを返済するという計画立てる人もいるけど、まず、退職金がそんな先の時代にきちんと見込み通り貰えるかというのも不透明だわ。公務員の退職金でもだんだん減らす方向に動いているみたいだからね。一般企業ではもうだいぶ減らされているっていう話を聞くし」
それを聞いて思い出したのが、
「確かに、前にも老後2000万円不足問題が世間をにぎわした時にも話したけど、先のことだからって安易に考えているとその時になって困るものな。実際将来のことがわからないからこそ、慎重に計画を立てることは必要だと俺も思うよ。俺だってそう考えると、35年ローン組んだら60歳までに返済が終わらない可能性があるってことだな。それを避けるためにも繰り上げ返済とうまく考えないといけないだろうな。」
「賃貸と持ち家の一番の違いって、賃貸は一生借りている限り家賃を払わなければいけないけど、持ち家の場合、ローンの返済が終わればさっき言った固定資産税や必要な修繕費の負担位で家に住み続けられるという点よね。経済的に考えると、老後に収入が減った時に家賃を払い続けるのとその負担がないのでは結構な違いになりそうよね」
そういうので、
「まあ、それも大きいよな。収入があるときは気にならなくても老後って必ず来るんだもんな。一方で賃貸の場合は必要に応じて住み替えが身軽にできるというのは利点でもあるよ。たとえば仕事をしているときは職場の近く、子供がいる間は少し広めの家、子供が独立して広い家が必要なくなったら狭い部屋に引っ越すという事がやりやすいよな。
それを聞いた雅も、
「そっか~、言われてみれば確かにそうね、持ち家の場合だと、利息の変動によって返済額が変わることはあっても基本的にずっと同じ額を返済期間中払い続けなければならないし、部屋が余っても住み替えがしにくいというのはデメリットよね~。掃除も大変だし」
と、言いながら、先ほど頼んだ緑茶ハイを美味しそうに飲んでいる。そして、
「あ、ところでそろそろ追加注文しない? たぶん最後だから何にしようか?」
さすが雅さん、食欲はと余らない。まあ、確かに少し話しているうちにおなかもこなれてきた感じがするので、、
「俺はやっぱりカルビがいいかな~。あと、ご飯も食べたいけど、雅は?」
そう問いかけると、
「そうね~、ご飯も少しは食べたいけど、一人前はいらないから、カズ君の少し分けてくれる?」
という事で、注文は俺のカルビ、雅のロース、そしてライスの中に決まった。あ、もちろんお酒の注文も忘れない。
早速注文を済ませて話の続きに入る。とはいっても注文度同じく話もしめの段階だ。
「よく、何かあったら持ち家は売ればいいとかいう人もいるけど、今の時代、買った値段より安くしか売れないこともあるだろうし、最悪はローンの残債より安くしか売れないケースもあるってことだよな」
そう俺が言うと、
「そうよね、よく不動産の買い時は「買いたいときが買い時だ」なんて言うことを言う人もいるけど、ここ数十年の不動産価格の推移を調べてみると、結構上がったり下がったりしているのよね。それに今でこそゼロ金利なんて言われているけど、利息もいつ上がるかわからないし。そう考えると、やっぱり不動産を買うのは不動産の相場が安くなった時を狙うのがよさそうね。相場が高いときは勿論家賃も高いだろうけど、持ち家の場合、相場が高いときに買うと、その時の価額でずっとローンの返済しなきゃいけないという事だもんね。家賃は安くなるかもしれないけど」
と、雅が言うのを聞いて、
「確かにそうだな。バブル崩壊前は土地の値段はずっと右肩上がりだったけど、今は違うものな。相場が上がっているときはあまり焦って買わないほうが良い気がしてきたよ」
そうこうしているうちに最後のお肉とライス、お酒がやってきた。
「さて、これで注文も最後だね。そして、雅ちゃん、改めてお誕生日おめでとう! これからも末永くよろしくね♪」
・・・・・・< END >・・・・・・
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