第29話 フリマアプリと税金

 さてと、とりあえずは長ネギを切るところからだな。あまり厚く切ると火の通りが悪くなるし、食感も主張が強すぎるから、大体厚くても5mm以内にするのが良いだろう。そう考えて、少し斜めの角度を大きく、存在感を残しながら切っていく。


 次は…… 何と言っても鶏肉だ。今日は少し贅沢にモモ肉を使う。そういえば、俺が子供の頃、鶏肉って、ササミが一番高くて、次がモモ肉、最後が胸肉という感じだっと記憶しているんだけどな。たまにお店で出すチキンカツのお肉を急遽買いに行かされたことがあるから間違いないと思うのだが、最近はササミのほうがモモ肉よりも安い。


 おっと、余計なことを考えた。肉は一口大より少し大きく、しかし刺身のように斜めに薄めに切ることで、触感を残しながら噛みやすく存在感も増す。


 そう、今夜のご飯は『親子丼』だ。


 俺がルンルン気分で準備をしていると、後ろから雅が、


「う~ん、また買っちゃった……」


 というので、


「どうしたんだい雅? 買っちゃったって洋服か何かか?」


 そう背中越しに声をかける。そうしながらも俺は手を止めない。因みに親子丼のキモはタレなのであるが、これは実家秘伝の配合割合で事前に割り下わりしたを作ってある。醤油と砂糖と…… おっと、これは企業秘密だった。


 そんなことを考えながら小さめのテフロン加工のフライパンに割り下を入れて、水で3倍に薄める。すると、


「洋服もだけど…… 今回はバッグかな。いけないとは思いつつ、つい買っちゃうのよね~」


 そんなことを言っているので、俺は割り下の中でいい塩梅あんばいに火が通った長ネギを確認しながら鶏肉を追加していく。そして、


「まあ、女の人って、カバンとか服とかホントよく買うよね。確かに男性モノに比べて流行の変化が早いというのもあるけど、買ったものがたまっちゃうのが問題だよな」


 俺がそういうと、


「そうなのよね~。そろそろ本格的にしまう場所がなくて部屋にあふれてきそうだわ」


 などと雅が言うので俺は、


「もう使わないものもあるんじゃないか? そういうのを売っちゃったらどうなんだい? 俺は使ったことないけどフリマアプリみたいなのが結構流行ってるみたいじゃん。写真なら俺が撮ってあげるよ」


 と、おすすめしてみたのだが、雅の返事は、


「それも考えたんだけどね~。やっぱり女性モノって流行があるから、シーズンが変わると結局売値も二束三文だったりしちゃうのよね。それに、写真はカズ君がきれいに撮ってくれても、アプリに登録したり、実際売れた時に梱包して発送してとか考えると、そこまで手をかけてられないというか…… あ、あと税金の心配とかもあるのかと思ったら、やる気が起きないのよ」


 そう言うので、


「まあ、確かに手間はかかりそうだね。手数料も10%程度かかるしな。でも、


 と答えたら、


「え!? フリマアプリ使って物を売っても税金かからないの!?」


 などと驚いている。しかし、そんな雅に俺は、


「いや、厳密に言うと、フリマアプリでの売買に税金がかからないわけじゃないんだよ。それについては、実は大学のころ同じサークルの友人に聞かれたことがあって調べたんだ」


「で、具体的にはどうして税金がかからないの?」


 と、雅がせかすので、


「ちょっと待ってて、もうすぐご飯ができるから」


 そういうとお椀に溶いた卵から、箸で【白身】の部分だけを先にフライパンに入れる。これは白身のほうが固まる温度が高いため、黄身と一緒に入れちゃうと黄身が固くなりすぎてしまうからだ。そして、白身が固まってきたところで、黄身を入れ、火を消す。あとはご飯を丼によそっている間に余熱で軽く黄身に火が通るのだ。また、テフロンのフライパンは優秀だ。卵が引っ付かないので、丼ぶりに移すのも楽だ。


 さて、できた丼をもって、雅に、


「とりあえず雅の分ができたから先に食べてて。俺の分も急いで作るから」


 と、言って、キッチンへ戻る。後ろから雅の『美味し~!!』という声を聴きながら、ちゃちゃっと自分の分も作って、雅のもとへ。


「カズ君、この親子丼もおいしいね~。もう、お店出しちゃえばいいのに! あ、でもそれなら実家継げばいいのか」


 などと言っているが、とりあえず俺も、


「いただきます。まあ、実家を継ぐかどうかは俺だけで決められることでもないしな」


 と言って熱々の親子丼を食べ始める。七味唐辛子をかけるのも忘れない。


「さて、さっきの続きだけど……」


 あれ?雅さん、食べるのに一生懸命であまり聞いていないが、構わず話し続ける。


「今回の雅のようにフリマアプリで、売却するものが、自分が使っていた日用品を売却する場合には、税金がかからないという事なんだよ」


 と言ったら、


「日用品? それってどういうこと?」


 と、質問が飛んできた。意外とちゃんと聞いているから雅はあなどれない。まあ、あなどる必要などないのだが。


「これは【所得税法】に決まりがあるんだけどね、自分が使用していたような日用品を売却した場合、30税金がかからないことになっているんだよ」


「う~ん、つまり、逆に言うと自分が使っていたものではない、例えば、友達が要ら無くなったからと売るために貰ったものや、最初から転売目的で買ったものについては税金がかかるのかな?」


 す、鋭いな、雅……


「まあ、簡単に言うとそういうことだね。普段生活に使かっていたものは、儲けるために持っていたわけじゃないから、税金をかけませんというのが趣旨らしいよ。だから、そもそもに友人がいらなくなったものをもらったり買ったりしたものはこの取り扱いにはならないのは当然だけど、仮に日用品であっても売値が30万を超えるものというのは、売った人が日用品と主張した場合に判断が難しくなることもある。それくらいの金額になるようなものであれば、十分儲かっている可能性が高いし、本当に日用品であっても税金の対象にしておけば争いが無くなるという風に考えたんじゃないかな。因みに日用品という事だから、宝石や美術品は含まれないし、俺の父親のように商売している人間が、商売で利用していた、まあ、あまり考えられないけど、例えば調理用のを売却した場合には税金がかかるってことだな」


 ちょっと長めの説明を聞いていた雅が、


「なるほどね~。税務署もその辺はちゃんと考えているという事ですか。でも、そう言うのって、税務署もわからないんじゃない?」


 おっと、悪い雅さんが顔を出してるぞ。


「うん、その可能性は高いね。でも、事業者が中古品を取り扱う場合には【古物商許可】が必要なんだ。まあ、これは警察の管轄で、盗品なんかが売買された場合に捜査に必要だから、売主の身元を確認する為にあるんだけど、これらの情報から、税務署が把握することもないとは言えない。それにフリマアプリなどを頻繁に使えば、それだけで誰がどれだけ売ったかの履歴も残るだろうから、まったくわからないという事もないと思うしね」


 そういうと雅は、


「まあ、それもそうね。そして何より、必要な税金をばれないだろうとわざと納めなければ、だしね。最近、お笑い芸人が申告しないで話題になったりもしているし、納税は国民の義務だから、きちんと申告すべきよね」


 そういう雅に続けて俺は、


「まあ、特に雅は公務員なんだから、下手をすれば懲戒免職になるかもよ? それっぽっちのことで処分されるのは馬鹿らしいよ。そもそもからね」


 そこで急に雅が、


「あ! そう言えば、カズ君、学生の時から写真のブログやってるじゃない? あれで前にアフリエイトでお金がもらえたって話していたけど、あれってどうなってるの?」


 と質問してきた。


「あ~、あれな。所得税の申告はしたことないよ」


 と答えたら、


「あれ? アフリエイトの収入って、税金からないの?」


 というので、


「……いや、アフリエイトやYouTubeなんかでの収入にも税金はかかるよ。一般的には雑所得、人気ユーチューバーなんかだと事業所得の場合もあると思うけど。俺が税金納めていない理由はだよ。月に数千円じゃあね」


 それを聞いた雅が、


「あれ? 学生の時はもっと儲かってたんじゃない? それに、さっきの話じゃ、申告しないと脱税だって……」


 と、心配そうにしているので種明かしだ。


「実は所得税にもがあるんだよ。基礎控除って聞いたことないか? 今は年間38万円なんだけど、がそれ以下ならそもそも税金はかからない。それと、もう一つ、調の場合、給与所得以外の所得の合計が20万円以下の場合は申告しなくてもいいという取り扱いがあるんだよ。ただ、気をつけなくてはいけないのは、この場合、所得税の申告を国にする必要はないが、場合があるんだ。実は俺もその分だけは今年も申告したよ」


 それを聞いて雅は、


「ふ~ん、なるほどね。色々と難しいわね。そう言えばたまに市役所にだけ申告に来る人がいるのはそういう事なのね」


 続けて俺は、


「あと、もう一つ、医療費控除とか、申告して税金の還付を受ける場合なんかも、これは申告をするわけだから、いくら少額だからと言って、アフリエイトとかの分だけ申告しないでいいというわけにはいかない。税金を返してくれと言う以上は、納めるべきものもちゃんと申告しなさいという事だね」


 こうして、今夜の話はひと段落したのだった。もっとも、和也達も意識してはいないのだか、副業で給料をもらった場合、社会保障費の負担については、別途面倒なことがあるのだが……



今日の一言:最近は色々な手段で所得を得る機会がある。政府も副業を勧めている位だ。でも、それに対応した社会保障費の負担や納税の仕組みについては、まったく対策がされていないという制度的な問題があるのだ。

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