第28話 お金の機能って何!?
「えっと、カズ君、ひき肉は豚ひき肉でいいのかな?」
「そうだな~、合挽と安いほうでいいよ。それで最後だっけ?」
「餃子の皮がまだよ。サイズはどうする? 私的には大判がいいと思うんだけど」
「う~ん。普通サイズだと少し小さいし、ジャンボだと焼くのも大変だから、俺もやっぱり大判が良いと思う」
もうお分かりのとおり、今日は餃子を作るための食材買い出しの為、近所のスーパーに来ている。買い物籠の中を確認すると、シイタケ、玉ねぎ、キャベツ、ニラ、うん、買い忘れはないな。俺たちは再度買うものの確認を終えレジへ向かう……前に、もちろんお酒を買うのも忘れない。発泡酒にしようかとも思ったが、『やはり餃子という事なら紹興酒でしょ!』という雅の意見を採用した。
さて、帰宅後の仕事はたくさんある! とにかく食材を切って切って切り刻まねばその先の食事にはありつけない! まずは野菜をとにかくみじん切りにするのだ。キャベツから始まり、玉ねぎで目に涙をため、シイタケとニラもすべてみじん切り。あ、しいたけはあまり細かくしすぎると、経験上味に深みが出ないので、気持ち大きめに。野菜をみじん切りするのは意外と楽しい。。因みに餃子はキャベツ派と白菜派、玉ねぎ派と長ネギ派がいるが、俺の好みはキャベツ&玉ねぎだ。まあ、正直そこまでのこだわりはないので何となくなのだが……
すべての野菜を切り終われば、更にひき肉を足し、そこへ下味として、醤油・ごま油・砂糖・片栗粉を適量加える。おっと、ニンニクも忘れてはならない。チューブのニンニクを三分の一から半分くらい入れてしまおう。そして、とにかく
さて、餃子の
「さあ、それじゃ、包んでいきますか」
俺がそういうと、
「お~! 頑張るぞ!」
と雅がやる気満々で答える。ここからは地道な作業になるのだ……が、包み始めてすぐに、
「ねえ、カズ君、そう言えばお金ってそもそも何だろうね?」
おいおい、急に哲学的なことを言い出しますね、雅さん。
「お金ですか、難しいこと言いますね。確かにみんなが当たり前に使っているど、そもそもお金が何かという事をきちんと理解している人はいないと思うぞ」
そういう俺の話を聞いて、
「そうなの?みんな当たり前に使っているのにね」
うん、そうだろう。しかし、なぜ心臓が動いているのかを説明できる人がほとんどいないように、それを説明することは難しい。そもそもお金とは何か、歴史から考えると色々な経緯があるのだが、正直今のお金には実態がないと言えなくもないのだ。そこで俺は、
「そうだな、雅の壮大な質問に答えは出ないかもしれないけど、どうせ餃子を包んでいる間はテレビを見るくらいしかできないし、お金が何かを考えるための前提として折角だから、俺が説明できるお金の機能についての話をしようか」
「うん? お金の機能ときましたか。まあ、そうね。わかっていることから整理していくのって大事よね。う~ん、お金の機能か。普通に考えると、物を買えるってことかな?」
早速そういう雅に対して俺は、
「一つはそれだね。物を買う、つまり、【おカネとモノを交換する】という事だね。一つ目のお金の機能はこの『交換機能』で正解だ。」
これは誰でもが思いつく、そしてお金が持つもっとも重要な機能だ。
「ほかに何か思いつくことはあるかい?」
そう雅に続けて回答を促した。すると、少し考えてから、
「もしかすると、物に値段を付けることが出来る機能かしら? お金があることによって、いくら払えば物が買えるかわかるようになるとか?」
さすが雅、これも正解。
「そうだね、ちょっと言い換えると、【ものの価値をお金という尺度で測定(評価)することが出来る】という事、つまり二つ目のお金の機能は『価値測定機能』だね。あと一つ、一般的にお金が持つ機能があるといわれているんだけど、なんだかわかるかな?」
雅が急に家の中を
「う~ん、駄目ね。あと一つというから、何かヒントになりそうなものが置いていないかと思って部屋中見回したけど、何も思いつかないわ」
まあ、今は、二人で仲良く餃子を包んでいる最中だからね。いろいろなものをいじくったり、部屋中歩き回るわけにもいかない。そこで俺は、
「雅、きょろきょろしているから餃子包むのがだいぶ遅れているぞ。俺はもう一袋目終わったよ。さて、次の皮を持ってくるか」
そういって、キッチンで一度手を洗い、餃子の皮を二袋、更に、グラスに麦茶を二人分用意した。そして、こっそりと、カバンの中から、あるものを取り出して、それも持っていく。
「はい、麦茶でも飲みながら、のんびりやろう。追加の皮も持ってきておいたから」
俺は、何事もなかったかのように元の位置に座ると、餃子の続きを包み始める。雅はまだ、考えているようだ。作業の進みが遅い。そろそろヒントを出してあげるか。と、俺は、机の上にさっき持ってきたものを置いた。それを見た雅は、
「うん? 通帳……あ! そういうことか。えっと、なんていえば良いんだろう……要は貯められるってことだから……貯蓄機能?」
「惜しいな~、意味としてはあっているんだけどね。一応、言われているのは『価値保存機能』かな」
そういうと、
「なるほどね! そのほうが聞いてみてすっきりするわね」
「うん、まあ、各機能を物語風に話すとわかりやすいかな。でも、とりあえず、一度餃子を焼いて来ようかね」
まだ、包まなくてはいけないのだが、焼くのにも時間がかかるからな。まずはフライパンを温め、【ごま油】を
「さて、残りの餃子を包みながら、さっきの三つの機能をかみ砕いて説明してみようか。折角だから、二人で会話系形式で考えてみよう」
すると雅も、
「ほうほう、それは今までと趣向が違って楽しそうですね。それでは和也先生、お願い致します」
そうお
「じゃあ、行くぞ。まずは【交換機能】について考えてみよう。ここはお金がない世界です。
『米農家さんがパンを作りたいと思いましたが、お米しか持っていません。あ、米粉パンなら作れるとかいうのは無しだ。そこで麦農家さんの所へ行きお米と麦を交換してもらおうと思いました。しかし、麦農家さんは別にお米がほしいと思っていません。魚が食べたいから魚となら交換してあげるというのです』
さて、コメ農家さんはどうしますか?」
そう問いかけると、雅は
「そうですね~、
『仕方がないので、米農家さんは漁師さんにお米と魚を交換してもらい、麦農家さんのところへ魚をもって麦と交換してもらいに行きました。無事、米農家さんは麦を手に入れることが出来ました』
めでたしめでたし♪」
というので、
「はい、確かに米農家さんは今回無事麦を手に入れることが出来ました。でも、それは運よく魚屋さんが米と魚を交換してくれたからです。もし、魚屋さんが、コメはいらないからジャガイモを持ってこいと言われたら……延々物々交換の連鎖が続いちゃうよね。実際、物々交換しかできないと考えると、自分の欲しいものがいつになったら手に入るのかもわからないもんな」
そう、欲しいもの同士をうまく交換できるかどうかなんて、これだけ世の中に物があふれると、ほぼ不可能なんじゃないかとさえ思えてくる。さて、
「次は価値【測定機能】についてだな。
『米農家さんはお米 10 ㎏と魚5 ㎏を交換してほしいと思っていました。しかし漁師さんは魚 3 ㎏としか交換しないと言います。困った二人は周りの人にどのくらいの比率で交換すればいいか意見を求めましたが お米10㎏に対し、魚 6 ㎏という人もいれば 2 ㎏という人もいて決まりません』
もしここでお金がある世界なら、米農家さんはどうすればいいでしょうか?」
そう言う俺に雅は、
「そうですね~、
『米農家さんは米 10 ㎏を 5 千円でほしい人に販売し、その 5 千円で買える魚4 ㎏を買うことができました』
めでたしめでたしですね♪」
「ここでは米 10 ㎏=5 千円、魚 4㎏=5 千円という様にそれぞれの価値を貨幣価額で比較することができたという事だね。これが測定機能だ。異なる性質のもの同士を【お金】という貨幣価値で比較することによって、交換を円滑にすることが出来るという事だ」
そう解説すると雅は、
「そう考えると、経済を円滑に回すためにはやはりお金って必要不可欠なものよね」
さて、残るは保存機能だが、どんな話で説明されてたかな? えっと、確か……
「さて、最後は価値【保存機能】ですね。
『今度は漁師さんが大量で魚が 50 ㎏も取れました。漁師さんはリンゴがほしいのですが、リンゴの収穫は半年後です。でも、半年もしたら魚は腐ってしまいます』
さて、お金のある世界では、漁師さんはどうすればいいでしょう?」
さすがに3回目のやり取りにもなると、雅も慣れたもので、
「はい、
『漁師さんは、一度魚を売ってお金に換えておきます。そして、魚の代わりにお金を半年間取っておくことで、半年後にリンゴをそのお金を使って買うことができます』
めでたしめでたしですね♪」
「そう、数日で腐ってしまうかもしれない魚を、その時に欲しい人に売って、魚をお金に換えること、つまり魚とお金を交換することによって、魚の【価値】を半年間保存することが出来たという事だね。もっとも、こういうことが成立するためにも、世の中で一年中何らかの商品が生産され、それが多くの人に行きわたる流通網の存在が前提になるけどね」
そういう俺に対して雅はなんだか嬉しそうにしながら、
「ふふふ、なんだかいつもと違ってこういうのも楽しいわね。できれば小学校の高学年か中学生の特別授業で、生徒たちに軽い寸劇みたいな感じで考えながらやってもらうと、いい勉強になるんじゃないかな」
「そうだな~、確かに俺も大学まで学校でお金に関することなんかは教わった記憶ないし、貯金や生活費について、どれくらいかかるのかとか、どういう買い物が有利なのかとか、ディスカッションするのも面白いかもしれない」
そんなことで盛り上がっていたら、いつの間にか餃子もすべて包み終わった。ん!? 餃子……
「あ! いけない!! 餃子焼いてるの忘れてた!!」
話に夢中で気が付かなかったが、気にしてみると、部屋がそこはかとなく焦げ臭い……俺は慌ててキッチンへ向かうと、フライパンからは煙があふれ出ている!!
「うお! しまった!! 焦げてる!!」
俺はすぐに火を消してフライパンのふたを開けてみると、もうもうとした煙が視界をふさぐ。その中からは、バーベキューでうっかりご食材を焦がしてしまったときに、直接炭へ落として落として、無きものにしようとしているときのような臭いがした。とりあえず、フーフーと、息を吹きかけて煙を払うと……フライパンはべったり真っ黒だが、餃子のうえのほうはまだ真っ白だった。とりあえずガシガシとフライ返しで餃子をはぎ取ると、焦げた皮ががべっとりと、まるで旅館のスリッパのように並んでフライパンに残ったが、本体は何とか食べられそうだ。
それをお皿に盛って、テーブルへ持っていく。
「すまん、雅。とりあえず、上の部分は食べられそうだが……」
何となく、隠していた悪い点数のテストが親に見つかったようなテンションでそういう俺に、
「ま、仕方ないよね。話を振ったのは私だし。今後は焦がさないように気を付けながら、とりあえず、このお尻丸出しの餃子を食べながらビールでも飲みましょっか」
お尻丸出し……まあ、確かに言いえて妙だな。
「そうだね、まだたくさん作ったし、とりあえず乾杯しようか」
そう言いながら、俺は、お酢たっぷり、しょうゆ少々、ラー油たっぷりのタレ、雅は、お酢と胡椒とラー油のたれを作って、パリパリ感の足りない餃子を食べながら、お金についての話を続けるのであった。
今日の一言:お金って、みんなが使う身近なものだけど、その実態はよくわからないモノ。お金の三つの機能は『交換機能』、『価値測定機能』、『価値保存機能』の三つ。知らなくても困らないけど知っておくといいことがあるかもね。
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