第27話 借金が財産ってどういうこと!?

「よし、玉ねぎのみじん切りはこれくらいでいいか」


 今夜のメニューはハンバーグ。とにかく一番面倒な玉ねぎのみじん切りは終わった。俺の好みだが、玉ねぎは少し大きめのみじん切りにし、炒めないで生のまま肉と混ぜるのがカズ君流なのだ。ステンレス製のボールにまずは卵を一個、そこにパン粉を玉子より少し多いくらい入れ、更に牛乳をパン粉が浸るくらい入れて、箸で軽くかき混ぜる。軽く混ざったところでひき肉を入れる。今日は合挽を使っている。やはり、合挽が一番味が出る気がするんだよね。そして、刻んだ玉ねぎとナツメグと塩コショウを適量入れればあとは捏ねて丸めるだけだ。


 俺がせっせとハンバーグをこねていると雅がおもむろに、


「ねえ、カズ君、そう言えば前にリボ払いの話聞いたときに、昔は『借金も財産だ』なんて言う話したことがあったじゃない?あれってどういうこと?」


 そういえばそんな事口走ったな、などと思いながら、


「ああ、そう言えばそんな話もしたな。ちょっと待ってね、今からハンバーグ焼いちゃうから」


 そう言って、ハンバーグの真ん中を凹ませながら、フライパンの上に載せていく。初めは少し強めの火で表面に焦げ目をつけるのがコツだ。あとはソースだな。えっと……


 雪平鍋にソースとケチャップそしてバターを適量入れ弱火で火にかける。バターが溶けたころに、今夜飲む予定で買ってきた赤ワインを少し入れて、軽く煮込めばソースの完成だ。あとは付け合わせのキャベツの千切りとプチトマトをお皿に盛り付ければ、ハンバーグが焼けるのを待つだけ。


「さて、後はハンバーグが焼けるのを待つだけだよ。ワインも買ってあるから、悪いけど雅、グラスとお箸出しておいてくれるか。あ、あと、ご飯もよそってもらえると助かる」


「オッケー!任せて!う~ん、いい匂いがしてきたね!!」


 そう言いながら雅が準備してくれているので、俺はハンバーグを裏返す。うん、良い焦げ目がついた。少し経ったら火を弱めて中まで火が通れば出来上がりだ。あ、そう言えば……


「えっと、借金がなぜ財産なのかという話だったよな。これも爺さんが生きているときに少し聞いた話と、後は大学の時に教授が話していた程度でしか知らないんだけどね。って、そろそろハンバーグが焼けるから、食べながら話そうか」


 気が付くと、ハンバーグからそれなりに肉汁があふれ出してきている。そろそろ良い頃合いだろう。俺は、ハンバーグをお皿に移して、先ほど作ったソースをちょっとおしゃれに盛り付ける。その間に雅がワインもグラスに注いでくれていたので、


「じゃあ、食べようか」


「うん、」


「「いただきまーす!!」」


 と言ってから軽くグラスを『カチン』と合わせる。


「おお~~!切った瞬間、肉汁あふれる、ボリュームたっぷりのハンバーグだね!!ソースもなかなかおいしいよ♪」


 雅が早速ハンバーグを食べながらそういうので、俺は先ほどの続きを話した。


「そうそう、さっきの続きだけどな、基本的に借金が財産だという根拠は大きく二つあったみたいなんだ」


 それを聞いた雅は、


「あった?あるじゃなくて?」


 うん、さすが雅は耳聡いな。


「そう、一つは今もある、もう一つは今はなくなったというべきかな。さて、一つは今もあることと言ったけど、簡単に言うと【信用】だな。ほら、住宅ローンを組むときでも、どこに勤めているかとか、年収がいくらだとか審査があるだろ? これにしても今は公務員が一番信用あるけど、親父の頃はまだまだ自営業のほうが信用があったらしいし、時代とともに変わるな。もっと小さいところだと、クレジットカード作るときも審査があるしね。まあ、クレカの審査は普通に派遣社員でもなんでも仕事していれば今は通っちゃうみたいだけど、初めの頃は厳しかったらしいし」


 それを聞いて雅は、


「なるほどね~。確かに仕事もしていない人に誰もお金は貸してくれないものね。そう考えると『この程度のお金が借りられる程度には、信用がある』と、が証明してくれているという風にも考えられるという事ね。すると今は無いというもう一つは何かしら?」


 うん、話が早い。


「もう一つは高度成長期ならではの理由だよ。たとえば、日本のバブル期の銀行預金利息が5%とか6%だったっていう話はしただろ?その頃のインフレも勿論、相当だったんだってさ。当時は土地神話とか言われて、土地は値下がりしないもの、株価も急上昇だった。つまり、銀行でお金を借りて、株や土地を買うと、翌年にはする。つまり早く買えば買うほど誰でも儲かった。みんながそれを信じて疑わないから、銀行もジャンジャンお金を貸したのさ」


 それを聞いた雅は、


「なるほどね~、確かに預金より確実に土地の価額が上がるなら、借金してでも土地を買ったほうが得だという話も分かるわね」


「うん、その当時はみんなが『早く土地を買わなければ値上がりして、一生土地を買えなくなる』と思う人がたくさんいたから、郊外のニュータウンなんかも飛ぶように売れたんだって。でも、バブルははじけた。実際にそんな風に値上がりした結果、経済の成長率を大幅に上回った土地価格の上昇は、ついに一般国民がもらう給料の上昇率を大幅に超えたんだ。で、誰も買える人がいなくなった土地は暴落したというわけさ」


 まあ、こういう話もその渦中にいる間は、頭ではわかっていてもなかなかチキンレースからは下りられないものなのかもしれない。お、雅のワイングラスがもう空いている。入れてあげなきゃ。俺がワインを注いでいると雅は、


「つまり、極端なこと言うと、今日100円のものが、明日には200円になって、明後日には400円になると思えば、今日百円稼ぐより、まずは100円借りて、その物を買って明後日に売れば、それでだけで、400円手に入って、100円に利息を10円付けて返しても390円儲かっちゃうんだ。それは借金が財産だといわれても納得しちゃいそうだわ」


 言い終わると、早速、今ワインが注がれたグラスに手を伸ばしている。そして、


「ところでカズ君、最近住宅ローン破産する人が増えてきているって知ってる?」


 急にそんなことを言い出したので、俺は、


「そういえば少し前のネットの記事で読んだな。その時はあんまり気にしなかったけど、確か原因は【働き方改革】で残業が減って手取り収入が少なくなった所為せいだとか言っていた気がするな」


 俺の話を聞いて雅は、


「そうね、それも一つの原因らしいわ。でも、もう一つ理由があるの。カズ君わかる?」


 そう言いながら、食事を終えた雅はすでに3杯目のワインを飲んでいる。俺はというと、


「う~ん、何だろうな。さっき言った通り金融機関が融資するときには基本的にちゃんと審査をしてるだろうから、そうすると、事後的に返済ができなくなる事態が起きたという事だ。一番は、さっき言ったように残業が減ったような収入が減るケースか、後は子供が生まれるなどして、支出が増えるケースか。。。」


 俺がぶつぶつつぶやきながら考えてると、


「さすがカズ君、いい線行っているわね。まあ、ハンバーグも食べ終わっちゃったから、ワインでも飲みながら聞いて。私たちのミチシルベにも関係する話だから」


 そう言いながら、ちゃっかり自分のグラスにもワインを注いでいる。


「確かに、出産なんかで家族が増えたり、当初借り入れた時より支出が増えることも考えられるわ。でも、それよりも大変なのよね。カズ君【パワ―カップル】って聞いたことない?」


 その質問に対して、


「あ~、そう言うことか。確かパワーカップルって、夫婦それぞれの年収が700万円以上、世帯収入が1,400万円以上の夫婦を言うんだっけ?つまり、夫婦合算でそれだけの収入があれば、確かにかなり高額なローンが組めそうだな。で、さっき言った残業の減少、子供の出産、又は出産に伴う産休なんかがあると、かなり高額だった収入が半分になるわけだ」


 そう答える俺に、


「そう、それに最近比較的結婚する時期が遅い、つまり独身期間が長いから、それくらいの収入がある人って、お金を使うことに慣れちゃってて、計画的に貯金したりとかできない人が多いって。また、お互い相手が貯金していると勝手に思ってて、気が付いたときには世帯貯蓄がほぼゼロみたいなこともあるらしいわ」


 雅の話を聞いて、


「更に、そう言う人たちって、銀行とか不動産屋の話をうのみにしてだよな。もっと言うと、そう言う高額ローンって、ボーナスでの返済割合も高くなりそうだ。そうすると、ボーナスなんて公務員でもない限り毎年支払われるとは限らないし、業績が悪くなれば支払われても金額を半分に減らされたりとか結構あるみたいだからね。昔から、住宅ローンの限度額は概ね年収の5倍程度までという話を聞いたことがあるけど、最近は利率が低いこともあって、6〜7倍まで貸してくれることもあるらしい。そうなると借入できる額を目一杯借りてしまうのって危険だなっと」


 そういう俺に、


「実はね、私気になってそういう人たちの相談事例みたいなやつ少し調べたんだけど、銀行の言う『お貸しできます』というのはその裏に、『海外旅行も我慢して、車は高級車は無理、せいぜい軽自動車で、もちろん毎週末高級レストランなんか行っている場合じゃないどころか外食も無理だし、子供だって私立の中学校なんか行けないけど、それでも良ければお貸ししますよ』っていうレベルの金額みたいなのよね。もちろん口には出さないけど」


 雅の話を聞いて俺は納得がいった。


「そっか、そう言う話を見聞きしたから、『借金も財産だ』なんて言う話がどういう理由なのか気になったってことか」


「そういうこと、銀行的にはもしローンが払えなくなっても、その人が買った家が十分担保価値があれば、最悪競売にかければ損失は最小限で済ませられるだろうし、不動産屋さんや建築会社なんかは、それこそ、売ってしまえば自分たちの儲けは確定するから、その数年後に買主がローンを返せなくなったって関係ないものね」


 確かにそうだな、今の考えからすれば、銀行・不動産会社・建築会社、どれも契約が成立してしまえば、誰も損しないんだな。結局ローンを借りた人だけが30年以上も高額の借金を抱えて返済リスクにさらされ続けるのか。


「まだ、だいぶ先のことだとは思うけど、自分達が家を買うときにはそういうことも十分検討しないといけないな」


「そうね~、私たちも結婚したら、どこに住むか考えないといけないもんね。まあ、私はしばらくここでカズ君とつつましく生活するのもいいと思うけどね」


 そんなことを言う雅に少し照れてしまう自分をごまかすために、残りのワインを一気に飲んでしまった。




今日の一言:借金が財産だなんていう事はない。借金は借金。住宅ローンも銀行や建築会社、不動産会社の言いなりに借りるとあとで痛い目を見ることがあるから十分注意しよう。この場合の痛い目は人生やり直しのレベルかもしれない。

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