第25話 自転車犯罪が多すぎだ×●×
シュー!!
バシッ!!(カシャ、カシャ)
キュッ!!!
トン・・・
「よっし!! 追いついた!!」
今日は、市民体育大会の開催日、目の前では、運営も担当しながら、自らもバトミントンの選手として参加している雅が、最終セットで相手に追い付いたところだ。
そこに俺は、一眼レフカメラを持ち込みカメラマンとして同行している。
おっと、いけない。いつの間にか、相手がマッチポイントを取得している。
「頑張れ雅~!!」
俺はカメラを構えながら試合を見守る。もちろん、いいシーンでシャッターを切ることも忘れない。
・
・・
・・・
「わ~~~!!」
「ああぁ・・・」
シャトルが床に落ちた瞬間、歓声と落胆の声が同時に起こり、勝負がついた。残念ながら雅は2回戦で負けてしまった。とはいえ、運営の仕事もこなしながらの参加、そもそも優勝など狙える実力もない中、一回戦を勝ち抜いただけでも上出来と言えるだろう。俺はタオルと飲み物をもって選手入退場口へ向かった。
「お疲れ様、結果は残念だけど、よく頑張ったよ」
そう声をかける俺に、
「んっ、ありがとう」
と、短く答えると、雅は俺が持ってきた冷えたスポーツドリンクを
「ふ~、冷たくておいしい。まあ、元々私の実力だったら一回戦負けでもおかしくないからね。これで運営の仕事に集中できるよ。カズ君、もし先に帰るなら悪いけど荷物持って帰ってもらえるかな?」
「もちろん、これからまた運営の仕事だもんな。無理しないように頑張れよ」
そう言って雅から荷物を受け取ると、俺は一足先に家に帰ることにした。頑張った雅のために、ご飯を作っておいてあげないとな。疲れているだろうから、栄養のあるものがいいのか、それともまだまだ暑いので、さっぱりしたものが良いのか・・・などと考えながら歩道を歩いていると、
「チリン チリンッ!!」
と、後ろから自転車がベルを鳴らしながらすごい勢いで突っ込んできた! 反射的に避けたので、特に事故には至らず事なきを得たのだが……ここは歩道だぞ!? しかも【自転車通行可】の表示がないため、自転車は走ってはいけない場所だ!
買い物を済ませ、帰宅後、買ってきたものを冷蔵庫へ入れ終えた俺が、漫画週刊誌を読んでいると、玄関のほうから『ガチャリ』と音がしたと思ったら、
「ただいま~、あ~疲れた・・・」
という声が聞こえてきた。雅が帰ってきたようだ。
「お帰り~、疲れただろ? 先にシャワー浴びてきちゃえよ。その間にご飯の準備しておくから。さっぱりするよ」
そう俺が声をかけて、キッチンに向かうと、玄関のほうから、
「うん、ありがとう、悪いけどそうさせてもらうわ~」
との返事。さてと、俺は鍋にお湯を沸かし始める。ちなみに鍋には中にざるをセットできる優れものだ。
さて、まずは長ネギを斜めに少し細めに切る。大体1cm幅位かな。そして、今回のポイント、梅干しの種を取り出したら果肉を包丁でたたいていく。更にほうれん草をざく切りにし、水で洗いざるにあける。最後にベーコンを切ったら下準備は完成だ。
さあ、お湯が沸いたので、塩を一つまみ入れたのち、乾燥パスタを放り込み規定の時間に合わせたキッチンタイマーをスタート! 箸で軽くかき混ぜながら、麺がくっつかないように気を付ける。
・
・・
・・・
それからフライパンをコンロにかけて温める。ある程度温まったところでオリーブオイルとニンニクを適量、これはちょっと節約して、おろしにんにくのチューブを使うことにした。更に鷹の爪、唐辛子を輪切りにしたものが売っているので、それを二つまみフライパンに入れて炒める。ある程度の温度に達したと思ったところで、まずはベーコンを先に入れて炒める。
・
・・
ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ッピ
キッチンタイマーを止めて、パスタを鍋の中のざるから持ち上げる。十分お湯を切ってからそのままパスタをフライパンへ移す。と、同時に長ネギも投入。長ネギに少し火が通ったところで、先ほど叩いた梅肉と塩を少々を入れ、パスタのゆで汁をスプーンで2杯ほどフライパンへ入れる。更に先ほど切ってほうれん草も放り込み、全体が混ざるように軽く炒めれば出来上がりだ。
盛り付けのためにお皿を準備していると、
「ふ~、さっぱりした~。カズ君もお疲れ様~。。。ってか、なんかすごくいい匂いだね! 食欲をそそるよ! 今夜は何だろう?」
と言いながら雅が部屋にやってきた。まあ、狭い1DKのアパートだ。やってくるという表現は大げさかもね。などと思ったが、
「ふふふ~、お疲れの雅様のために、ニンニクで栄養を、疲れた時でも食べやすいパスタと言えば……」
「ペペロンチーノですね! カズ君! 早く食べた~い!!」
そう、満面の笑みで答えてくれた。ワインのグラスやサラダ、付け合わせのコーンスープを手早く準備。パスタを皿にきれいにくるくると盛り付け、冷蔵庫から冷えた白ワイン、と言っても千円程度の安物だけど、をグラスに注いで、準備完了。その間にも雅は、
「うぅぅ~、いい匂い! 早く食べたいよ~……」
などとぶつぶつ言っている。なので、席に着くと早速、
「雅、今日は選手、運営とお疲れ様でした。それでは……」
「「かんぱーい!!」」
軽くグラスを合わせて一口飲むと、相当おなかが空いていたのか、雅は早速パスタをくるくると巻き取り、パクリ!!
「ん~、美味しい! でも何だろ? 普通のペペロンチーノじゃないよね? なんかさわやかっていうか、ちょっと酸っぱいというか……」
考え込んでいる雅を、少しニヤケながら眺めていると、
「あ! わかった! 梅干しが入っているの? これ?」
正解だ。
「よくわかったな雅。正解だよ。疲れているときにはクエン酸で疲労回復も兼ねてね。意外といけるだろ?」
その後は、軽くワインを飲みながら談笑し、食事が終わる。まあ、もちろん、その後もワインは残っているので、とりあえずお皿を流し台に入れ、軽く汚れを流したのち、冷蔵庫からチーズを取り出して会話を続ける。
「そういえばさ、俺が会場から帰る途中に、歩道で、自転車にベル鳴らされてさ……」
と、帰宅時の出来事を話して聞かせた。すると、雅は、
「私の大事なカズ君になんてことするの! 月が許しても私が許さないんだから!!」
とか言って、決めポーズまで取っている……先週観たアニメの影響だな。
「ま、それはそれとして、最近自転車のマナーの悪さが、市役所内でも問題になってるのよ。職員にも自転車通勤の人もいるから、注意喚起の研修までやったわ」
ポーズまで取ったのに、それとしちゃうんだ。確かに、最近自転車に関してのニュースや特集も何度かテレビでも見たし、市役所でも問題視していても不思議ではない。続けて雅は、
「みんな、まず、自転車が原則歩道を走っちゃいけないということも知らないのよね。例外的に走れる場合も実は歩行者優先(※1)だから、ベルを鳴らすなんて言うのは許されないわ」
更に俺は以前に見たニュースの例を挙げ、
「前に片手にスマホ、片手に飲み物持った人が、電動補助自転車で、飛び出して、人を死なせちゃったケースってあったろ? あれって、賠償金とかどうなっているのか知ってる?」
その問いに雅は、
「ん~、研修では、その話はしたけど、個別の賠償内容については、言ってなかったな、でも
そして雅は、
「まあ、歩道走行はもちろん重大な違反行為だけど、意外と夜間無灯火とかもそうだし、みんなが見落としがちなのが、【一時停止義務】ね。よく赤い三角形の標識、車を運転する人はちゃんと注意してみるだろうけど、あれ、自転車も守らなきゃいけないのよね。あと信号無視かな。車道を左折するときは赤信号で曲がっては駄目ね」
そういえば、自動車講習教本で見たような気がするな。俺も一時停止なんかあまり自転車で意識したことはない。また、安全運転義務違反でも、最近では傘をさして乗るのもこの義務違反に当たると警察が判断するようになったとかいうニュースも見たな。あれ? そういえば、
「なあ、雅、二人乗りは勿論、携帯の利用や傘をさしての自転車も安全運転義務違反に当たるというようなことをニュースでやっていたけど、ヘッドフォン使った場合はどうなるんだ?」
雅は少し考えて、
「確か、ヘッドフォン等の利用については、判断が分かれたと思うよ。明確に安全義務違反と法律に明記はされていないけど、地方自治体の条例で禁止されている地域もあるらしいから、使わないほうが無難ね。ちなみに、私たちの市では、条例化はされていなかったと思うわ」
その説明を聞いて、通勤中に音楽を聴いていた俺はもうやめよう思った。
「そういえば昔テレビで、警察が自転車の取り締まりに積極的になれないのは【自転車には自動車と違い青切符制度がないため自動車での違反よりも行政罰が重くなるから】だなんてことを言っていたけど、それが本当なら大問題だと思わないか?」
うろ覚えの話を雅にしたところ、雅は、
「う~ん、警察官の意識がそれじゃあ問題よね。でも、確かに自転車には青切符制度がないというのは自動車と比べてバランスが悪いとは思うわ。それにこれだけ自転車事故が社会問題化しているんだから、そろそろ法改正が必要よね」
確かに、問題が大きくなってきている。先ほどの話にしても、あれほどの高額の賠償金の支払い義務が生じれば、その後の人生は半分終わったようなものだ。
「そうだよな~、実際に事故起こしても、自動車みたいに自賠責の制度もないし、自分で個人賠償責任保険に入っていなければ、その後の人生どうなるんだ、というほどの大問題だもんな。この前、保険の話した時は考えなかったけど、これからは自転車保険は必須だな」
俺がつぶやいていると、突然雅が、
「あ! 私良いこと思いついちゃった!! カズ君、何だと思う?」
と言い出した。結構な無茶ぶりの質問だが、俺のつぶやきがヒントになっていたとすれば・・・
「自転車にも自賠責保険を義務化するとか?」
思いついたことを言う俺に雅は、
「惜しい!! 確かに自賠責保険の設立も必要だけど、それよりも現実的にいいことよ」
雅が勿体つけるので、俺は仕方なく、
「降参だ。教えてくれよ」
と言ったところ、
「ふふふ~ん、それはね、自転車にも【運転免許】を義務付けるの!!」
「なるほど、確かに、運転免許があれば、自動車と同じように青切符対応も公平にできるようになるのか。でも、現実的には難しくないか?」
俺のその発言に対し雅は、
「そうでもないわよ。まず、オートバイや自動車の免許を持っている人は、そのまま自転車の運転免許も取得したことにするの。これで対象は自動車等の運転免許を持っていない人に絞られるわ。そのうえで、高校生以下には、学校の交通教室等で【みなし免許】を付与するの。小学生未満の子供にはこの案では付与できないけど、そこは、自転車には保護者同伴を義務付けることで対応可能だと思うわ。そもそも未就学児童を一人で自転車に乗せる親なんて育児放棄に近いんだからね。それに自転車だって、千年前なら立派な兵器として活躍してるわよ!」
雅が歴史オタ・・・いや、歴史好きらしく過激なことを言っている。そういう雅の案を聞いて、俺も一ついいことを思いついた。
「確かに運転免許というのはいい案だね。さすが雅、学生のことまで考えた素晴らしい案だと思うよ。実際に車の免許持っている人のほうが自転車の事故率も低いという統計もあるし。俺も一つ思いついたんだが聞いてくれるかい?」
雅はすぐさま、
「勿論だよ! どんな事思いついたの?」
と言ってくれたので、俺は、
「勿論免許は自動車と同じように数年ごとに更新が必要になるだろ。そこで、自転車の自賠責保険を【免許に付与】するというのはどうだい? そうすれば、自治体の条例で保険加入を義務付ける必要もなくなるし、何より、加入漏れが減れば一度の事故で、人生を棒に振る人が少なくなるだろ?」
俺の意見を聞いた雅は、
「おぉ~! カズ君冴えてるね~。確かにその案は一石二鳥だよ! こういう内容こそ、自転車事故が問題だというばかりじゃなくて、国会が法制化に素早く動いてほしい問題だよね」
その後は、バトミントンの写真を見ながら反省会したり、運営でミスがあって大変だったりとか大会運営の改善点などを話し合いながら、夜は更けていった。
今日の一言:これだけ自防事故等が起きているのだから、国会は早期に【自転車運転免許制度】と【自転車自賠責保険の義務化】(免許手数料に含める)をすべきだ!!
※1 例外的に歩道を走れるケースは以下の三つ。
(1)道路標識等で指定された場合
(2)運転者が13歳未満の子ども、70歳以上の高齢者、身体の不自由な方
(3)車道や交通の状況からみてもやむを得ない場合
※2 賠償事例の一部紹介
(1) 女子高校生が夜間に携帯電話を操作しながら無灯火で走行中に歩行中の女性と衝突し、女性には重大な障害が残った。賠償金約五千万円
(2) 男性が昼間、信号表示を無視して交差点に高速で進入し、青信号で横断歩道を横断中の女性に衝突し、女性は死亡した。賠償金約五千万円
(3) 坂道を下ってきた小学5年の少年の自転車が歩行中の女性と衝突し、女性が意識不明の重体となった。賠償金約九千万円
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