第24話 保険勧誘員がやってきた!!
今夜のご飯の準備をほぼ終えて、俺が漫画を読んで
「ねえねえ、カズ君! 今日変な人が職場に来た~!!」
帰って来るなりテンション高いな、と思っていると、
「カズ君、保険って入ってるよね? 今日さ、職場に保険の
俺は勢い込んで
「お~、ついに来たか。ちょっと遅いくらいだな。大抵新人が配属された直後に来ることが多いと思うけど」
そういうと雅は、
「あれ? そうなの? まあ、それはいいや。でね、私達のミチシルベに関係する話だと思ってとりあえず断ったけど、また来るっていうの。どうすればいいと思う?」
それはいいんだ。まあ、俺たちは色々なことを二人で考えながら話しているとはいえ、実際に雅が勧誘されたのは初めてだ。
「そういえば、以前投資の話したときに『セミナーとかで勧誘されても私達なら断れる』って自信満々だったのはどこの誰だっけ?」
そういう俺に雅は、
「もう、カズ君の意地悪~~」
と、言いながらコブシで俺の頭をぽかぽか殴るようなふりをしてほっぺた
「あれは、私達ならって言ったのよ。私ならじゃなくて、カズ君と一緒なら!」
「はいはい、頼りにしてくれてうれしいよ。で、保険の話だっけ。いいタイミングだし、ミチシルベの続きを考えようか」
俺がそういうと、雅はほっとした顔をして、
「うん、お願い。ところで、今日のご飯は何だろう? 安心したらお腹すいちゃったよ」
既に今日のご飯の準備はほぼ済んでいる。
「じゃあ、とりあえず、ご飯を先に仕上げちゃうか。待ってて」
そう言って早速取り掛かろうとキッチンへ向かうと、雅がついて来ようとしたので、
「今日は初めて見るような料理作ってるから、雅はできるまで見ないでくれよ。作るの見たら面白く無いからさ♪」
それを聞いた雅は少し不満そうに、
「むぅ~、何だろう、気になるな~……ま、いっか、何が出てくるか楽しみにしてるよ」
と言い残しリビングへ向い、さっきまで俺が読んでいた漫画雑誌を読み始めてる。俺は手早く最後の仕上げを終えると、
「ご飯できたよ~」
と言いながらテーブルへご飯を持っていく。それを見て雅が、
「うん? 何だろ、これ? パスタ……じゃないし、一見オムライスなんだけど、ケチャップもかかってないし。。。」
不思議そうな顔をして雅が『今夜のご飯』をまじまじと見ている。
「よく見るとこの黄色い玉子、錦糸卵だよね?」
もう
「とりあえず食べてみようか、では……」
「「いただきま~す」」
二人で声をそろえて、早速食べ始める。すると、雅が箸を入れた瞬間、
「わぁ~! これ、五目ずしか~! なるほど、おいしそう!!」
そう、今夜のご飯は俺が考案した、と言うほど特別なものじゃないが、
「言うなれば『和風オムライス』ってとこかな? 五目ずしに錦糸卵をこれでもか~! ってかけて、一見オムライスみたいだろ?」
そう説明する俺に、
「うん、これ普通の五目ずしよりも卵がたっぷりで、なんだかお菓子みたいな感じもする。でも、食べ応えもあるし美味しいね! すごいよカズ君!」
と、美味しそうに食べながらほめてくれる。
「あ! 紅ショウガも入ってるんだ~、味に慣れたころに変化を付けるとは、お主やりますな~」
などと褒めて(?)くれた。さて、
「じゃあ、そろそろ保険の話も始めよう。保険の種類は知っていると思うけど、念のために確認しよう。保険には大きく分けて損害保険と生命保険があるが、今回は生命保険の話だな。因みにどんな保険
そう質問すると雅が、
「確か、みんなが入るからと言って、【定期死亡保険】ってやつだったと思うわ。あと、医療特約を付けるのが普通なんて言ってたわね。そういえば『社会人の責任として保険は入らなきゃ。』なんて言ってたよ 」
でた! 保険勧誘の
「まあ、概ね予想通りの勧誘だな。さて、ここで質問だ。そもそも保険って何のためにあると思う?」
俺が一年前、すごく調べて
「ん~、そうよね、まずはそこから考えないといけないわね。保険って、保険料を保険会社へ支払い、保険事故が発生したときに保険金がもらえるという契約よね」
そう答える雅に、
「そうだね、保険の契約の概要としては概ね正解だ。あとは契約の種類によって、細かいところが変わって来るけど。重要なのは【保険事故が発生したとき】と【保険金がもらえる】いうのがキーワードだね」
俺がヒントを与えると、雅は、
「あ~、そうね! そういうことか~。つまり保険はそもそも【もしもの時の備え】って事だもんね」
さすが雅、すぐに本質にたどり着く。俺、結構考えたのだが……
「うん、そういう事だ。つまり保険を契約するときに考えるのは【何に備えるのか】と【それはどれくらいの確率で起きると想定されるか】ということ、そして【事故があった時にいくら必要になるか】の3つを重点的に考えることがポイントだね。つまり事故があった時に必要な貯蓄が既にあれば保険は不要とも言える。そこで、生命保険契約の種類を簡単に説明するとだな……」
俺はそう前置きをして保険の種類について、メモを書きながら簡単に説明した。
・死亡保険
(被保険者死亡したときに指定された受取人が保険金を受け取れる。なお、死亡保険には【定期】死亡保険、【終身】死亡保険、【定期特約付死亡保険】がある。満期受取金があるもの、掛け捨てのものがある)
・医療保険
(病気・事故などで、入院した場合には日額5,000円とか、手術した場合には手術一時金などが受け取れる。がん保険はがんに特化した医療保険の様なもの。掛け捨てのものが多い)
・介護保険
(要介護認定を受ける等、介護が必要になった場合に受け取れる。保険金の受け取り方も、一時金の場合や一定期間の年金方式等、様々なものがある。満期受取金があるもの、掛け捨てのものがある)
・養老保険
(保険としての機能もあるが、貯蓄感覚で利用する人が多い。総支払保険料と、満期時の受け取り保険金がほぼ同額の保険。死亡時に受け取れる保険金は満期時に受け取れるものとほぼ同額)
・個人年金保険
(保険金支払い時まで保険料を支払い続け、65歳になった時から年金形式で保険金を受け取る。公的年金で足りないと思われる分を補完する目的で加入する。保険金を受け取れる期間が定期のものと終身のものがあるが、現在、長寿化と低金利の影響で終身のものは保険料がかなり高め)
「まあ、こんな感じだ。また、それぞれ特約が付くこともあり、雅が勧められた保険は定期死亡保険に医療特約を付けるというものだな。新社会人に勧める時には一般的だ」
俺の説明を聞いた雅は、
「う~ん、なんだか思ったより種類が沢山あるのね。ところでカズ君はどんな保険に入っているの?」
と、すっとぼけて雅が聞いてくる。その手には乗らないと俺は、
「俺が入っている保険は後で話すよ。でだ、こう並べてみて、それぞれ、【何に備えるのか】と【事故があった時にいくら必要になるか】という二つを考えてみてくれ」
少し意地が悪いかと思うが、何でも自分で考えることが大事だからな。それに雅なら訳ないだろう。しばらく考えてから雅は、
「カズ君の説明を聞いた限りだと、慌てて入らなくてもいい気がしてきたわ」
お!? まさか、もう答えにたどり着いたかな? などと俺が考えていると、雅は続けて、
「まず、勧められた死亡保険、私の場合、最もいらないのがこれだと思う。だって、私が死んでも独身だから保険金受け取るのは両親よね? 私が死んだときに葬式代以外にお金が必要なことが思いつかないわ。仮にカズ君と結婚していたとしても、カズ君は自分で仕事しているから同じよね」
さすが雅、これは正解だ。続けて俺は、
「うん、そうだよね。俺も同じ考えだ。流石は雅だな。この短期間でその考えに至るとは。つまり、保険と新入社員にとっての社会人の責任には何の関連もないのさ。結婚して扶養家族ができた時がその責任って
すると雅は、
「これだけ丁寧に説明されればね。カズ君の説明の仕方・口調が半分答えを言っている様なものだったしね」
などと言われた。それは反省点か? それともいい点なのか? 考えていると雅は、
「すると、当面考えなきゃいけないのは、医療保険かな。入院費等に備えたいのは勿論だけど、その間の収入が無くなったことも考えないとね。でも、私の場合公務員だから、そこまで心配しなくてもいのかな~」
などと言っているので、少し補足する感じで俺は、
「さらに言うと、日本には【高額医療費制度】というのがあり、社会保険に加入していれば、一定額以上の医療費がかかった場合には一定金額の医療費を負担すればいいんだ。一定額というのは収入によって変わるから、別途調べる必要があるけどね」
それを聞いて雅は、
「なるほどね~、そういうところは日本って保証が手厚すぎるくらいね。そうすると、ますます民間の保険って急いで入る必要なさそうね」
というので、
「そうだな。ただ、実際に入院すれば、病院以外の費用もかかるし、収入が減ることもあるだろうから、まったく不要というわけでもない。何より病気をした後では【告知義務】により、保険に加入できない事もある。さっきも言った通り、保険っていうのは何かがあった時に備えるためのもので、何かがあった後では入れないのは当然だけどね」
「それもそっか、確かに健康なうちに入らなきゃいけないから、難しいね」
雅の言葉をさらに補足して、
「だから一般的には保険加入年齢が若いほど、保険料は安い傾向があるんだ。若い人のほうが【何かある確率】は低いだろうからね」
「個人年金は確かに将来不安だから入ったほうが良いと思うけど、保険料を長期間払うことを考えると、ちょっと考えちゃうわね。そうするとまずは私だと、貯蓄性も高い養老保険かしら」
うん、やはり正解にたどり着いたね。
「そう、俺もおんなじこと考えた。で、俺が入っているのもその養老保険だ。貯金代わりになるし、俺が死んだとして葬式費用くらいにはなるからね」
「そうか~、確かに保険の満期受取額がほぼ掛金と同額なら、貯金のつもりで入っておくのもありかな」
「養老保険は今言ったように、俺たちみたいな社会人になりたてで、特に結婚していない人には一番合っていると思う。そこに医療特約を付けられる保険もあるし、医療保険については、例えば都道府県民共済や生協などの共済に入るという手もあるしな」
すると雅は少し目の色を変えて、
「生協? ちなみにそれはどんな奴なの?」
俺は知っている範囲で、
「俺も検討中で加入はしていないから詳しくは説明できないけど、一般的には月に2~3千円程度の掛け捨て保険だ。総合保障と入院保障の二つの型があって、死亡保障を重視するか入院保障を重視するかで選べて、医療特約を上乗せすることもできる。こちらは掛け捨てだけど、運用実績に応じて、大体3割くらいの掛け金は戻って来るみたいだから、実質的に年間2~2.5万円の負担金ということになる」
それを聞いて雅は少し考えこみ、
「そうね~、その辺は養老保険の特約が良いのか共済が良いのかは少し考えたほうが良いわね。介護保険には、まだ考えなくていいとして、あとは個人年金かしら」
確かに個人年金は掛金の支払い期間が長期に及ぶため難しい。特に今のような低金利の場合には。そこで俺は、
「個人年金は、俺もまだ加入していないんだよ。個人年金って、今契約して受け取るのが40年後とかだろ? その間に何かあったらと思うと、急いで入る必要がない気もするけど、長期間掛け金を払うほうが支払時の負担が軽く済むメリットもある。ただ気になるのが、最近の低金利だね」
「どういうこと?」
雅の質問に対し、
「結局保険も金融商品だから、契約時の利回りが契約内容に与える影響が大きいんだよ。今みたいに低金利だと将来貰える年金保険金が少ない契約の可能性が高い。とりあえずはその分貯金していてもいいかもしれない。貯金ならいつでも引出せるけど、保険は中途解約すると払った金額より結構少なくなっちゃうからね」
何となく釈然としない顔をしながら雅は、
「そっか~、まあ、そうするとまずは貯蓄性の高い養老保険だけに加入するのが無難かしらね? カズ君はどこの保険会社にしたの?」
きた! まあ、最後には話さなきゃいけないことだ。
「うん、かんぽ生命だよ」
すると驚いた雅は、
「え~~!! 最近不正が発覚したところじゃない!! カズ君は大丈夫だったの?」
予想通りの反応だ。しかし、
「大丈夫に決まっているよ。あの手口は二重契約とか無保健期間が出来たりとか早期に解約させて新しい保険に乗り換えさせたりだ。俺は加入して1年位だから、そういう機会がないよ。とは言え、こうやって自分たちでしっかり考えておけば保険会社の口車に乗って無駄な保険に入る心配も減るだろうから、今日の話は意義があっただろ?」
そういう俺に雅は、
「まあ、確かにそうね。私たち、初めて保険に入るんだものね。問題は、職場に来た勧誘員が勧める様な保険に入らないよう気を付ければいいのね」
「そういうことだね。疲れたから今日はこれくらいにしようか」
今日の一言:若い独身のうちは保険に慌てて入る必要はない。社会人の責任と保険は関係ないよ。
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