第21話 ショートストーリー「国民の財産を減らしたもの」

「そう言えば、ついに消費税が上るね。」


 最近少し暑さが和らいではきたが、何となく体のだるさが取れない。今日は気分転換も兼ねて、駅前の中華料理のチェーン店に来ている。


「そうそう、この前も私のお母さん『もう、ただでさえ家計が大変なのに困るわ~。何を買いだめするか考えなきゃ』なんて言っていたわ。」


 雅が餃子を食べながら言う。


「あれ?でも、雅も就職したし、住宅ローンも数年前に繰上げ返済で完了したって言ってたよな?」


 俺が天津飯を食べながら雅に疑問をぶつけると、


「そうなのよ、実際そんなに家計が厳しいという事はないと思うわ。お父さんもまだ現役で働いているし。まあ、あれって一種のよね。自分のパートは私が就職してから減らしている位なんだから。」


 そう言いながら雅が一杯目のビールを飲み終え、紹興酒を追加注文している。相変わらず雅の人物評価はなかなか厳しいな。自分の母親にも容赦なしか。そして俺は、


「まあ、主婦ってなのかもね。実際、買いだめなんてそんなに効果ないのに。」


 そう言う俺に同意しながら雅は、


「そうなのよね~。実際トイレットペーパーなんて12ロールで400円くらいでしょ。ざっくり400円の2%って8円よ。10個まとめ買いしても節約できるのは80円!大量のトイレットペーパーに囲まれる生活考えると割に合わないわ。」


 そう言いながら今度は油淋鶏ユーリンチーをつまんでいる。あ、美味しそうだな。俺も一つ貰おう。そして、


「確かにね。エアコンとかテレビとかも増税前に買うほうが良いなんて言うけど、実際には増税後に買うほうが安いことも多いらしいからね。まさに『あわてる乞食は貰いが少ない』みたいな感じだな。」


 俺は二杯目のハイボールと、追加のおつまみに醤油焼きそばを頼みながらそう言った。すると雅が、


「でも、あれだけ景気の拡大とインフレを叫んでいたのに、本当に増税するとは思わなかったわ。消費税って【税制】なのに。」


 また難しいことを言い出したので俺は思わず、


「景気抑制ってどういうこと?」


 と雅に質問する。雅は焼きそばに手を出しながら、


「だって、消費税って単に払うお金が増えるって思われがちだけど、もっと恐ろしいのよ。流通する貨幣の総量を減少させるのと同じ効果があるの。」


 あ~、言われて見れば確かにそうだ。


「なるほどね~、さすが雅。そういう見方はしたことなかったな。このお店も、店内飲食と持ち帰りをやっているけど、店内は10%、持ち帰りは8%なのに税込み価格は同じにするって書いてあるもんな。結果、お店に入るお金は店内分売上が約2%少なくなるのと同じ事になるのか。」


 雅が続けて、


「それだけじゃないわ。これって、既に持っている2%でしょ。だって、企業に入る売上金は変わらないのに、消費者が払うお金だけ2%増えるんだもの。物価が上がるわけでもないのに使えるお金が2%減る、ホント恐ろしいわね。コツコツ老後資金を貯めてたお年寄りの預貯金を国が2%奪ったのよ。私たちみたいな若手は2%だしね。」


 〔貨幣の流通総量は変わらない+支払うお金が増える&物の価値は変わらない=実質の貨幣流通量が減るのと同じ〕、買えるものは同じ、、買い控えが起きる・・あれ?これって、よな?そう思って、雅に話してみると、


「そうなのよ、つまり日銀が目標にしている2%のインフレも達成できないうちに国が2%のってことね。」


 今までの話を総合して、


「つまり、消費税が当初導入された平成元年は、まさにバブル景気の絶頂期で景気が過熱していたから、消費税導入により加熱する景気の抑制効果は必要だったのかもしれない。その後、前回の8%への増税はまだ景気が良くなる期待感があった。けど、今回は世界中が経済戦争みたいな状態で、更に国内需要も縮小するとなると・・・考えると恐ろしいな。」


 俺が言うと雅は、


「そうね、どうせなら消費税を無くして、昔みたいに所得税の税率あげたり、社会保障費が足りないなら、を見直せばいいのよ。」


 本当になぜ今の政治家はこの様に考えられないのか、雅こそ総理大臣になれば良いのではないか、と言うようなまとめ方をしてくれた。


 さて、


「じゃあ、きっと最後になる消費税8%の餃子を追加して帰ろうか?」


 俺がそういうと、


「なら、私は最後にハイボール飲みたい!!」


 あれ?そういえば、お酒は軽減税率の対象にはならないんだったな・・・などと考えつつ、餃子を食べながら、今度行く旅行の話で盛り上がった。




 今日の一言:政府はインフレ目標も達成できないうちに法律でデフレを引き起こした。本来は社会保険料負担の改正、できるならば消費税の大幅減税又は廃止こそ、今の日本には必要だと思う。

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