第22話 キャッシュレス決済が進まない

「ふ~、うまかった~。でも、あれだな。ニンニクもちゃんと置いてあったし、俺にはよかったけど、やっぱり雅にはちょっとキツかったんじゃないか?」


 店を出るなりそう雅に話しかけた。今日は二人で、新しく駅前にできた所謂いわゆる背油こってり系のラーメン屋さんに雅と二人で食べにきたのである。


「う~ん、味はよかったんだけどね~。やっぱり私にはちょっとあぶらが多かったかな。あぶら少な目でお願いしたんだけどね。でも、あぶら抜いちゃうと、なんかコクが足りない気もするし難しいところよね~。あ、でも、チャーシューは柔らかくておいしかったな。今度は脂もっと少な目にできるか聞いてみてもいいかも」


 お? 一回食べればいいかと思ったら、また来る気があるんだ。


「俺は今度ネギのトッピングしてもいいかな? 脂はまあ、普通くらいの量でいいけど、確かに少し感じがしたからさっぱりするかもしれない。さて、明日は休みだし、何か映画でも借りていくか」


 すると、やはり雅は


「お! いいですね~、もうスーパーは閉まっちゃったから、コンビニでお酒とおつまみも買っていきましょう!」


 と、ノリノリで返事をしてきた。レンタル屋さんでしばらくどれを借りるか議論して、今夜は以前見そびれたアニメの実写版映画を借りることにした。錬金術師の兄弟の話だが、これも異世界ファンタジーになるのかな? などど話しながらコンビニへ向かう。


 そして、コンビニで、発泡酒と軽いおつまみを適当に選んでレジに行くと、


 チーンッ


「お会計は978円になります。お支払方法はいかがいたしますか」


「現金で」


「はい」


 こんな感じでコンビニで店員とのやり取りがあった。最近は政府が推し進めている所為せいもあるのだろうが、やたらとキャッシュレスを推進するような動きが一部で見られる。特に大手チェーン店でその動きは顕著だ。


「なあ、雅、さっきの会計の時もそうだけど、最近のキャッシュレス推進の話って、やたらと耳にするよな。実際のところどれくらい普及してきているんだろうね」


 ぶらぶらと家路を歩きながらそんな会話が始まった。


「ん~、どうなんだろうね。私はクレジットカードを2枚持っているのと、あとは電車のチャージ式ICカードくらいかな?あ、たまにクオカード使うけど、あれは懸賞で当たった時だけだから、積極的に利用しているというのとはちょっと違うわね」


 雅は歩きながらそう答える。


「まあ、そうだな、俺も同じ感じだ。最近流行りのQRコード決済とか、どうにもなじめる気がしないんだよね。でも、ホント急にキャッシュレスと言い始めたよな」


 俺のつぶやきに、


「今回は一応、海外旅行客の増加に伴ってキャッシュレス決済の比率を外国並みに引き上げるのが目標って言ってるけど・・・なんかしっくりこないのよね。ほら、今回も政府が2%か5%のポイント還元を負担するとか。しかも、大手外食チェーンも含めて、3割くらいの事業者しか、このポイント還元制度には参加しないみたいだしね」


 そう、なぜか日本ではでキャッシュレス化を促進しようとしてる。特に消費税の増税に合わせて、政府がポイント還元をするという話だ。これは正直バラマキ以外の何物でもない。増税して、その分を還元するのでは意味がないのでは? というような論調の話も出ていたが、その批判は当てはまらない。なぜなら、ポイントは期間限定だがからだ。


「まあ、確かに違和感があるよな。結果、事業者側が、独自の値引きやポイントで価格を下げる施策してるし。まさに、この前話した官製デフレだな。でも考えてみると、それほど不思議なことじゃない」


 そういう俺に雅は、


「どういうこと?」


 とたずねてくる。


「いくつも理由があると思うんだけど、ポイント還元については、増税の目くらまし的なバラマキ政策の一つと言えるよな」


 俺の考えに、


「まあ、それは納得できるわね、政府はポイント還元制度の参加率が低いことも予測していたみたいだし。結局バラマキ額は少なくて済むし、政府はやることはやったと言えるものね。更に、以前カズ君が教えてくれたけど、ポイント還元の期間が9ヶ月じゃ短すぎるもの。でも、きっとこれはオリンピックの前に終了したい、つまり外国から多くの旅行者が見込まれるオリンピックの前にはサービスを終了したいという意図も見え隠れするものね」


「そうだな、考えてなかったけど、確かに9ヶ月は中途半端だけど、オリンピック前に終わらせると考えれば納得のいく期間だ。でも、増税はずっと続く」


 そういう俺に、さらに雅は、


「それに、確かに日本のキャッシュレス化は遅れているとはいえ、さっきの交通系ICカードなんかはかなり普及していて、自動販売機やコンビニでも使えるところも多いでしょ?」


 それを聞いて俺は、


「確かに、バスやタクシーなんかでも利用できるし、自販機は便利だな」


「それに私もカズ君もクレジットカードは持っているでしょ? 前にちょっとニュースで言ってたけど、日本人のカード保有率って、実は年齢が高くなるほど高くなるのよ。更に平均保有枚数は3枚を超えているらしのね。そう考えると、巷で言われている高齢者が現金主義だという説もつじつまが合わないのよね」


「あ~、それに何とかPayについて、ここしばらく『○○億円還元!!』なんてキャンペーンやってたけど、あれ、儲かってないところが多いらしいんだよ。どうやら、若い世代がサービス期間に登録して利用したけど、定着率、というかリピート率が低いんだって」


 俺がそういうと雅も、


「あ! それは私も聞いたわ。それにこの前某大手コンビニ系の電子決済が不正利用されたとかで、あっという間に撤退したのも記憶に新しいものね」


 そうなのだ。あれだけの大企業が導入したシステム、しかもパイオニアというわけではなく、どちらかと言えば後発組、そのあたりの対策はできているものだと普通は思う。しかし実際はあっという間に撤退にまで追い込まれた。つまり、システムとして社会インフラを担うにはまだまだ不安が多いという証明になってしまったのだ。


 さらに雅は、


「まあ、さっき言った私たちが持っている交通系ICカードとクレジットカードについてはそれぞれに導入する方と利用者の両方にメリットがあったから普及したといえるんじゃないかな?」


 そういう雅に俺は、


「というと?」


 と、先を促す疑問形で問いかけてた。すると雅は、


「う~ん、これはあくまで私の考えなんだけど、わかりやすいのは交通系ICね。日本では通勤のための定期券需要が多いじゃない? 以前は磁気カードだった定期券もいつの間にかICカードになったらしいから。私のお父さんは昔、磁気カード使ってたの覚えているわ。でも交通各社の狙いはそもそもが定期じゃなかったと思うのよね。切符の販売・利用管理って、それなりに費用が掛かると思うのよ。まあ、今でも紙の切符は売っているけど、圧倒的にICカードにチャージして普段の通勤・通学以外の運賃も支払っている人のほうが多いと思う。それに利用者もいちいち路線図見てて切符がいくらか確認する必要もないし、すぐに改札を通過できるというメリットがあるでしょ。つまり利用者側とサービス提供会社がからサービスが普及したといえるわね」


 なるほど、言われてみれば確かにそうだ。会社側のメリットばかりであればここまで普及しなかったであろう。あれ? そうすると・・・


「なあ、雅、それならクレジットカードはどうなんだ?」


 すると雅は、


「クレジットカードも最初は外国での普及が先だったはずよ。それで、外国では【信用】の一つの証明としてもカードが役に立っているわ。クレジットカードのデメリットは【利用している販売店等がカード会社に3%~5%の手数料を払わなければいけない】ということね。利用者にとってはそういう負担は無いんだけど。でも、事業者側にはそれだけのと考えるのが妥当だわ」


 なるほど、確かにそうだ。日本で街の個人事業者をはじめとする小売店等でカード決済が進まない理由の一つがこの手数料の負担が大きいという話はよく聞く。俺の実家でも手数料が負担だからキャッシュレスを導入する気はないと親父が言っていたくらいだ。大手外食チェーン店が数十円の値上げをしただけで、売り上げが何%も減ったりするのだ。この負担が大きいことは想像に難くない。ん? そうすると、


「そうか、つまり、日本でクレジットカードが普及したのって、百貨店等のからだったのか。そういうお店は確かにお客さんもし、お店側も多額の現金を持ってこられると、する、何よりカード決済をしてもらえれば、自社で割賦販売、所謂いわゆる分割払いをするよりも、その手数料と考えればその程度の費用はかえって安いともいえるかもしれないな」


 そういう俺に雅は、


「そういうこと。逆に販売単価が安く、利益率も低い商売をしている個人商店なんかは、そもそも売り上げがそれほど多く無ければ現金管理のコストは大した事ないし、数百円から数千円程度の現金で払える金額ならそもそも掛けで販売するということもないでしょ?」



 なるほど、今では少額の買い物もカードで払うケースが多いけど、俺が子供のころはカードは高い買い物したときに親が使っているのをみただけで、日常の支払いをカードでしていたという記憶はない。


「あとはやはり、クレジットカードのメリットの一つは信用もあるわよね。カードを持ちづづけることが出来ているということは、それだけ買い物をしても支払い続けることが出来ているという証明にもなるから。だからカードにもゴールドとかブラックとか上級カードがあるんだと思うの。そして、これがカード会社側の戦略で、所謂ポイントをはじめとしたよね。特に日本人はポイント貯めるの好きだし、そのカード独自の割引サービスや空港ラウンジの利用など、するすることによって利用者の心をつかんだんじゃないかしら」


 相変わらず雅の目の付け所はすごいな、と感心しながら聞いていた。俺も負けじとつい先日見たニュースの知識から、


「そういえば、先日のニュースでも意外と20代の人達もキャッシュレスには不安があって、現金で支払いたいという需要が多かったな。俺たちもそうだけど、最近の若者は節約志向の人が多くて、キャッシュレスだと使いすぎるのが心配だという人が多くてびっくりしたよ」


 それを聞いた雅は、


「そうよね~、最近の世の中の話題って、給料が上がらないだとか、老後に2千万円不足するとか、就職氷河期の人達の非正規雇用率が高いとか、景気がいいとアピールされている割には、暗い話題が多いのよね。上の世代のそういう話を見聞きしているから若い世代ほど慎重になっているというのもうなずける話よね」


 俺はもう一つ、先日のニュースの知識から、


「あと、日本のキャッシュレス化が進んでないといわれるけど、実はドイツのほうが普及してないらしいんだよ。よく言われるけど、日本は現金の信用が高いからキャッシュレスが進まないといわれているけど、現金の管理がしっかりしている、信用力の高い国は総じて思っているほどキャッシュレス化されていないっぽいんだ」


 すると雅は、


「まあ、確かにお店の側としたら、いちいち偽札を疑っているよりは、QRコードで決済が完了する方が、偽札のリスクも減るし、さっきの現金管理コストも減るというのであれば、手数料を払っても受けるメリットが多いというのもうなずける話よね。あ、そうか! 現金の信用って、現金を管理する国が保証しているわけよね? そうすると、現金の信用が高い国ほど、んじゃないかしら? 一円玉なんか作るのに3円くらいかかっているらしいし。その観点で考えたことなかったけど、日本も相当国が現金管理にお金を使っているとすると……」


 あ、俺にも分かったぞ。


「なるほど! さすが雅! 確かにそう考えると、政府がキャッシュレスを推し進める理由も何となく予想がつくな! 政府としてはということか!」


 俺の言葉に雅は、


「まあ、押し付けるっていうといいすぎな気がするけど、概ねそんな感じじゃないかしら? まだ、災害があった時、電気が通じなくなったら買い物もできないと言う問題も解決しなきゃいけないのにね。そう言えば仮想通貨も次世代の決済手段なんて期待されてたけど、結局投機目的の取引にしか利用されてない気がするわね。さて、家に着いたことだし、買ってきたお酒は冷蔵庫で冷やして、家で冷えている奴から飲みましょう♪」


 そう、確か家の冷蔵庫にも、1本発泡酒の缶が冷えていたはず・・・あれ? 俺、飲んじゃってないよな。ちょっとビクビクしながら玄関のカギを開けるのだった。


今日の一言:キャッシュレス決済にするとお金を使った感覚が薄くなるから、便利さもあるけど、それ以上に堅実な人はあまり利用しない、つまり日本ではなかなか普及しないんじゃないかな?


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