第19話 株主優待目的の場合の注意点(株式投資の話2)
前回のあらすじ:とんかつは脂たっぷりのロースがうまい!!っじゃなくて、和也と雅の二人は、投資は長期間行うことが重要であることを、雅のおじさんである税理士の『誠おじさん』に教わった。
「ところで、先生、お酒は飲めるほうなんでしょ?ビールでもお出ししましょうかい?」
「いいですね~、と言いたいところですが、こちらのお話がもう少しありますので。もしお時間が許すようでしたら、後程いただいてもよろしいでしょうか。」
答える誠さんに対して親父は、
「はいよ~、先生まじめだね~。じゃあ、頃合い見て声かけてくださいね。」
「ありがとうございます。」
そう答えると誠おじさんは僕らのほうへ向き直り、続きを話してくれた。
と、その前に母さんが、冷たい麦茶と御新香を少しもってきてくれたので、少しつまみながら教わることになった。御新香が出てくると余計にお酒が欲しくなる気がする。そんなことを思っていると、誠おじさんは続けて、
「まあ、確かに手数料の面から見ても長期投資のほうが有利という話は、さっきした通りだけど、そもそも、これから話をする前に、儲かることとはどういうことか、儲けるためにはどうすればいいと二人は思う?」
そう問いかける誠おじさんに雅が元気よく、
「はいは~い!働く!!」
・・・いや、それはなんか違うんじゃないか?と考えていたら、誠おじさんがそんな俺の顔をみて、
「雅ちゃん、それは儲けるじゃなくて、稼ぐだよ。そもそも今は投資の話をしているんじゃないか。で、和也君は他の回答がある顔してるね。」
そう問いかけてきた。するとまたまた雅が、
「さすがカズ君、何か思いついたの?」
と、話に横入りしてくる。なんだか今日の雅はテンションが高いな。まだお酒飲んでないよな・・・まあ、そんな話は置いておいて俺は、
「そうですね、儲けるというと物を安く買って高く売るということでしょうか。」
そう答える俺を見て、誠おじさんは、
「さすが経済学部出身というところかな、概ね正解だ。まあ、儲ける方法はほかにもあるが、基本的にはその通り。そしてこれは株式投資にも言える。そして、株式投資で利益を得る方法は通常2通り、場合によってもう1通りあると私は考えているが、それはわかるかい?」
するとまたしても雅が、
「はいは~い!一つは株を買って、値上がりしたら売ること。もう一つは株を持っていることによって配当金をもらうことかな?」
お、さすが雅、多少は予習しただけのことはあり、これは正解だと俺も思う。すると誠おじさんは、
「よくわかったな、雅ちゃん。2つはそれで正解だ。通常、株式投資を行う人はこの2点を中心に考える。それでも値上がりを分析予測して、売買による利益を中心にするタイプ、長期的に株を保有することを前提に配当利回りによる利益を中心にするタイプに大きく分かれるけど、それらをバランスよく考える人もいる。さらに、売買による利益を中心に考えるタイプには、短期・中期・長期で、売買のタイミングを考える系統に細分類されるかな。」
なるほど、確かに言われてみるとそうだろうと納得した。しかし・・・
「ねえねえ、誠おじさん。さっきは場合によってもう一通りあるって言ったよね。それは何かな?」
と、俺も気になっていたことを雅が聞いてくれた。誠さんは、少し口角をあげ、軽く微笑むと、
「そうだね。まあ、これについては最近特に人気が出てきているんだけど、ズバり【株主優待】だ。」
おぉ~、実は俺が気になっていたのはこの株主優待だ。雅にも黙ってこっそりと証券口座を開設したのは、この株主優待というものをもらってみたかったからなのだ。
「株主優待については、いろんな本も出ているし、実は私も株を始めたきっかけはこの株主優待だよ。これで、3つの投資スタイルが出てきたけど、これらについても完全に分離して考えることはしないほうが良い。しかし、今上場されている株式銘柄は全証券取引所を合わせると概ね4千社くらいある。株主優待実施企業だけでも概ね1,500社くらいはある。これだけに絞っても詳細に調べるというのは個人投資家としては現実的じゃない。情報分析という面でも資金面でもね。」
確かに・・・なんとなくで考えていたけど、予想以上の数だ。これはちょっと考えが甘かったかな、などと考えていると続けて誠おじさんは、
「ところで、株式を買うに当たっては通常最低購入金額というのがあるけど、これについては知っているかい?」
お、この辺は俺が読んだ株式入門の本にも書いてあったぞ。確か・・・
「確か、単元株数とかいうんでしたっけ?証券市場で公表されている株式の価額は【1株】当たりの価額ですが、実際に購入できるのは基本的に100株単位ですよね。なので、同じ1株の価額が500円の株であっても、単元数が100株ならば50,000円ないと買えないということですよね。」
俺は株式入門に記載があった内容を答えた。誠さんは、
「よく勉強してるね、和也君、その通りだよ。証券会社によっては単元未満株の購入を取り扱っているところもあるけどね。【ミニ株】などと呼ばれることもあって購入する時の資金が少なくても購入できるメリットはある。でも、手数料も割高になるし、わざわざミニ株取引をする必要はないと思う。単元数の株式を保有していないと、株数に応じての配当金はもらえるが、株主総会へ出席できなかったり、株主優待が受け取れなかったりするからね。売買方法にも通常制限がある。単元株価額が500万円以上なんて銘柄もあるから、そういう銘柄について単元未満で買う人はいるかもしれない。私はやらないけど。」
500万円と聞いて雅が、
「ええぇ~!500万って、そんなにお金出せないよ~。」
などと悲痛な叫び声をあげていた。すかさず俺が、
「まあ、そんなのは本当に一部の銘柄だと思うし、さっき聞いただろ?株価500円で単元100株なら、最低購入金額は5万円だ。」
そう雅に説明する俺に誠おじさんが、
「基本的には、和也君の言う通りなんだけどね。株主優待の難しいところはここからなんだ。まず、株主優待をもらう目的の場合気を付けなければならないポイントがいくつかある。一つは【権利確定日】、もう一つは【最低保有株数】、最後は【保有期間】だ。順に説明するね。」
そういって、誠おじさんは次の点を説明してくれた。
権利確定日:株式は証券会社で売買が成立した日に入手できるのではなく、売買が成立してから2営業日後(2019年7月より変更された)に【株主名簿】に名前が記載されることになる。つまり、株主としての地位は株主名簿に記載されて初めて得ることができるため、権利確定日が6月30日の銘柄であれば6月28日には証券会社で取引が成立していなければならない。
最低保有株数:株主優待を得るために保有していなければならない株数。銘柄ごとに異なり、単元株数と同じ場合もあれば異なる場合もある。また、会社によっては100株なら一つ、500株なら三つ、100株なら5つなど、株を沢山持っていればもらえる優待品が増える会社もある。
保有期間:上記権利確定日とも関係するが、最近では安定株主を増やす目的で、1年以上とか3年以上とか継続して株を持っていないと優待がもらえない銘柄も増えてきている。この場合の条件も色々で、1年以上なら『同じ株主番号で、株主名簿に3回以上記載されていること』などと決められている。
「まあ、ざっとこんなところに気を付ける必要があるんだけど、これを踏まえて、一番気を付けなくちゃいけないのは【権利確定日】に関してかな。まず、この日までに株の購入が成立しないと、その時の株主優待はもらえない。良くて9ヶ月くらい優待もらうまで待たなきゃいけない。あと、もう一つ気を付けなければいけないことがある。これは、配当狙いで株を取得する場合も同じなんだけどわかるかな?」
そう質問してくる誠おじさんに対して、俺と雅は『う~ん』とうなるばかりで、何も思いつかない。すると誠おじさんは、
「ちょっと難しかったかな。これは実際に自分で身銭を切って取引してみないとわかりにくいところだけどね。ちょっと考えてみてほしい。まず、みんな、株主優待や配当が欲しいから、権利確定日前は買い注文のほうが多い。するとどうなる?」
「あ!わかった!!株の値段が上がるってこと!?」
雅が俺より先に答えてしまった。
「うん、その通り。ここまでくればわかると思うけど、権利確定することを【権利取り】などとも言うんだけど、権利が確定したということは、それだけが目的の人は、もうその株を持っている必要が無くなる。つまり権利確定日の翌日、ああ、その日のことを【権利落ち日】ともいうけど、権利落ち日は売りが増え、株価が下がりやすい傾向にある。場合によってはもらえる配当金や株主優待の儲けが吹っ飛ぶくらい権利落ち日に値下がりすることも珍しくない。そのため、配当や優待狙いなら、3か月くらい前に購入するのがいいという研究もある。まあ、勿論、一般的な傾向としてだから例外もある。権利確定日後に上昇する銘柄もあるからね。」
なるほど、言われて見れば、みんな同じこと考えるから、それが値動きに反映されるのは当然といえば当然だ。
「まあ、配当や、特に株主優待が目的ならば、欲しいと思ったときに株を買ってしまうのも重要だよ。値動きなんてプロでもなかなか予想通りになるわけじゃないからね。これは儲かっているから
そう、誠さんは自分の体験を踏まえて格言を紹介してくれた。改めて聞いていると、この人、本当に説明がうまいな。こういうのは本を読んだだけじゃわかりにくい知識だ。そんなことを思っていると、
「まあ、その辺は自分で実際にお金を払って、一度は痛い目見ないとわからないよ。大事なのは自分で許容できるルールを決めることだね。」
「ん?ルールって何?」
雅が、きょとんとしながら誠おじさんに質問すると、
「一口に株式投資と言っても、実際に投資するのは人それぞれ、持っている資金もこれから投入できる資金の見込みである収入もそれぞれだろ?あくまで、資産形成・管理の一環として行わなければ、将来設計に大きな支障をきたすこともある。」
「つまり、許容できるリスクの範囲を自分でしっかり見極めて決めておけということでしょうか?」
そう問いかける俺に対して誠おじさんは、
「さすがだね、和也君。その通りだよ。具体的に一例をあげると①投資する総額を決める②投資する銘柄の傾向を絞る③売り時・買い時の目安を決める、とかだね。たとえばだけど、①については資金の全額を株に替えてしまうのはお勧めしない。これはさすがにリスクが高すぎるからね。目安としては全金融資産の二分の一から三分の一程度までの資金に
不動産建築関係って、今、業界的には好調な気がするけど、なぜ誠おじさんは投資しないのだろうと疑問に思っていると、誠おじさんは、
「建築不動産関係に投資しない理由の一つは、今が景気のいい業界だからだ。早晩業界の景気は下がるんじゃないかと数年前から予想している。まあ、今のところタワーマンションとかの売れ行きもそれなりに好調みたいだけど、人によっては陰りが見えてきてるという人もいるし、よくわからない面が多いので近づかないようにしているんだ。REITを買わないのも同じ理由だ。こういう会社は自社商品が株主優待にしにくいのでお米などを優待品としているところも結構多いから好んで買う人もいるらしいけど。」
誠さんの話を聞いて雅は、
「でも、お米がもらえるっていうのは魅力的かもしれないわね。」
などと言っている。
「まあ、その辺のルールは自分で決めればいいさ。他人に勧められたルールを適用すると、儲かった時は良いけど、損したときにそのルールを勧めてくれた人のせいにしちゃいがちだからね、人間なんて。それに、初めは他人の真似だけでもいいが、自分で考えなければ、何も身につかないからな。」
確かにその通りだと思う。日本の教育のダメなところは、みんな横並びで知識詰め込み型の教育を小学校からほぼ大学まで施される。それで今になって、【学生の自主的な応用力を育てるための教育】だ、などと言い出したって、できるわけがない。教える立場の教師がそんな教育受けたこともないのだから、そんな資質がある人は少数だろう。
・・・続く
今日の一言:株主優待をもらうためには権利確定日と必要株数、保有期間要件に気を付けよう。
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