第17話 投資の話は難しい!?

 う~ん。。。よくわからない。


 何がわからないかって、この手元の本『株式投資入門』だ。


 先日、今後の人生のマネープラン、『人生のミチシルベ』について考えているときに、基本的に将来への備えは投資よりも貯蓄のほうが安全だという結論に俺たちは達した。


・・

・・・


 そう、達したのだ。貯蓄(銀行等預金)のほうが将来への備えとしては安全だという結論に。もう少し詳しく話と、預金も広義の意味では投資の一種であること、元本が保証されていること、遅ればせながらではあってもインフレが起きれば基本的に預金利率も上がっていくであろうということ。一方で、投資には色々あるが、基本的には元本が保証されない。その代りに、元本が値上がりすることにより配当や分配金以外の利益も得ることができるのだ。もっとも株式投資をやっている人の多くが、配当目当てというより元本の値上がりによるもうけを見込んでいるらしい。


 もう一度言おう、なのだ。


 しかし、何も、だからと言って投資をしてはならないということではない。そして何より、『なんでも知っていて損はない』ということだ。知らなければだが、知っていれば『やる』・『やらない』の選択権が生じる。そのうえで、実は人生において、多くの場合『知っているだけ』では『知っているつもり』に過ぎないということを俺は知っている。なんでもそうだが、事前にいくら勉強をしても実際にやってみると初めてわかることが沢山あるのだ。


・・

・・・


「ダメだ~・・・なんだこの【EPS】とか【BPS】とかいうのは!!それに【ろうそく足】とか【ゴールデンクロス】って・・・」


 そう、【入門】と書いてはあるのだが、正直、用語の段階で挫折しそうだ。そんな俺を見て


「カズ君、今度は何始めたの?何かの勉強しているみたいだけど、どれどれ・・・」


 言いながら、俺の手元から本を取り上げ、


「あっ!」


 びっくりする俺には構わず雅は本の表紙を見て、


「ほうほう、今度は株の勉強ですか。でも、この前の話の感じじゃ、投資に興味はあっても貯蓄のほうが安全って話じゃなかったの?まあ、投資にも興味が出てきたとは言っていたけど。」


 雅は不思議そうに俺に聞いてくる。


「まあ、そのつもりではあるんだけどね~。なんでも知ってて損はないだろ?それに投資は長期間やったほうが効果が高いともいうし、それならいつでも始められるように基本的なことは知っておいたほうが良いだろ?そう思って古本屋で入門書を買ってきては見たんだけど・・・」


「いきなりつまずいたってことだね。まあ、この本【入門】とは書いてあるけど、これから始める人向けではないかもね。もっとイラストとか多い本はなかったの?」


 雅はそう言いながら俺に本を返してきた。


「俺もそういう本を探してみたんだけど、見当たらなかったんだよね。まあ、取り合えず100円だったし、これでいっか!って思って買ったけど失敗だったな。また今度探しに行ってみるよ。」


 俺はまた古本屋で本を探しに行くつもりでいたのだが、急に雅が


「ねぇ、だったら、詳しい人に聞いちゃったほうが早いんじゃない?お勧めの本なんかも教えてもらっちゃえば、効率的よね!」


 なんて、名案を思いついたように目を輝かせて俺に語り掛けてくる。しかし俺には株に詳しい知り合いなんて思い当たらない。


「詳しい人って誰の事?」


 すると雅は、


「あれ?カズ君も前に会ったことあるよね?私のおじさんで税理士の誠おじさん。おじさん株もやっているから、とりあえず話聞いてみるだけ聞いてみたらいいんじゃない?」


 なるほど、山喜やまき(誠おじさんの苗字)おじさんか。確か雅のお母さんの弟さんだったと記憶している。雅のおじさんということで、前に一度だけあったことがある。確か新選組が好きで熱く語っていたのを覚えている。俺も新選組くらいは知っているが、そこまで熱くはなれない。それでも相槌を打っていたら機嫌よさそうに色々話してくれていたので、話すのは好きなのだろう。お願いすれば色々と教えてくれるかもしれない。


「そうだな、山喜おじさんなら、そういうことも詳しそうだな。あの人ちょっと怖いけど話は分かりやすいし。雅、連絡とってもらえる?」


 そんな俺に雅は


「ま~、誠おじさん、説得力というか、言葉のあつが強いからね。人によっては怖く見えるのかな~。とりあえず、ちょっと連絡してみるよ。」


 そういうと、雅はおもむろにスマホを取り出して何やら操作し始めた。しばらくすると、


「誠おじさん、話聞いてくれるって!」


「お、マジか!!いつ会えるって?」


 と、日程の確認をしようとすると雅は、


「日程はまた連絡するということになったけど、ただね、誠おじさん、ああいう人だから、『ただでは仕事しないよ』だって。」


 なんと!報酬を請求されたのか。まあ、向こうはプロだし、それで生計を立てているのだ。ただで話を聞こうというほうが虫のいい話だ。いくらくらいかかるんだろうか?と思い悩んでいると、


「でね、場所はカズ君の実家の俵家たわらやでお願いしたいんだって。」


「ん?俺の実家で?まあ、それは勿論構わないけど。。。なんで?」


「いや、誠おじさんが言うには、前にカズ君と会ったときに実家の話したじゃない?その時から一度食べに行ってみたかったんだって。で、報酬はカズ君の実家のお店のロースかつ定食でお願いしたいってさ。」


 なるほど、報酬とはそういうことか。それなら俺の財布も傷まないし願ったりかなったりだ。しかし、


「でも、かえっていいのか?税理士の相談料って無料のところもあるみたいだけど、誠おじさんって前に会ったとき無料相談はもうやらないって言ってたよな。正規の金額は忘れちゃって、今思い出そうとしてたんだけど・・・」


「ははは、確かに前にそんなことカズ君にもいってたかもね。確か誠おじさんのところは30分5,000円だったかな?」


「そうだよな~、とりあえず、トンカツだけじゃなくて、俺の誠意を見せるために菓子折りくらい持っていくべきだな。何かおじさんの好きなもの知ってる?」


「カズ君偉いね~、でも、誠おじさん御菓子とかあんまり食べないと思うよ、一人暮らしだし。何か持っていくならお酒とかのほうが良いんじゃない?」


「確かに雅の言う通りかもしれないな。じゃあ、お酒持っていくとするか。で、日程なんだけど、山喜さんの希望とか都合はあるの?」


 俺は『誠おじさん』と呼ぶ度は親しくはないので、以前会った時も山喜さんと呼んでいたのだ。


「おじさんが言うには、平日の夜でもいいけど、それだとみんな仕事終わる時間が読めないだろうから、土日のほうが良いんじゃないか、とは言ってくれたけどどうする?」


「そうだな、親父には連絡しなきゃいけないけど、来週の土曜日の昼、13時くらいはどうだろう?その時間ならお客さんも少し少なくなる時間だし、そのまま店で話してても問題ないように頼んでみるよ、とりあえず親父に事の次第を連絡してみるわ。」


 そして俺は、家の固定電話に向かった。何を隠そう、俺の親父はいまだガラケーユーザーの上に、普段携帯を持ち歩かないのだ。今は夜の9時、店の片づけも終わったころだ。この時間なら固定電話のほうが確実につかまる。


 Pururururu


 Pururururu


 Pururururu


 ガチャ


「はい、川中です。」


 電話の向こうから 母親の声がした。相変わらず親父は電話をとらないみたいだ。


「あ、母さん、俺、和也。元気にしてた?」


 そういう俺に対して、


「うん、まあ相変わらずだよ。お前こそ元気でやってる?」


「まあ、俺も相変わらずだよ。特に残業させられることもないし、いい会社だね。」


「そういうこと聞いてるんじゃないよ~、雅さんとはうまくいってるのかい?」


「ああ~、そういうことね。まあ、今日電話したことにも関係するんだけど・・・」


 そう言いかける俺の話をさえぎって、


「何々!?ついに結婚の報告!?いつ来るの?」


 ・・・・飛んだ早とちりである。


「いや、さすがにそういうことじゃない。まあ、話は来週の土曜日に店に行きたいんだけど、その相談。雅のおじさんの山喜税理士さんの話、前にしただろ?そのおじさんに、ちょっと投資の話を教えてもらおうと思って。それで、前に店のこと話したら、ぜひ一度食べてみたいということだったから、来週の土曜日13時にお店に行って、そのまま少し店の席使いたいんだけどいいかな?親父に確認したいんだけど。」


「あ~、そういうことね、家の電話にかけてくるからお父さんに用事があるんだろうとは思ったけど。まあ、それくらいなら平気だと思うけど、ちょっと待ってね、今代わるから。」


 『おとうさ~ん、和也がお父さんにお願いがあるって~、なんかね~・・・・』


 電話の向こうで母さんが親父に電話の子機をもっていっている様子が丸わかりだ。


「おう、和也か、久しぶりだな。なんか頼み事らしいがどうした。」


 親父に俺が、かくかくしかじか・・・・と説明して、


「わかった、来週の土曜日13時だな。」


 っと、言う親父に


「まあ、まだ、山喜先生には日程確認していないから、ひょっとしたら再来週になるかもしれないけど。また確認したら、母さんにメールするから、よろしく頼むね。」


 そう言って電話を切り、雅へ、


「親父のほうは話付けたよ。山喜さんへ日程の確認してもらえる?」


「ふふふ、もう確認したよ。来週の土曜日でOKだって。」


 そっちはLINEが使えるから便利だな。今週でお願いしたい旨、俺もLINEで母さんに連絡すると、


『OK~(*^^)v』


 と顔文字付きの返事が返ってきた。とりあえず予定が決まったので雅に、


「いや~、とりあえず決まってよかったな。雅もありがとうね。それにしても、いい事思い出してくれたね。誰かに聞くとなると、証券会社とか、投資セミナーとかかと思ったけど。」


 俺は、誰かに聞くと言われた時にはそんなことを考えた。そんな俺に雅は


「まあ、そういうのも悪くはないのかもしれないけど、無料のセミナーとか相談は、結局営業がつきものでしょ。私たちなら、そんな営業振り切れるかもしれないけど、その場の雰囲気って怖いからね。有料のものも自分たちが知りたい内容かどうか怪しいし、営業が全くないかどうかもわからないしね。その点、誠おじさんなら安心だわ。ちょっと面倒くさがりのオタク系だけど、勉強家だし知識はよ。」


 相変わらず雅は、人の評価にちょいちょい悪口っぽい言い回しが入るな。


「そういえば前に山喜さんが俺にこんな話をしてくれたよ。『何かをする時には【自分の労力と時間を使ってお金を節約する】か【お金を使って自分の労力と時間を節約するか】しかないって。『自分で何もしないで結果だけ得られるような都合のいい事はあり得ない』とも言っていた。『何かをするには【お金】【労力】【時間】は必ずかかるんだと。どれだけお金をかけても労力や時間をゼロにはできない』ともね。」


 それを聞いた雅が、


「確かにそうよね。なんでも人にタダでやってもらおうとか、それくらいのことでするなとかいう人がいるけど、そう思うんだったら自分でやれって話よね。」


 公務員という仕事柄、無茶なことを言われることも多いのか、雅がちょっと不機嫌になり、そんなことを言い出したので俺は、


「さて、とりあえず予定が決まったから、今日はもう、おつまみでも食べながらビール飲もうか!と、言っても今日のおつまみは【かっぱえびせん】ね。これ、昔からあるらしいけど、テレビでやってた昔のCM『やめられないとまらない~』っていうフレーズは、一度しか聞いてないけど頭に残っているよ。確かに言いえて妙だなと。」


 そうしたら、雅はうれしそうな顔をして、


「あ、じゃあ、マヨネーズも持ってきて!!あたしはグラスとお皿用意してくるね!!」



 そう、何気にかっぱえびせんにマヨネーズを少しつけて食べるとおいしいのだ。




今日の一言:何かをするには【お金】【労力】【時間】は必ずかかる

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