第14話 投票率とネット選挙

「選挙が終わったな~。」


 雅と一緒にテレビのクイズ番組を見ながら俺はこの前行われた選挙結果を思い返して呟いた。結果はご存知の通りだ。


「そうだね~。今回の選挙の投票率は50%行ってないみたいだね。過去2番目の低投票率で、50%割れたのは24年ぶりらしいじゃない。あれだけ年金問題や統計問題等、政治の話題が注目されたにもかかわらず、だもんね。まあ、日本人ってあまりにも政治に関心が無さすぎる気がするわね。」


 雅が同じく、クイズの問題を考えながらという感じでつぶやき返した。今回の特徴は、前回はそこそこ好調だった1819ことだ。前回は選挙権年齢が引き下げられて初の国政選挙だったためか、国・学校を上げて投票を呼び掛けた成果が出てそれなりの投票率だっただけで、若者の政治離れは思ったより深刻なのかもしれない。一方で、全体の投票率は確かに低いが、【期日前投票】に関しては、利用率は伸びているようだ。投票できる場所や時間などが以前より充実しているのも、それなりに寄与きよしていると思われる。今後どのような対策を取るかによっては投票者が増えることになるかもしれない。


「これは2番だろ!!」


 俺はクイズの解答予想口に出した。雅は、


「う~ん、私は1番だと思うな・・・。」


 と、クイズの答えをつぶやいた後に、


「選挙の話だけどさ、もしも・タラ・レバの話をしても仕方がないけど、が、一丸となって支持したい人や政党が現れれば、ことになっちゃうんだよね、日本の選挙って毎回。その程度のともいえるのよね。」


 そう言いながら雅がグラスを傾ける。中身は氷がと入り、薄黄色をした炭酸の飲み物が入っている。今日は結構蒸し暑かったので、ちょっと贅沢して炭酸水を購入し、ウイスキーハイボールを自宅で作ったのだ。もちろんレモン汁を入れるのも忘れない。残念ながら、生レモンを入れるだけの贅沢はできないけれど。


 俺もポテトチップスをつまみながら、一口と、ハイボールをあおり、


「まあ、投票所へ行かない人の心理は様々なんだろうけどさ。政治に興味がなくて、どうなっても【関心がない人】、【投票したい人がいない】から投票さえしない人、そして、一定数含まれるであろう人達は、【今の政治に特に不満がない】からわざわざ投票所へ向かうことすらしない人がいるんだろうけどね。。。」


 と、つぶやくと、クイズの正解が発表された。


「やった~!!正解!!」


 と、雅が叫んだ。正解は1番、流石雅だ。俺も結構自信あったのにな。


「そういえば今回『政見放送』ってやつ、夜にテレビやってたんだけど、あれを見るのは結構面白かったな~。You-tubeとかでもやってるしね。N放送をぶっ壊す!とか、N放送で叫んでるのも面白かったし、途中で興奮しちゃって、何言ってるのかわからないおじいちゃんもいたし。でも、N放送をぶっ壊すとか、安楽死とか、特定のテーマに絞った政治活動はとても分かりやすくていいわよね。」


 雅がそんなことを言うので、俺は、


「まあ、確かにそうだな。【ワン・イシュー】とかいうんだっけ?この何でもカタカナ語にするのは正直やめてほしいと思うけど。某知事の話なんか聞いてても『なんのこっちゃ』だったしね。話がそれたけど、そもそも政権を取れそうもない政党なら、こういう作戦を取れば、そのテーマ一つに賛成できれば投票しようという気にもなる人もいるだろうし。そういう政策法案を国会に提出できるってだけでもかなりの意味はあるし、国民全体に問題意識を提起するという意味では、確かに良い作戦ではあるかもね。そういう人たちがひょっとしたら投票率を上げるきっかけになるかもしれないな。それに、もしも投票自体を投票所まで行かずにネットで済ませられれば、投票率も上がると思わないか?」


 前から思っているのだが、ネット選挙解禁だとか数年前に話題になってたけど、あれは単にHPホームページ等でポスターなどを表示できるようになっただけで、今の時代、それ自体を規制する意味がわからないから、当然の措置だ。問題はそこで表示される内容や行為を規制すれば十分で、HP自体を規制することは報道の自由や知る権利を制限することにもなりえる。


「そうね、確かに今の時代、ネットで直接投票できれば投票率自体は上がると思うけど、たぶん日本じゃなかなか実現しないと思うわよ。」


 雅はクイズに頭を悩ませながら冷静に応える。


「なんで雅はそう思うんだ?今どき高齢者でもスマホ持っている人は多いし、わからなければ子供や孫に聞けばいいだけじゃないのか?」


 俺の素朴な疑問に、


「そういう事じゃないのよ、カズ君。今かカズ君が言ったことにヒントがあるんだけど、問題は簡単に【なりすまし】ができちゃうこと。そりゃ、今みたいに投票券もって選挙に行くにしても、本人確認しないから事前に誰かに渡してしまい、なりすましが起きることは否定できないけど、ネットの炎上問題と同じで、顔が見えるのと見えないのではそのハードルは段違いでしょ?もう一つは【秘密保持】の問題かな。どうしても、ネットで投票すると誰が誰に投票したかの情報が大量に流出するリスクが付いて回るからね。よく大企業でさえ、クレジットカードのデータが流出したとか、毎年数件ニュースになるくらいだし。」


「なるほどな~、流石は雅だな。そういう問題って日本は慎重だし、逆に対応が甘くて遅いよな。」


 俺が必死に次の問題を考えながらつぶやくと、


「まあ、ネット選挙問題は、少なくても、HPやSNSでの活動が認められただけでも日本的には御の字なのかもしれないわね。新しく参戦する人たちにとって問題なのは、そういう人たちがいることを選挙前にマスコミがもっと報道してくれないと、『そういう人たちがいることすら知らない』という人たちが沢山出ちゃうってことじゃないかしら。その点、ネットの利用はこれからの若い世代への訴求力は強まるかもね。」


 そういう雅の意見を聞いて俺は、


「確かにそうだよな~。大きな政党の話は多少報道されることもあるけど、所謂いわゆるっていうんだっけ?まあ、失礼な言い方だとは思うけど、あまり報道されない割に、そういう人たちが、意外としっかりとした面白い考えを主張していることってあるよな。最近ではそれこそYou-tubeとかSNSとかでも自分たちで情報を広めることもできるけど、それにしても、【そういう人たちがいる】ってことまでは、事前に知らないとYou-tubeにもSNSにもたどり着けないこと多いだろうしね。その点、若い人たちはSNSの情報を重視する人も多いからね。」


「あ、でも面白いこともあったよね。N党は議席獲得して、政党要件(※)も満たしたんでしょ。もう一つ政党要件満たしたも、歴史上の新選組は旧幕藩体制を守るために戦った、の集団だったけど、今はに燃えてるもんね!この矛盾、私気になってたんだけど、それをやっぱり気にしている人がいて、質問してくれたのね。そうしたら『維新をうたっているのに政権よりの政党もあるしいいでしょ?』みたいなことを言っていて、なるほど!と思わず感心しちゃったよ、私。」


 歴史好きの雅はなんとなく嬉しそうだ。



 日本の投票率は、国際的にみるとやはり低いほうだ。しかし、あれだけ大統領選挙が盛り上がるアメリカも、実は日本とそれほど投票率は変わらない。だからこそ、あの人が大統領になるチャンスがあったともいえる。大規模な政治的デモが行われる隣のK国もだ。一方で世界には投票率が90%を超える国も結構ある。


 投票率については様々なことが考えられるが、今の日本において、多少のデモ活動は行われているものの、暴動が起きるというほどの事件は起きていないのが現実だ。先日、香港ではでは暴動が起きた上に、真偽は定かではないが条例反対の意思表示で自殺した者までいるらしい。俺は『自分の意見を主張するために自らの命を絶つ』という行為にはあまり意味を見出せない。それならば、自分の意見を広めるために活動をから、自らの命を絶っても遅くはないのではないかと思う。


 少し話がそれたが、様々な問題が指摘されるものの、先進国と言われる国が、意外と投票率が低い傾向にあるようだ。そう考えると、投票率の低い日本はかつてないほど住みやすい国なのかもしれない。


 ただ、国会が日本を動かしているのも、また事実である。そして、生き物だ。具体的には得票率。その先にどんな利権があるのかは知らないけれど。


 政治家からすれば、選挙へ行く人は、ひょっとしたら誰かの名前を書くかもしれないと考える。【選挙へさえ行かない人】は、彼らにとってはでしかないのだ。その考えは勿論政策に反映される。


 そんなことを考えながら、ハイボールのお代わりを二人分、さっきの問題を間違えた俺が作ることになった。そうして、少し酔っぱらった頭で雅と二人、クイズ番組に興じながら、選挙後の初めての週末の夜は過ぎていった・・・


 今年の梅雨は蒸し暑い日よりも寒い日が多かった気がする。明日は暑いのかな?



 今日のひとこと:野党が本気で政権を脅かすという気概が感じられない選挙戦だったな


※ 政党要件:公職選挙法で規定される政治団体が政党として認められるための要件。政治団体に所属する国会議員が5人以上または直近の衆院選、参院選の選挙区か比例区のいずれかで得票率が2%以上であることが必要。

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