第12話 選挙と業界団体と政治(消費税軽減税率)

 また選挙がある。今年はやたらと選挙が多いな。しかし今回の選挙は参議院選挙、国政選挙だ。巷で言われていた衆参同時選挙にはならなかった。まあ、直前で老後の生活費、年金不足2,000万円問題で政府は大ダメージを受けたからな。何かあれば議席を確保できないという危機感を持ったのだろう。消費税の増税も控えて、こちらも巷でうわさされていたような、増税延期にはならなそうだ。下手に何かをすると支持率が暴落するかもしれないと考えたのだろうか。それとも二つを天秤にかけたのだろうか。相変わらず【事なかれ主義】が日本の政治家と役所のお家芸だな。


 俺はジャガイモの皮をむきながらそんなことを考えていた。隣では雅が人参の皮をむいてくれている。今日の夜ご飯は肉じゃがだ。


 そういえば、消費税と肉じゃがで思い出した。今回の増税では軽減税率が導入されるらしい。まあ、軽減とはいっても、今の消費税がが8%、増税後の軽減税率も8%であるからして、実際には【軽減】ではなく【据え置き】というのが正しいのではないかと思ってしまう。


「なあ、雅、今度、消費税が増税になるだろ?その時に軽減税率って導入されるじゃん。あれどう思う?」


 雅は自分の担当仕事は終わったとばかりに手を洗い、リビングへと向かいながら俺の問いかけに対して、


「んん~、正直、消費税の増税は痛いね。社会人1年目の私としては、これ以上支出が増えるというのは将来の不安にしかならないよ。そう考えると、とりあえず食品だけでも消費税が安くなるのはありがたいといえばありがたいかな。なんか、増税対策でキャッシュレス決済にポイントもつくらしいし。」


 なるほど、確かに俺も給料が大して増えないのに支出が増えるのは痛い。そもそも、消費税率が上がれば物価は上がるが給料が増えないのは、消費税法で給料を払っても給料を払う会社は消費税の納税に影響がないからだ。そこを利用する奴は給料を払わず、外注費として支払うことを考える。その場合、会社は納める消費税を減らすことができる。


 俺は皮をむき終わった食材を切っていく。ジャガイモは基本半分、大きめに切るのが俺好み。人参は乱切り、玉ねぎはだ。しかし、


「因みに、そのキャッシュレス決済にポイントつけるのって、9か月くらいの期間たぜ。」


 俺の言葉に雅はまた驚いて、


「えぇ~!そんな短期間の話なの?ほとんど意味ないじゃん、それじゃぁ!!この先ずっとかと思ってたよ!」


 ごもっともである。そして、なぜ俺が珍しくこんなに詳しいかというと、実家の影響だ。実家は飲食店であるため、前に親父に調べてほしいと頼まれたのだ。もちろん、実家では普段、税理士に顧問も頼んでいるのだが、料金があまり高くないせいか、税理士が年のせいか、あまりそういうアドバイスをしてくれないらしい。税理士を変えればいいのに、とも思うが、結局『いい人が良くわからん』という理由で長年同じ人に頼んでいる状況なのだ。


 まあ、その辺の事情は、今回は置いておいて、俺はさらに雅との会話を続ける。


「でもさ、あの軽減税率って、どうにも中途半端だよな。建前としては『低所得者の負担を緩和する為に生活必需品に対して税を軽減する』ということらしいけど、これ、高所得者のほうが恩恵受けるんじゃないか?お金持っている人のほうが高級食材買うだろ?」


 そういう俺に、


「確かにそうよね~。口では【低所得者】への対策と言っても、食べ物は金持ちも食べるし、低所得者より高いお金使うものね。ポイントって言ってもキャッシュレス決済のためのクレジットカードやスマホを持つにしても、低所得者にはハードル高い面もあるしね。しかも9か月程度の話じゃわざわざ導入する手間もあるから、消費者は勿論、カズ君の実家みたいな個人商店じゃ、決済システム導入費用の負担のほうが大きくなるから、あまり普及しない気がするわ。カード会社に支払う手数料はお店がずっと負担していく事にらるんだしね。【税と社会保障の一体改革】なんて話も前に聞いたことあるけど、低所得者対策は【税金】で行うのではなくて【社会保障】として行うべきよね。そう考えると、なんだっけ、えっと・・・」


 そうこうしているうちに、俺は、切り終わったジャガイモを油を引いた鍋の中で弱火~中火で軽く炒めていく。実はこれがポイント、ここで煮込む前に油で軽く炒めておくと煮崩れしにくいのだ。雅が悩んでいるので、


税額控除のことか?」


 俺が言うと、


「そう其れ!給付付き税額控除。そっちのほうが理にかなっているとは思うわよね。そもそも生活を守るというのに、電気や水道、ガスなんかが10%っていうのも納得がいかないのよね~。」


 雅がそんなことを言うので、俺が、


「それ、前に国が面白いこと言ってたよ。『水道水は飲食もするけど、洗濯やお風呂、掃除などにも使われるから』なんだと。一方で、ペットボトルのミネラルウォーターは『食料品』で軽減税率対象なんだから笑えるよな。」


 それを聞いて雅が、


「え〜!そうなんだ!!それは本当におかしいよね!!」


 俺はついでに


「さらに言うと、薬も食料品じゃないから10%、よく【栄養ドリンク】って、いくつかあるけど、これも【医薬部外品】に該当するものは10%、【清涼飲料水】に該当するものは8%なんだと。」


 それを聞いた雅は


「そうなんだ~、なんだかおかしなことになっているんだね。まあ、私たち消費者はお店でど、お店の人は経理や設備投資が大変そうだ。」


 一通り、食材を鍋で炒め終わったところで、鍋に水・だしの素・砂糖・醤油、それにみりんと酒を適量入れていく。


「そういえば、手元を見て思い出したけど、この【みりん】は食料品で8%なんだけど、こっちの【日本酒(清酒)】は嗜好品と考えられて10%なんだよ。たとえ、こうやって料理に使っても軽減税率の適用はない。やっぱりおかしいよな。」


 最後にお肉を広げて鍋に入れれば、あとは煮込むだけだ。弱火で1~2時間煮込めば十分。


 さて、一通り、話のは終わった。俺は今日の核心を突く話を持ち出した。


「実は、これからが今日の話の本題だ。今までの話って、基本【食料品等】、まあ、生きていくために必要なものの話じゃない?水道は勿論、電気やガスにしても、現代社会では生きていくために必要不可欠と言っていいが、軽減税率の対象じゃない。そんな中、が軽減税率の対象になっているんだけど、雅知ってる?」


 そう問いかける俺に向かって、雅は


「ん~、わからないな~。生活必需品だよね?電気・水道・ガスも違って、更にお薬も違うんでしょ?衣食住とは言うけど、もそういう話は聞いたことないからな~。」


 悩む雅に対して、俺は言った。


「すごく違和感があるぞ。実は【】だ。」


 それを聞いた雅は、


「え~~!!新聞!?なんで!!??どう考えても生活必需品じゃないじゃん!!」


 まあ、普通はそうなる。そもそも生きるため、生存のために新聞は必要ではない。水道や電気のほうが余程大事だ。それに、新聞なんて、この出版不況でどんどん必要性が減っている。


「驚くだろ?その理由というのが『活字文化の維持、普及にとってである』からなんだとさ。そのうえでさらに驚くのが、電子配信の新聞購読料は軽減の対象じゃない。」


「えっと、さっきも言ったけど、新聞って生活必需品じゃないし、そもそも今の日本で、新聞購読してる低所得者ってどれだけいるの?新聞より食べるものや洋服を買いたいんじゃないかな?まあ、私のお父さんは新聞購読しているけど、私は読んでないよ。カズ君も一人暮らしだけど新聞とってないもんね?」


「ああ、今どき新聞よりネットのほうがニュースが早いし、重要な記事はすぐにスマホにも通知があるからな。正直ネットでも有料登録してまで読みたい記事はないかも。情報がタダで入手できるのが、果たしていい事なのかというのは、また別の問題として考えなきゃいけないんだろうけどね。生活に必要な重要問題はそれこそYAHOOニュースでも、テレビやラジオでもやるだろうしね。もっというと『活字文化の維持、普及』って、学校の義務教育でやることで、新聞の役割じゃないと思うんだ。確かに最近ではパソコンやスマホで文字書いちゃうから自分で書くのはだいぶ忘れているけど、新聞読んでも書けるようにはならないからね。」


 雅もスマホを見ながら、


「確かにだいぶ自分の手で字を書かなくなったけど、新聞読んでも書けるようにはならないもんね。それに読むだけなら、新聞じゃなくても、小説やネットでも良いわけだし。でも、そう考えると、なんで新聞は8%の軽減税率が適用されたんだろうね?」


 そんな雅の疑問に対して俺は、


「それこそ【政治】の力だよ。まあ、厳密には【政治の力を利用したの力】ってやつかな。結局、日本の民主主義において数の暴力には勝てないからね。きっと新聞業界が政党批判の記事をぶちまけるぞとか、政党支援をやめるようなことをて無理くり通した法律だと思うよ。だって、軽減税率の理念からすればおかしな理由だし、もしその『活字文化の維持、普及』というのが目的なら、新聞だけが軽減対象になるというのは理由が通らない。わかりやすいのは、それまで増税問題を散々報道していた新聞各社が、軽減税率の対象に新聞が該当することになった途端、増税問題を記事にしなくなったらしいからね。一方で面白いのはNHKの受信料も軽減税率じゃないんだよ。これって受信料が【公共放送】だからって法律で無理やり契約させているのにおかしいだろ。水道でさえ、契約は任意なのに。」


 まあ、そんなわけで、俺たちは消費税の矛盾、特に軽減税率がおかしいという話をして、散々盛り上がった。


 また、現在の国家予算についても、

『(バブル期を超えた最高税収+過去最大の社会保障費の国民負担増大+過去最高の国債残高)、なのに消費税がさらに増税!これって無駄遣いが過ぎるんじゃね』

 などと、今の政府の言っていることって、よく考えてみるとおかしなことが多い、という話や、

っていう公約はどうなったんだ~?増えてんじゃん!!』

 という話まで言及した。


 そうこうしているうちに、いい感じに、美味しそうな匂いがリビングまで漂ってくる。肉じゃがができたようだ。


 俺たちは、できた肉じゃがで夕飯を食べるべく準備を進める。もちろんお酒も忘れない。今日はせっかく先程話題に出たので、日本酒にするか。


 さて、肉じゃがとご飯からは湯気が立ち上り、日本酒はキンキンに冷やされている。


「それでは・・・」


「「いただきま~す」」


 言いながら雅がジャガイモを頬張っている。


「ん~、中までちゃんと火が通っててホクホクでおいしいね~。」


 そういいながら日本酒を飲んでいる俺を見て雅は


「そういえば、さっきの話だと、この日本酒は税率10%なんだよね~。でも、新聞が8%っていうのはやっぱり納得がいかないわよね~。」


 雅が不満そうにそういうので、俺は、


「そうだな。考えるのは財務省の役人かもしれないけど、それを最終的になんだよ。そう考えると、やっぱり選挙って大事だよ。自分が投票しても何も変わらないと思うんじゃなくて、って思えば、選挙にはやはり行くべきだよな。当日都合がつかなくても、今は【期日前投票】の投票場所や時間もだいぶ充実してきているしね。」





 本日の最後の一言:数の暴力が通用する日本では多くの人が集まって選挙に臨めば法律すら変えられる。


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