第8話 ショートストーリー 「無策」

 俺たちはいつもの通り、リビングでビールを飲みながらテレビを見ていた。まあ、夜のニュース番組だ。そこで、中央銀行の総裁が話をしていた。そこで彼は


 『大規模な金融緩和政策を継続することに決めました』


 などとのたまわっていたのだ。


「な~、みやび、なんか『大規模金融緩和政策を継続する』とか言ってなかったか今。」


 ・


 ・・


 ・・・


 あれ?反応がない。隣を見てみると雅は漫画に集中していた。今回はショートストーリーギャグマンガの様だ。これ、確かに面白い。中学生くらいまでは『ギャグマンガなんか』と斜に構えていたが、読むと確かに面白いものが多い。まあ、駄作が多いのも事実だが・・・


「雅?そろそろ終わったか?」


 その漫画を読み終わったのを見計らって声をかける。


「ん?カズ君、どうした?」


 ようやく俺の声に反応してこちらに顔を向けてくれた。


「いや、何ね、ニュースでまた中央銀行総裁が『大規模金融緩和政策を継続する』とか言ってたからさ、雅はどう思うのかなと思って。」


 そういうと雅は不機嫌そうな顔をして


「あ~、まだそんなこと言っているんだ、あのおじいさん。そろそろ引退したほうが良いんじゃないかな~。」


 などと、言っている。相変わらずたまに口が悪いよ、雅さん。そういう俺の気配を察したのか、


「だってさ、この人まったくわかってないよ。インフレ目標2%だっけ?これって相関関係と因果関係を完全にはき違えているよね。本来景気が良くなるからインフレが起きるのであって、インフレを先に起こすと・・・なんだっけ?あの、ほら・・・」


「スタグフレーション?」


 と、俺が助け舟を出すと


「そう、それ!そのスタグフレーション!!」


 雅さん、意外とカタカナ語が苦手なのよね。まあ、俺も得意ではないが、その辺は経済学部、大学で勉強した俺に理がある。


 続けて雅は


所謂いわゆる景気が悪い中でインフレが起きることだよね、スタグフレーション。そんなことになれば、一般国民、特に低所得者層の人の生活がさらに苦しくなるだけなのに。車はエンジンが動くからタイヤが回って前に進むのであって、タイヤを無理やり回してエンジンを動かそうとしているのと同じだよ。この人のインフレ目標ってやつは。インフレが起きれば景気が良くなるわけじゃない。」


 お、さすが雅、わかりやすい説明ありがとう。と、思ってたら、さらに続けて


「もっといえば、『を継続する』って言ってるけど、この政策もう始めて5年も6年も立っているのに目標達成できず、めぼしい効果もないわけでしょ?そういうのを継続するのは『政策』とは言わないの、それは単なる『』よ!!」


 あれ?雅さん、結構酔ってます?いつもより語気が荒いよ。たまにスイッチ入っちゃうんだよな~。そして俺は、雅の話を聞いて


「確かにね~、世の中、特に経済ってやつは天秤みたいなもので、ぴったり真ん中で止まるのは良いことじゃないな。何かあったら一気に傾く。下手にとまっていると、ちょっとずつ一方に傾いていくことに気が付きにくい。そして、そういう天秤は一気に加速して、しまいには倒れてしまうこともある。だから経済っていうのは天秤を揺らしながらじゃないと発展しないんだと俺は思うよ。要は一方に偏りすぎないように調整するのが『金融政策』であって、天秤が動かないなら、たまには突いて動かすことも必要だよね。そうじゃないと取り返しがつかないところまで行くと反動が大きくなりすぎるからね。」


 ・


 ・・


 ・・・


 あれ?また反応がないと思って、隣を見たら雅は軽く口を開けて居眠りしていた。なんか今週は仕事忙しかったらしいしな。起こすのもかわいそうかと思い、枕と布団だけ持ってきてかけてあげた。


 さて、俺もそろそろ寝るか。



 今日のひとこと:効果のない方法を継続するのは『政策』ではなくて『


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る