第5話 少子高齢化は問題か?!

 「ふあぁ~~」


 俺は思わずあくびをしてしまい、目をこすった。


 「あれ? どうしたの? まだ八時だけど、ずいぶん眠そうだね?」


 ソファーに座りテレビを見ながら欠伸をする俺に横から雅が尋ねてきた。確かに普段であれば毎週見ているドラマを楽しみに見ている時間だ。しかも土曜日、明日も仕事は休み。まだまだ夜はこれからだ。


「んん~、ほら、今日昼間でかけてたじゃない?」


「ああ、そういえば、おばあさんの太極拳を見に行ってたんだっけ?」


「そうなんだよ、なんだか知らないけど、俺のばあさんが所属しているグループの交流会があるとかで、見に来てくれる人がいないと張り合いがないから来てくれって言われてさ。お小遣いくれるっていうから孝行な孫を演じに行ってきたんだ」


「で、その様子を見ると楽しくはなかったってことかな?」


 と、雅が問いかけてきた。祖母の所属する会はそれ程大きい会ではないらしいが、それでも100人位は居たのかな? それらの人達が、単独で表演していることもあれば、数人で集団演武をすることもあった。が、如何せん、動きがゆっくりで、しかもBGMがさらに眠気を誘うようなのんびりしたものが多い。中には1990年代のJ-POPをBGMにしているグループもあったが、少数派だ。ただでさえ、動きがゆっくりである太極拳の表演であるのに、表演するそのほとんどの人が60歳以上、中には80歳くらいの人もいただろうか。人生100年時代とはよく言ったものである。たまに若めの人がいるかと思いきや、それでも40代位だろうか。きっと一年経つと会員の平均年齢も一つ増えるというような状態ではなかろうか。いや、もっとひどければ、最高齢からリタイヤして、平均年齢が一つ増えないという笑えない状況かもしれない。


「ま~、ばあさんが、『女性ばっかりだからお前、もてちゃうかもよ~』なんて気持ちが悪いことを言っていたけど、確かに女性ばかりだったよ。数人は男性もいたけどね」


 そういうと雅はニヤつきながら


「ふ~ん、で、カズ君はモテモテだったのかしら?」


 などと俺をいじってくる。


「確かに、20代の男性が見学に来ることなどないであろう、また、旦那さんでさえも見学に来ないばあさん達だ。久々に会う孫に対するようにみんなが飴だの煎餅だのお菓子をよこすのには閉口したよ。俺、お菓子とかほとんど食べないし、果物とかよこされてもね。。。」


「あはは~、それはモテモテで大変だったね」


 ・・・雅さん、完全に俺で遊んでますよね?何となく、居心地が悪くなったので、とりあえず冷蔵庫までビールを二本取りに行った。そこで冷蔵庫を除くと、昨日買って使いそびれたもやしが一袋丸々残っているのを発見した。ふと思いついて


「ちょっと待ってて、おつまみ作るから」


 と言いながら、とりあえずフライパンにお湯を入れて、蓋をして沸騰させる。そこへもやしを入れ狩る日火が通ったところで、お湯をあらかた捨てる。多少水気が残るくらいでちょうどいい。そうしたら、死をを少々、味の素、鶏がらスープの素(顆粒)を少しふりかけ、その上からごま油をくるっと、適量垂らす。そうしたら焦げない程度の中火でかき混ぜながら水分を飛ばすと、もやしナムルの出来上がりだ。


 これをお皿に移して、ビールとともにテーブルへ運ぶと、雅が、


「お~、もやしナムル久々だね!!ごま油のいい匂いがすごく食欲をそそるよ!」


 と、すぐにでも食べたそうな顔をして待っている。はやる気持ちを抑えて、プシュッといういい音をさせ、缶ビールの飲み口を開けグラスにビールを注ぎ、


「さて、今週もお疲れ様でした~」


「「かんぱ~い!!」」


 と二人でハモリ、グラスを傾けて、一気に二口、三口飲み込む。少し前までは、ただの苦い飲み物で、どちらかというと好きではなかったが、今では秋町のこの一杯がやめられない。ホント、このみって年を取ると変わるものだな。


「く~~、うまい!!」

「最高だね!!」


 と、ひと心地着いたところで、今日、気になったことを雅に話してみた。


「そういえばさ、人生100年時代とかいうけど、一方で少子高齢化が問題だって言われてるよね、雅はどう思う? 今はまだ想像もできないけど、俺たちもいずれは高齢者になるわけだもんな」


「そういえば、最近、市でやるイベントでも、明らかに高齢者率が上がっているものね。まあ、お年寄りがすごく元気には見えるけど。でも、福祉課の人に聞くと、元気な高齢者は増えているのは間違いないけど、それは全体の人数が増えているからで、健康ではないお年寄りも相当数いるらしいわよ」


 雅の言葉を聞いて少し考える。そうなのだ、元気なお年寄りが多いとはいえ、それは分母(お年寄りの総数)が増えた結果、分子(健康な人)も増えただけという可能性もあるのだ。医療の進歩や食生活の改善により、寿命が延びた側面も大きいけれど、人は年を取ると衰えることは変わらないのだ。


「確かにね~、お年寄りの総数が増えたことにより、昔に比べれば、街中に元気なお年寄りの絶対数が増えているというだけなのかもね。そのうえで若い世代が減っているということは街にいる人の中での割合も増えるということだからね。割合的に増えるからお年寄りが全体的に健康で長寿のように見えているだけなのか。病気や健康でない人はそもそも街中に出てこられないもんな」


「そうそう、そのうえで、晩婚化が進み、出生率も下がっているでしょ? 女性の社会進出とか原因は色々とあると思うけど、私はそれだけが原因ではない気がするな」


 と、ちょっとなぞかけのようなことを雅が言ったので、


「それってどういうこと?」


 と、思わず問い返してしまった俺に


「うん、地球上の生命って、元々いいバランスをとっていると思うんだよね。端的に言うと、弱肉強食!? っ的な?」


「確かにそうだと思うけど、それが少子高齢化とどう関係があるの?」


 謎が深まる。


「うん、つまりね、そもそも個体が強固で長寿な生物は出生率が低い、逆に個体が弱く短命な生物ほど出生率が高いんだと思うわけですよ、雅さんは。ちょっと見ても昆虫より鳥類や哺乳類のほうが基本長寿だし個体としても強いじゃない? 同じ哺乳類でも猫よりライオンのほうが個体として強固だから出生率も低い。ライオンが猫のようにどんどん子供産んだら、世界中ライオンだらけになっちゃうもんね」


 何となく雅が言いたいことが分かってきた。


「前にこんなことを言った人がいたけど『人類は地球にとっての癌細胞だ』ってね。まあ、ある意味正しいのかもしれない。っ地球環境において正常な繁殖率を大きく上回って人口が増えていたことは間違いなさそうだもん。でも、地球、或いは生物のDNAはそんなに馬鹿じゃない。つまり【増えすぎたものは自然に減少する】ようなものが本能より深いレベルで存在するんじゃないかな。以前より医療の発展や食生活の向上により、より強固にかつ長寿になった人間は出生率が減るのが当たり前なんだよ。現に先進国のほうが発展途上国より出生率が低下することはかなり前から知られていたことでしょ?」


「つまり少子高齢化は【問題】ではなくて【必然】だと雅は言いたいんだね」


「うん、何となくだけどそう思う。そもそも、ず~~と人口が増え続ければそのうち生活できる土地が足りなくなっちゃうもん(笑)。現に1900年以降の人口の増加率が続けば笑い事ではない近い将来にその状態は来ると思う。それに伴い、食料を確保していけば、人間以外の生物、牛や豚だけではなく、魚や植物さえも増えるより消費されるほうが多くなってしまうよね。今でさえ、マグロやウナギが絶滅危惧種扱いされているんだから。生物の本能は残酷な面もあるけど、そもそも自分たちの生活環境を消滅させてしまうほどには馬鹿なことはしないようにできてると思うんですよね、私としては」


「そう考えると、少子高齢化は【問題】ではなく【必然】と言えると俺も思うよ。つまり少子高齢化が問題だという政治家や役人はそもそもの必然を見落とす無能であり、そういう人しか政治家や官僚がいないということのほうがよっぽど問題な気がしてきたよ」


「確かにね~、忖度だの資料の改竄かいざんだの統計手法の不正だのここ数年そんなニュースばかりだもんね。こりゃ、日本の未来は明るくないな~、やはりご老人たちには早々に引退してもらって、若い人たちが主導しないとダメなのかもしれないわね。私も地方とは言え、いち公務員として、今日の話は身につまされましたわ。公務員って前例主義だからね」


 さて、今日は疲れたからそろそろ寝るとしようか。ビールとも丁度ど無くなったしね。



 今日のひとこと:問題は少子高齢化じゃなく政治と行政の前例主義が問題を先延ばし解決させない原因かもしれない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る