第3話 平等な社会

「世の中って不平等だよな……」


 俺はテレビを見ながら思わずつぶやいた。目の前には今夜の夕飯のから揚げがある。


「ん~、急にどうしたんだい?」


 それにこたえるように隣に座った雅がから揚げにレモンをかけながら問い返してきた。


「今のニュース見てただろ? 企業収益は過去最高、納税額も過去最高。片や非正規雇用の人たちは相対的貧困っていうの? そういうのが増えてるらいいじゃん。会社がもうかっているんだから、何とかしてやれないものなのかな?」


 俺は、二つのまったく相反するニュースが続けて流れたため、思わずそんなことを考えた。企業収益が過去最高ってことは世の中過去最高に景気がいいってことじゃないのか? でも、周りで景気がいいなんて言う話はほとんど聞かない。たまに聞いたのは競馬に当たった会社の先輩の話だ。これは確かにうらやましいが。。。うらやましいけど、世の中の景気がいいという話とは違う。


「ほうほう、カズくんは会社がもうかってるのにお金に困る人がいるのが不平等だといいたいのかな?」


 と、予想外の言葉が返ってきた。てっきり『そうだよね~、何とかならないのかな~』なんて言う言葉を予想していた俺は少し驚いて、思わず、


「え?」

 という言葉が思わず口をついた。


「まあ、お金という面もあるけど、生活とかいろいろあるけど、平等なのはいいことじゃないのか?」

 疑問に思い俺は問い返した。


「ん~~、そうだね~、じゃあ最近話題いになっていた仕事と給料について考えてみようか」


 と雅はそんな問題提起をしてきた。因みに今夜のから揚げはニンニクで味付けをした俺のスペシャルレシピの一つだ。


「働き方改革とか、同一労働同一賃金とかいうじゃない? あれって何を目指しているんだと思う?」


 俺は少し考え


「それは同じ仕事た人には同じ給料を払うということじゃないのか?」


 とこたえた。


「うんうん、たぶんそういうことをしたいんだろうと私も思うよ。でもよく考えてみて。そもそも【同じ仕事】ってあると思う?」


 と、問いかけてくる雅に俺はすぐさま


「それはあるんじゃないか。身近なところでいえば、コンビニでレジ打ちしたり、商品の品出ししたり、書類の作成にしてもそうだし、農家の人が同じだけ畑を耕すとか、営業にしたって、何件契約とれました~とか」


 思いついたことを並べてみた。


 すると雅はさらに


「カズ君が言うのは【それぞれの分野での同じ仕事】だよね。でも、今言った中でも【コンビニのレジ打ち】と【畑を耕す】仕事は同じだと思う?」


 確かに……そういわれるとそもそもが同じ仕事じゃないものに対して、どうやってその成果を測るんだといわれたら、これはなかなか難しい。いや、待てよ、それを言うなら、同じコンビニのレジ打ちだって、お昼のサラリーマンが押し掛ける時間と深夜のほとんど人が来ない時間のレジ打ちが同じとは言えないか……などと、黙り込んで考えていると、雅が斜め下から見上げる様に俺の顔を覗き込んできた。


「その顔は何か思いついた顔だね?」


 ・・・か、可愛い。なんで下から見上げてくる女性の顔ってかわいく見えるんだろ

う。って、今はそういう話じゃなかったな。


「そうだね、確かにそもそも同じ仕事なんかないもんね。じゃあ、仕事によって給料が変わるのはなんでだろうって、考えてみてたんだけど、いまいちまとまらないんだ」


 そう、実際考え始めて、同じ仕事はないというところまでは考えついた。でも、じゃあ、給料の基準って何で決まるんだろうか。何となく答えが出そうではあるものの、うまく考えがまとまらない。


「それは難しい問題だよね。でも、よく考えてみると、例えば高収入といわれる仕事はあるよね。昔からいわれるのは医者とか弁護士とか? 一方で、さっきも出てきたコンビニやファーストフード店のバイトさんなんかは比較的給料が安い職業といわれるよね。その違いってなんだと思う?」


「そうか!」


 雅がくれたヒントのおかげで、思いついたころがある。


「確かに医者や弁護士、建築士なんかは比較的高収入の人が多いといわれているね。これらの仕事は【資格】が必要なことが多いんだ」


「うんうん、ちょっとはいい線に来たかな。もう少しいうと、資格がないとできない仕事というのは一般的に言って難しいといわれている仕事だよね。でも、例えば最近だとIT産業のように、資格が特に必要なくても高収入の人がいる。もっとも、IT関係の仕事なんて義務教育では習わないことを知らなきゃ仕事ができない。つまり、できる人が少ない仕事ほど高収入になりやすいんだよね。反対に誰でもできる仕事ほど替わりはいくらでもいるよ? って感じで雇い主の力が強く、給料も安くなりやすい。もっというと医者や弁護士にも腕がいいといわれる人とそうでもない人がいるよね。同じように、コンビニのレジにしたって、ファーストフードの厨房にしたって腕のいい人とそうでもない人って出てくると思う。でも、これらの仕事って、最低賃金といわれるところでまとめられちゃうんだよね。本当は仕事の効率も出来も違うと思うんだけどね」


 雅の話を聞いているうちに、最初の自分のつぶやきに対する一つの答えが出た気がする。


「そうか、つまりそもそも、【難しい仕事ができる人】と【簡単な仕事しかできない人】が同じ給料をもらうことが不平等になってしまうんだね。そして、一見同じような仕事であっても、本当は能力に差があることに気が付かないと、その見た目だけで同じ給料を払えばいいという、これまた不平等なはずのことが平等にしているように見えてしまうこともあるのか。もっというと【時給】っていう考え方だと、同じ時間働いたら同じ給料になるけど、例えば工場で1時間に10個の製品を作れる人と5個の製品しか作れない人がいたら、5個の製品しか作れなかった人は【同じ時間働いたんだから同じ給料をもらうのは当たり前】というだろうけど、同じ時間で10個作った人は【5個しか作っていない人に比べて倍の成果を出したんだから給料を倍払ってほしい】と思うだろうね」


 そういうと、雅は少し驚いた顔をして


「すごいね~、私そこまでは考えてなかったよ。すごくわかりやすい。確かに【時給】という制度自体が不平等の根源みたいな面もあるよね。でも、一定時間人を仕事に拘束するわけだから、その対価も必要だし、すごく難しいよね」


 なんだか、雅が問題点をきれいにまとめてくれた。


 ちなみに今夜のから揚げ、雅はニンニク味よりショウガでの味付けのほうが好きだ。買い物の費用はお互いに半分ずつ支出している。でも俺が作ったから俺の好きなニンニク味だ。これだって、お金は半分出したんだから半分はショウガ味にしてほしいというのも平等かもしれないし、俺が作ったんだから俺の好きな味付けにするという考えも平等だ。ようは不平等を口にする人は少なからず自分のエゴが表に出ている場合が多いのかもしれない。とりあえず、難しい話は置いておいて俺は唐揚げをほおばった。



 本日の最後の一言:「そうだね。つまり、【誰かが思う平等は誰かにとっては不平等だ】ってことだね」




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