四章 your
4-1
2018年3月
今日は息子の入園のために必要なものを揃えるため近くのショッピングモールへやってきた。
……必要ない人物も含めて。
普段は仕事で帰りも遅く、息子の世話は私がほとんどやっている。家事もこなしているつもりだ。
それでも、たまにこうやって連れ出してくれる夫の方に息子は懐いている。
何故だろうと本当に思うし、僅かな苛立ちも感じてしまう。
やはり、私は母親失格なのだろう。
幼稚園で使うリュックを息子に背負わせてみる。
「カッコいいねー。カズくんこっち向いてー」
溺愛しているような声色で息子の写真を撮る。側には夫がいて、ニコニコしている。
一見すれば理想の幸せな家族像だろう。
「--おかあさん。おなかすいた」
予定してした物はほとんど買い終えた。
時間は16時。出掛ける為に昼食を早めに家で済ませていた為、息子がお腹を空かせたようだ。
「花蘇芳、何が食べたい?」
夫が息子に訊ねていた。
朝から準備などでバタバタしていたため、帰って準備するのは正直、億劫だが……。
「おうちで、おとうさんとごはんたべたい」
……当然だろう。普段は息子と夕飯が一緒になることはほぼ無い。加えて人混みの中を連れられ、息子も疲れているのだろう。早く家に帰りたいはずだ。
夫にそれとなく、目配せをする。
「そっかー。それじゃ、何か買っておうちで食べようか」
夫にしては上出来な判断だった。
「でも、お父さん喉乾いたからジュースだけ飲んでいい?花蘇芳も飲んでいいから」
そう言うと夫は、私と息子を座らせ一人フードコート内に進んで行く。
全く上出来ではなかった。飲み物なら自動販売機がある。
「はぁ……。花蘇芳疲れたでしょ? お母さんに寄りかかっていいわよ」
息子を抱き寄せようとするが、首を横に振り父親が向かった先を見つめている。
「それじゃ、今のうちに……」
先程撮った写真をSNSに投稿するため画像の加工を行う。
鏡に自分が反射していないか、地域が分かる物はないかなど、目を凝らし探す。
そんなことをしていると、ふいに夫からカップを渡された。
「はい、牡丹はカフェオレ。花蘇芳には…クリームソーダだ」
確かに私はカフェオレが好きだった。ただし、それは付き合っていた当時の話だ。
息子を産んで以来、甘いものが苦手になりコーヒーを飲む際は専らブラックになっていたのだが……。
こういう好意の押し付けが、たまに酷く嫌になる。
そんなことを思っていると夫が携帯を覗き込んできた。
「……ん? 何してんの?」
理解出来ない夫に説明する必要はあるのだろうか? そう思いながらも、ありのままを応えてみた。
「ん~? ……さっき花蘇芳にリュック背負わせた時に撮った写真を加工してるの」
息子は本気でお腹が空いて来たらしく私の腕を頻りに引っ張っていた。
限界が近い息子を余所に夫の質問は続いた。
「なぁ牡丹、それ面白いの?」
さっさと終わらせて帰りたいのに、こうも話し掛けられるとやりにくくてしょうがない。
適当に話を合わせておく。
「面白いか?って聞かれると…ちょっと分からないけど…こうやって花蘇芳の成長記録みたいにしながらだと、その時の事を思い出したりもするわね」
産まれた直後からの写真を一覧で見せてみる。
感慨深いのだろうか、画面を凝視している。見られて不味いものはないが、少し不安になり携帯を自分の前に戻す。
「それに、昔の友達で連絡取れなくなったとかあるじゃない? そんな人とも久しぶりに連絡取れたりするから、そういう意味では楽しいわよ」
言い終わった直後、余計な事を口走ってしまった事に気付いた……。
すかさずフォローを入れる。
「あなたもやってみたらいいじゃない。花蘇芳と二人の写真撮ってあげるから。あなたの大好きな「お猫様」の写真でもいいんじゃない?」
夫は気付いていないようだ。安堵からか口元が弛んでしまう。
すると夫は意外な反応を見せた。
「そうだなぁ……ちょっとだけやってみるかなぁ。もちろん花蘇芳の写真もだけどな」
機械音痴な夫の事だ。すぐに飽きて止めるだろう。
「それじゃ、撮るわよ。顔近づけて」
息子と夫の写真を撮る。
いつぶりだろう……と思いながら、シャッターを押した……。
帰宅して食事を終え、午前中から残っていた食器をまとめて洗う。
夫と息子は一緒にテレビを見ている。
一段落し、昼間の写真を夫に送る。
「使い方教えてあげるから、今の写真投稿してみて」
夫にアプリのダウンロードから教え、初期設定を完了させる。
「……それで、最後にここをタップしたら完了よ。簡単でしょ?」
私が夫の携帯を使い、投稿の操作を教えている間、夫は終始黙り込んでいた。
「うん……」
やっぱり……きっと今回だけだろう。
まぁ、私自身1つの目的の為に投稿しているだけだから、特にこの作業に思い入れがあるわけではない。
「……ん? このハートマークは何?」
夫が画面上で何かを見つけたようだ。
「あぁ、それは見た人が共感したりした時に押してくれるの。俗に言う「いいね」よ。その数が多いことがステータスって思ってる人もいるみたいよ? 私は気にしないけど」
……そう。数が問題ではないのだ……。
ただ一人に報告するだけでいいのだから。
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