二章 wife
2-1
2018年3月
○○県××郡のショッピングモール内。
親子3人で買い物をしている松笠家の姿があった。
花蘇芳の入園準備の為に妻の
買い物を一通り終えると、息子が母親に空腹を訴えていた。
母親は何か考え事をしているようで、難しい顔を公平に向けていた。
「カズオ、何が食べたい?」
久しぶりの、父親との外出で嬉しそうな息子に公平が尋ねた。
「おうちで、おとうさんとごはんたべたい」
「そっかー。それじゃ、何か買っておうちで食べようか」
息子からの望みは至って普通の願いだったが、公平はその真意に気付くことはできなかった。
「でも、お父さん喉乾いたからジュースだけ飲んでいい?花蘇芳も飲んでいいから」
そう言うと公平は二人を座席に座らせ、足早にフードコート内に飛び込んで行った。
数分後、目的の飲み物をトレーに乗せ公平が戻ってくる。
「いやー、飲み物買うだけであんなに並ぶとは思わなかったよ。はい、牡丹はカフェオレ。花蘇芳には……クリームソーダだ。……ん? 何してんの?」
飲み物を受け取った牡丹が携帯電話で、何か作業をしている。
「ん~? ……さっき花蘇芳にリュック背負わせた時に撮った写真を加工してるの」
横から息子にちょっかいを出されながら奮闘しているようだ。
公平はチャットアプリ等は使用しているものの、職業柄SNSの利用はしたことがなかった。
「なぁ牡丹、それ面白いの?」
編集が終わらないのか、牡丹は少し困惑し携帯電話を触りながら
「面白いか? って聞かれると……ちょっと分からないけど、こうやって花蘇芳の成長記録を付けるようにしながらだと、その時の事を思い出したりもするわね」
と言いながら、画面を見せてくる。
確かに、息子が産まれて間もない頃からの写真がずらりと並んでいる。
見れば、その時の気持ちなどがコメントの様なもので付けられている。
「それに、昔の友達で連絡取れなくなったとかあるじゃない? そんな人とも久しぶりに連絡取れたりするから、そういう意味では楽しいわよ……。
あなたもやってみたらいいじゃない。花蘇芳と二人の写真撮ってあげるから。あなたの大好きな「お猫様」の写真でもいいんじゃない?」
牡丹が意地悪く微笑む。
お猫様は、公平が独り暮らしの頃からの飼っている猫の事で、飼い始めた頃からの写真が携帯電話内のフォルダに収められていた。
「そうだなぁ……ちょっとだけやってみるかなぁ。もちろん花蘇芳の写真もだけどな」
公平が牡丹を真似て意地悪な微笑みを返す。
横に座っている花蘇芳を抱き寄せ、牡丹に写真を撮るように促す。
「それじゃ、撮るわよ。顔近づけて」
息子と二人で写真を撮る。いつぶりだろう……と思いながらも、息子の笑顔に思わず頬が緩んでしまう。
帰宅して食事を終えた後、牡丹から先ほどの写真が送られてきた。
「使い方教えてあげるから、今の写真投稿してみて」
言われるがまま、アプリのダウンロードを行い初期設定を終える。
「……それで、最後にここをタップしたら完了よ。簡単でしょ?」
牡丹は慣れた手付きで息子との写真を投稿完了させたが、公平は終始黙り込んでいた。
恐らく理解が追い付いていないのだろう。
「うん……」
その一言が精一杯のようだ。
「……ん? このハートマークは何?」
「あぁ、それは見た人が共感したりした時に押してくれるの。俗に言う「いいね」よ。その数が多いことがステータスって思ってる人もいるみたいよ? 私は気にしないけど」
「ふ~ん。この数がねぇ……」
そう言うと、公平は今後開く事はないだろうと思いながら携帯を閉じた。
同時刻
手術以来、久しぶりに自分の携帯電話を触ることができた。
そうは言っても、連絡をしてくる人はもう数える程度だが……。
随分前にダウンロードして使用していないアプリに目が止まる。こんな状況では人恋しくなるのもしょうがない事だろう。
次々と現れる一覧の中に、懐かしい名前を見つける。
「あ……」
思わず声が漏れる。写真の中の二人の笑顔に時間の流れを感じる。
「そっか……子供産まれたんだ。そうだよね……もう十年前だもんね」
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