第13話 チート能力の兆し?



 早朝。俺は、サウスに叩き起こされ、寝ぼけたまま外に出て、なぜか剣の素振りをやっている。泉に沈んでいた、古い剣を振っているのだ。

「もっと早く!力強く!」

「はい!」


 目は完全に冴えて、なんだか清々しい気分だ。


 俺が、たまにはこういうのもいいかもしれないと、気分良く剣を振っていると、サウスがため息をついた。


「やはり、基礎がだめか・・・」


 人が気持ちよくやっているというのに、水を差すのはやめて欲しい。だいたいお前がやらせたことだろうに。




 朝食を食べ終えて、出る準備も終えた。

 荷物を泉の精霊からもらった巾着に入れる。次々と、道中重かった荷物たちが巾着の中に入る様子を見て、泉の精霊に感謝する。


「本当に便利ですよね、これ。」

「そうじゃの。って、お主、まさかそれまで入れる気か?」

 俺が剣を巾着に入れようとしたとき、呆れたようにロジが言った。


「だって、これ重くて・・・」

「お主というやつは・・・」

「ダメですよ、勇者様。」

 ロジと話をしていると、珍しくサウスがダメ出しをしてきた。


「勇者様は剣の重さに慣れていないようですので、慣れるまでは剣を持ち歩いていただきたいのです。まあ、慣れてからも持ち歩いてほしいですけどね。」

「え、こんな重いものを?」

「ダガー程度、軽々持て。だいたい、丸腰で出歩くなぞ、信じられんぞ?」

 確かに、この世界は治安が悪そうで、しかも魔物なんて生物がいる。武器を持っているのは当たり前の常識なんだろう。


「わかりました。僕も死にたくはありませんから、この重さになれます。」



 そして、歩くこと1時間。

「勇者様、もう重さにも慣れてきたでしょう。」

「・・・全く。重いですよ、これ。」

「では、これから軽いジョギングをしましょう。体力づくりは大切ですよ!」

 全く話を聞かないサウスに、ここで流されてはだめだと思い主張した。

「あの・・・流石にそれは・・・」

「さ、俺についてきてください。」

「ちょ、まっ!」

 俺が止める前に、サウスはすでに走りだしていて、ロジもそれに続いていた。


「マジか。」




 3分後。俺は、へとへとになって、その場に膝から崩れ落ちた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・もう、無理。」


 ドッドッと、心臓が大きな音をたてて、大量の血液を体内に循環させる。暑い。


 四つん這いになった俺の頭上から、ため息が聞こえた。

「全く、情けないの。これくらいは出来んと困るぞ。」

「これでは難しい。」


 そんなことを言われたって、無理なものは無理だ。

 長時間歩いた後からのジョギングだぞ!?


「あまり時間は稼げんが、なんとかして時間を作って訓練する必要があるな。」

「そうじゃな。仕方がないの。」


 訓練とか、無理。だいたい、なぜ急にこんなことを・・・

 城にいたときは、俺に才能がないとわかった時点で、何もさせなかったのに。


 あれ?


 才能がない?


 そうだ、才能がないから、何もさせなかった。なら、訓練をさせるってことは・・・


 才能があるのか!?ついに、俺にもチート能力が目覚めるのか!その片鱗をサウスは感じ取って、いきなり鍛え始めたのか?


 自然と口角が上がる。


 もしかして、魔王を倒せるかもしれない。


 勇者の才能と言えば、魔王を倒せるものだろう。



「魔王を倒せば、死ななくていい。」

 魔王と対峙させられる俺は、死ぬ運命と思っていた。俺に力がないから。だが、力があれば、魔王を倒し、生き残れるかもしれない!


 俺は、腕と足に力を込め、立ち上がろうとする。しかし、膝が笑って思うように立てず、ふらついた。そんな俺を、ロジが支える。


「フォフォフォ。いい顔になったの。それでこそ、勇者じゃよ。」

「やる気はあるようですね。良かったです。ですが、ひとまず休みましょう。俺も急ぎすぎました、申し訳ございません。」

 頭を下げるサウスに俺は笑い返した。


「いいですよ。俺に少しでも期待してくれているってことでしょうから、嬉しいです。」

 でも、人の話はちゃんと聞いて欲しいとは、猫をかぶったままでは言えなかった。





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