第12話 顔だけ


小学生の時から、俺はイケメンでクラスの人気者だった。


「では、吾輩は猫であるを書いた人は誰だっけ?みんなわかる?」

 先生が教室を見回し、俺のところで目を止めた。

「宮前君、答えてくれる?」

「はい。」


 俺は立ち上がって、自信満々に答えた。

「ガーリオ・ガリガーリです。」

 俺の答えに、クラス全体が笑い声に包まれた。


「・・・違うわ。宮前君、日本人が書いたの。日本人よ。それに、そのような外国人の名前もきっとないと思うわ。」

「日本人・・・山田太郎。」

「・・・もういいわ。鈴木君、わかるかしら?」


 先生は,俺には答えられないと判断したようで、鈴木を指名した。

 鈴木は、大きな体をゆっくり動かして、自信なさげに立ち上がる。

「はい・・・あの、夏目漱石です。」

「正解!よくできたわね。でも、もっと自信をもって大きな声で言えたら、さらに良かったわよ!」

「は、はい。ごめんなさい・・・」

 立った時と同じように、自信がなさそうな様子で座る鈴木を、くすくすと笑う者がいた。正解したのにおかしなものだ。




 俺は、いたずら好きで、その日も掃除道具入れに隠れて、友達を驚かす計画を立てていた。しかし、掃除道具入れに隠れて、人が来たのを声で判断していたのだが、最初に聞こえた声が女子だったので、やめた。

 女子を敵に回すとまずいことは、このころから理解していたのだ。


「やっぱ~結婚するなら、頭がよくないとね。」

 声の主は、可愛いと他の男どもが言っている女だった。

 この女は、いつも2人の女を引き連れている。どちらもちょっとかわいいくらいで、この女ほどではない。この女は、仮に美少女としよう。


「頭か~そういえば、鈴木って、けっこう頭いいよね。先生にあてられても、すぐに答えるし、テストもほぼ満点だって。」

「え~それって、すごいじゃん!?でも、鈴木はないでしょ!?いっつも辛気臭いし。」

 しんき?なんだそれ?鈴木は臭くないぞ?


「顔は大事よね。私は、梅君とかタイプだなぁ。」

 美少女の口から俺の名が出て、自然と胸が高鳴った。悪い気はしないし、むしろいい気分だ。


「私も~」

「いいよね、宮前君。運動もできるし、みんなの中心って感じ。」

 わかっていたことだが、俺は人気者だということを再確認して、かなり上機嫌だった。だが、それもすぐに落ち込むこととなる。


「でも~」

 そう口を開いたのは、美少女だった。

「梅君は・・・頭がねぇ。頭がよくないと、結婚した時大変だって、お母さんが言ってた。頭がよくないと、良いところで働けないから、お金もあんまりもらえないんだって。」


 このころの俺は、美少女の言う通り頭がよくなかった。それは、馬鹿と言っていいほどに。

 その言葉を聞いて落ち込んだ。だが、それだけでは終わらなかった。


「ま、梅君は観賞用よねぇ。顔だけはいいもの。他は全然ダメだけど。」

「あ~確かに。ちょっと子供っぽいところあるよね。」

「この前、デザートじゃんけんに参加してたよね。ああいうのないと思う。ちょっと意地汚いっていうか・・・」

 何を言われているのかわからなかった。


 俺は、人気者じゃなかったのか?


 頭が悪くて何がいけないんだ?デザートじゃんけんの何が悪い。


 なんで俺は悪く言われている?悪く言われるのは、鈴木みたいな、自信のなさそうな奴じゃないのか?


 鈴木は悪口を言われていた。その後、俺も言われた。


 俺も、鈴木とかわらないのか?



「そう。だから、観賞用なの。だって、あれが夫とか、恥ずかしいでしょ?」

 そう言って、美少女は笑った。




ものすごく悲しくて、俺はそのまま掃除道具入れの中から出てこれなかった。


授業時間になっても帰ってこない俺を、クラスメイトが手分けして探していたが、そのせいで余計に出てこれない。




そんな俺を見つけてくれたのが、鈴木だった。


「み、みつけた・・・梅君?どうしたの?お腹痛い?」

 俺の顔を見て、鈴木はものすごく心配そうな顔をして、こちらを覗き込んだ。


「うん。ちょっと痛い。恥ずかしいから、誰にも言うなよ。」

「そうなんだね。わかった。でも、保健室には連れて行くからね。」

 鈴木が少し頼もしく見えたのは、きっと気のせいだろう。


 この時から俺は、女を見返したいと思って、勉強を始めた。その都合で鈴木と話をすることが多くなり、鈴木と仲が良くなった。今では、親友と呼べる仲だ。




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