第14話 2人の企み



 突然だが、俺の剣がバージョンアップした。

 俺の剣は、錆び付いて抜けない、剣というよりはただの鈍器だったのだが、今は違う。町で購入した、真新しい剣が俺のベルトにつけられている。もちろん、鞘から抜ける!


 剣とは言っても、おそらく想像しているような立派なものではなく、小剣と言えばいいのか、普通の剣の半分もない長さの剣だ。


 つまり、ロジにもらった剣お同じものの新品だ。だが、新しいものとは、なんでも気分をあげてくれる。


「どうですか?少しは強そうに見えます?」

「全く見えないの。お主、なぜそんなにも弱そうな風貌なんじゃ?何を持っていても様にならんぞ。」

 ロジの厳しい評価は、俺も感じていたことなのでものすごく胸をえぐられた。仕方ない。だって、俺の体,もとい顔じゃないから、客観的に見えてしまう分現実が見える。


「お主は、性格と顔が一致しておらんの。」

「え?」

 俺はロジの言葉に驚く。この顔は、むしろ猫をかぶっている俺にはぴったりだと思うが?


「そうですね。もっと傲慢な顔が似合っていると思いますが、なぜそんなにも自信がない情けない顔なのか。」

「はい?」

 傲慢な顔が似合う?誰が?俺か。


「あの、さっきから何を・・・僕って、そんなに性格悪いですか?」

「悪いじゃろう?お主は、何かに怯え、それを誤魔化すためにすべてを見下しておるのじゃろう?何に怯えているのかは、流石にわからんがの。」

「強がりなんですよね。でも、怯えて動けないよりはましです。」


 あれ?


 俺の猫って、そんな見え透いたものだったのか?わかりやすいのか俺って?あれ、でも怯えているって何を?死か?そうだな、死は怖い。それも、今は差し迫ったものであるから。


「なんだ、ばれていたのか。」

 俺は、肩をすくめて、2人に向き直った。


「当たり前じゃの。」

「あなたは面白い人ですね。裸でこの世界に来て、自信満々の態度でいたかと思えば、何の才能もなかったのですから。」

 思い出したかのように笑うサウスをにらみつけたが、余計に笑われてしまった。


「最初に見たとき、驚きましたよ。王子にそっくりの傲慢と猫かぶりにね。俺が服を脱がしたと誤解したことも面白い。ふふっ。」

「あの時は、状況が分からなかったんだ。仕方がないだろ。」

 俺は恥ずかしくてそっぽを向いた。あの時は、まだフツメンになっていることに気づかなくて、とても恥ずかしい思いをした。


「なら、今は状況が分かっていますか?勇者様。」

 俺は、サウスに顔を向ける。そこには、まじめな顔をしたサウスがいた。どちらかと言えば、いつも微笑を浮かべる彼には珍しい表情だ。


 俺には才能がある。きっと。

 そして、その片鱗を見たサウスは、俺に剣を教えた。おそらく。


「・・・」

 きっと、おそらく。そんなものが信用できるのか?信用できない。なら、聞けばいい。目の前にいる男に聞けば、事実が聞けるだろう。でも、俺は今までそれをしなかった。


 なぜか?そんなことは、理解している。



 俺は口角をあげた。それは、喜びからくるものではない。

「俺は、いや俺たちは、死ぬために魔王のもとへ行く旅をしている。」


 才能はない。それは、この世界に来た2日目に言われた言葉。忘れるわけがない。


 そして、その事実は、死を意味することも理解している。


「確認なんて、させるなよ。」

 せっかく、自分を騙していたのに。これではもう騙せない。


 新品の剣が先ほどより重く感じた。もう、こんな不必要なものは捨ててしまいたい。




 夜。町の宿屋にある酒場で、サウスとロジは飲んでいた。前のようにつぶれる飲み方ではなく、話しができる程度の酔い加減になるよう飲んでいた。


「やはり、わかっておったの。確認する必要はなかったかの。」

「いや。万が一ということもある。俺たちとは比べようのない平和な世界で生きてきたようだから、確認は必要だろう。まさか、魔王に勝てると思われて、馬鹿正直に倒しに行かれても困る。」

「そうじゃの。それではワシらが死に損じゃからの。」

 ロジはコップの中の赤い液体に映った自身を見る。全盛期の見る影もなく老いた自分。


「あやつはまだ若い。それに、この世界のものではないからの。この世界の事情で死ぬなど、あってはならないじゃろ。」

「だな。あんな子供を死なせるというのなら、人間は滅んだ方がいいだろう。」

 サウスはコップの中の液体を一気に飲み干した。


 は~と、酒臭い息を吐き出す。

「俺たちの準備は、もうできている。しかし、勇者は全然だめだ。あまり長い時間をかけない方が勇者のためだが、時間をかけなければどうしようもない。」

「そうじゃな。誰か頼れるものがいればよいのじゃが。」


「無理だろう。国から勇者をかくまってくれる殊勝なやつなどいないさ。」

「ふむ。なら、勇者であることを隠せば・・・いや、それこそ無理か。あやつがおなごならよかったがの。いい男でも捕まえさせて、結婚すればよかったのじゃから。」

 ロジは、残り少なくなった酒を見て、ボトルを手に取り自分とサウスのコップにつぎ足した。


「だな。女性であれば守ってもらえたが、男ならば逆に守らねばならん。あのようなおなごみたいな男に守れるとは思えないが・・・」

「さて、どうするか。いい考えは浮かばないの。」

 ロジは一口酒を飲み、ため息をつく。


「どうすれば、あやつだけを生かせるのか。」



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