第10話 ついにチートアイテムが!
「あなたが落としたのは、こちらの竜殺しの剣ですか?」
精霊と呼ばれた女が、左手を広げると、その目の前に一振りの立派な剣が現れた。青白く輝き、何か不思議な力を感じる。
「それとも、こちらの神殺しの剣ですか?」
女は、同じように今度は右手を広げた。そして、これまた同じように立派な剣が現れる。神々しく輝くそれは、先ほどの竜殺しと呼ばれた剣がかすむほどの存在感だ。
俺、この話知ってる。
確かこれって、本当のことを答えると、両方もらえるやつだ。逆に嘘をつくと何ももらえないが。
つまり、お古の剣ですって答えればいい!
それにしても、絶対あの剣強いよな。竜殺しも強そうだけど、神殺しなんて名前からしてヤバイ。だって、神を殺せるんだろ?なら、魔王なんて朝飯前だろ!?
これが、チートアイテムってやつか。やっと俺にもテンプレが!これさえ使えば・・・
俺は使えないけど、サウスが使えばいいだけだし。もう、全ての問題が解決だな!
死ぬかもしれないという不安が消え、俺は自然と口元がゆるんだ。
俺は、にやける顔を必死にまじめな顔にして、女神に向き合う。あ、精霊か。
「いいえ。僕が落としたのは、お古の剣です。」
「何を言ってるのじゃっ!馬鹿正直に答えるではないわ!」
横でロジがわめいたが無視する。
「えぇ!本当ですか!?ちょっと待ってくださいね・・・お古の剣・・・お古の・・・」
あれ?なんか思っていた反応と違うのだが・・・・
女神は、両方の手を人差し指だけ立てて、自分のこめかみにその指を当てて、眉間にしわを寄せた。目はつぶっている。
「あっ!これですね。どうぞっ!お古の剣です!じゃ、失礼します!」
精霊が手をあげると、そこに泉から音をたてて、一つの剣が現れた。精霊は、間違えたことが恥ずかしかったのか、俺に剣を放り投げると、すぐさま消えてしまった。
「え?」
嘘だろ?マジかよ?
ロジが、俺の肩に手を置きため息をついた。
「全く、愚か者め。せっかくのチャンスをふいにしおって。」
全くの同感だった。数分前の俺に会えたら、その横っ面を殴り飛ばしたい。
「まぁ、正直者っていうのは美徳で、勇者様のいいところですよ、えぇ。」
明らかに気落ちした様子のサウスに、俺は穴があったら入りたい、という気持ちがわかった。いや、目の前に泉があるから、そこに飛び込もうか?
「あ、いいかも。」
「なにがじゃ?」
呆れたように聞くロジに、俺の素晴らしいアイディアを伝える。
「俺がこの中に飛び込めばいいと思って。そうすればきっと、あなたが落としたのは、この竜殺しの勇者ですか?それとも、この神殺しの勇者ですか?って、女神が出てくるかも。」
「落ち着け、小僧。お主が泉に落ちても、溺れるだけじゃ。まぁ、そう気落ちするな。ワシらも気にしておらんし。」
「はい。ですから、そんな自害する真似はおやめください。そんなことをされて、もし勇者様の身に不幸が訪れたら・・・俺は自害しますよ?」
真顔でそう言ったサウスには、精神科に行ってもらった方がよさそうだ。
泉の前に広げていた荷物を片づけ、俺たちは出発の準備をしていた。
そういえば、お古の剣は、全く使えない代物、つまりロジにもらった剣ではなく、錆び付いて、鞘から剣が抜けない、相当昔の剣だった。まさに古い剣だな。
とりあえず、その剣で打撃攻撃でもしようかと考えている。もしもの時は、だが。
「あ、よかった。まだいた。お古の人っ!」
泉が輝きだしたと思えば、再びあの精霊が現れた。
「これ、あげます。」
そう言って、精霊は俺に黒っぽい巾着を投げてよこした。
「正直な人って、私好きですよ。だから、それは正直なあなたへのご褒美です!」
俺は、地面に落ちた巾着を拾う。
「それは、この泉くらいの量のものを収納できる袋です。旅に役立ててください。あの、正直者って、損ばかりしますけど・・・それでも、正直者でいてくださいね。それ、あげますんで。」
言いたいことは言ったとばかりに、こちらは何も言っていないのに精霊は消えた。
巾着袋を見つめ、精霊の言葉を思い出す。
つまり、アイテムボックス?
前の世界で、鈴木にこのチートアイテムの話を聞いた時、純粋にすげーほしかった。剣とか杖とかよりもな。だって、使えるし。
だが、それは平和な世界の話で、この世界で言えば、竜殺しとか神殺しの剣が欲しかった。
「ま、よかったの。そんな使えぬ剣をよこされるよりは、ましじゃろう。」
そう言って、ロジは俺の手にある巾着の中に、自分の荷物を入れた。
「便利じゃの。お主も入れたらどうじゃ?」
「そうですね。」
俺も荷物を入れた。本当に入るんだな。
魔王を倒すチートアイテムは手に入らなかったが、旅は少し楽なものになりそうだ。
後に知ったのだが、別にこれ俺に限ったアイテムではなかった。いや、逆にもっとすごいアイテムがあったので、ちょっとがっかりした。
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