第七話 【キメラ】


「それで」


陽も落ち、あたり一帯が闇に包まれる中で焚き火の光で互いを認識し合うルイス達は、話を始める。


「私は確かにキメラだけど、君が言った通り人間に危害を加えるような命令は受けていないよ。人間に危害を加えるようなことはね!」

「…おい、なぜ二度言った」

「ま、まあまあ…」


ルイスが殺意を込めた視線を送っているのをハレがなだめる。


「と、とにかくさ!この子は私や兄さんを助けてくれたんだからさ!ね?ちゃんとお礼は言わないと!」

「…はあ。そうだな、誤って魔素を使い、倒れたのはどう転んだって僕が悪い。その尻拭いを任せてしまったのは本当に申し訳ないし、ハレが無事であるのも貴様のおかげだ、感謝している。」

「き、貴様って…兄さんはこう言ってるけど、私は本当に助けてもらったこと感謝しているんだよ!ありがとうね。えっと…」

「名はない。それよりも君、今魔素を使ったって…」

「ああ、僕は人間の体ではあるが、中身は魔王様によって作られた兵士だからな。」

「魔王の…そう、じゃあやっぱり間違ってなかったんだ…」

「間違い?何の話だ?」


焚き火を挟み対面に座っていたキメラが立ち上がり、ルイスも何となくつられて立ち上がる。


「私は、君達を故意に助けたわけじゃない。言うなれば偶然だよ」

「偶然…?」

「そ、私は王都で魔素の扱いが並以上の魔獣を数体、そして死んだ人間を合わせて作られたキメラ。つまりはその辺のガラクタとは一味違うのさ。」

「……それで」

「動じないか、まあ魔王に作られたってならそんなもんだよね。

話を戻そうか、要するに私は当たって共倒れになる普通のキメラとは違い、駆除ができるわけさ。

それで、魔素の動きを感知して駆除をしようと近づいてみたところ、いたのは人間が二人と死んだ魔獣が二匹、でも死んでいた魔獣は魔素を滅多に扱わない種で、それ以外に魔獣の気配もしない、不自然だなと思って状況を聞こうとね。」

「なるほど、それで今その不自然な部分が繋がったわけだが……駆除するか?」

「いや、やめておくよ。私じゃ君には勝てないだろうし。」

「一味違うと自称する割には、やけに弱気だな?」

「君は、底が知れない。だからより気になる。ねえ…君達は何でこんなところにいるのさ?」


ルイスは、敵意がないと判断し座り直すと、目的と現在の状況について説明を始める。


「ふーん、魔王に会いにね…」

「貴様、キメラの割には自我がありすぎるようにも思えるが、それも一味がどうたらに関連してくるのか?」

「言い方に棘があるなあ。ま、そうだね。私の場合明確な命令を受けていないんだよ。試作品だし。」

「…試作?人間の死体を取り込んでおいてか?」

「そう、私の今の姿は取り込んだ死体の元の姿。外見は人間だけど中身は違う…君とは似ているのかもね。」

「どうだか」

「あはは…まあ、私の経緯は王都周辺の警備探索中に、センサーにビビビッと引っかかった謎の魔素に惹かれたってだけさ。旅の邪魔をする気は無いから安心して。私はあくまで一部王族の護衛と王都周辺の警備係ってだけだからさ!」


話まとめて終わらそうとするキメラに、ルイスは言葉のつけようがない不思議な感覚を抱いた。

それは、どこか懐かしいようだった。


立ち上がった時は少し危険かと思ったが、実際はそうでもないのか?

このキメラ自身、僕には敵わないと言っている。だが僕は自分がそんなに強いとは思っていないぞ…?一体何が何やら…


そして、不意にルイスの頭にノイズが走る。それは村でも起きていたことだった。


何だこれは……


見えたのは自分が薄暗い通路を走るところだった。

後ろを振り向くと一緒に走る人達がいた。しかしその顔には黒い靄のようなものがかかっていた。


「……お父さん?」


何故かその言葉がルイスの中で浮かび上がる。


「兄さん、大丈夫?」


ハレに声をかけられルイスの意識は正気に戻る。


「あ、ああ。大丈夫だ」


一体…今のは…


「ね、ねえキメラさん…でいいの?」

「何でもいいさ、決まった呼び方はないからね。それで、どうかした?えっとハレちゃんだっけ?」

「うん、今王族の護衛って言ってたよね。私たち、これから王様に会いに行くんだけどもし良かったら、王様のところまで一緒に来てくれない?多分、王都で顔が知れている人がいれば話は早いんじゃないかなって。」

「ハ、ハレ…お前…」

「ハレちゃん…」

「「天才か」」


キメラとルイスは、ハレに顔を近づけハモらせると、ハレは素直に喜び頰を緩める。


「おいきさ…ああもう個体名がないとどうにも接しずらい。そうだな……貴様は今からリロだ、いいな。」

「リロ……私に、名前…」

「おい、聞いているのか!」

「え、あ、ごめんなんだっけ?」

「だから、その…悪いが事情も話した上だしもう少し協力してくれないか?」


キメラ、改めリロはルイスにそう言われ、ハレのように頰を緩め笑顔で首を縦に振った。


その後、三人は明日の予定を決めると、眠りにつくため馬車へ戻ろうとするが、ルイスは乗る前にハレに引き止められる。


「ね、ねえ兄さん?」

「どうしたハレ」


ハレは小声でリロに聞こえないように耳打ちする。


「大したことじゃないんだけどリロちゃんって、名前の由来とかってあるの?」

「おお、それか。あるぞ。以前魔王様が言っていてな。

『幼い容姿、即ち清い心を持つロリっ娘とは崇めるべきものであり、不動の正義なのだ』ってな。

崇めるとか正義っていうのがどこを指していたのかよく分からなかったが、外見はハレよりも少し幼いし他に浮かばなかったから無難に『ロリ』を逆から読んで『リロ』にしたのだ!どうだ、凝っているだろう?」

「…兄さん。それリロちゃんには絶対話しちゃダメだよ…」


ハレは重いため息をつくとさっさと馬車へと乗り込み、リロと話し始める。


「ふむ、やはり人間とはよくわからないものだな。なぜハレはあんなにも呆れた顔をしていたのか…」


ルイスは頭を掻き、馬車へと戻る。


そして、夜が明けてから馬車を走らせ始めたルイスは、地図で予定していた道を通ったがゴブリン以来、魔獣との遭遇は無いまま難なく王都へと到着してしまった。


道中、ルイス達はリロの立場を聞いていて、王族の傭兵団を統括する一人にしか過ぎない事、王城へ入れるかどうかまでは保証できない事、王都への出入りは問題ない事など、交流をしつつしっかりと事前の準備を整え始めていた。

そして寄り道も面倒なので、馬車でそのまま王城へと行くと結論はまとまっていた。


それから予定通り、王都の入口はリロが顔を利かせ、賑わう街中を通り抜けて王都中心部にある王城入り口の門前までやってきていた。


「わあ…大きい」

「確かに、門だけで僕達がいた村の建物の屋根くらいは高さがありそうだ。」


そんな感想を漏らしていると、門で警備をしていた門番の一人が馬車へと近づいてくる。


「何者だ。用がないなら即刻立ち去れ!」

「用はある、…これでいいか?」


そこでルイスは村長に持たせてもらっていた令状を差し出すと、それを読んだ傭兵は顔色を変えて敬礼する。


「こ、これは大変失礼いたしました!今すぐ門を開かせますので!」


そういうと、別の門番に事情を話したらしく何やかんやで門が開かれたので、ルイスは御構い無しに馬車を動かす。


「とうとう、第一関門到来だね!」

「ダイイチカンモン、とは何だ?」


ハレの意気込みに、ルイスは首を傾げながら問うと、ハレは途端に頰を赤くする


「も、物事の最初の試練みたいなものだよ!あ、あんまり気にしないで…」

「ほう、ハレは面白い言葉を知っているのだな」

「うぅ…」


なにやらあまり触れない方が良かったらしいな…っと、この辺が丁度いいか。


「待たせた、ハレ、リロ、王城に到着だ。」

「おお…すごい」

「私は、見慣れているが入るのは初めてだ…」


二人が王城の周りを見回している中、ルイスは王城の入り口に立つ使用人と目が合っていた。


「お待ちしておりました、先日の書状の件でございますね。中で王様がお待ちでございます。」


ついにきた。…まずはここから始めないとな!


ルイスは内心で意気込むと、ハレとリロの三人で使用人の後へついていく。

そして、中に入るとまた、豪勢な作りに足を止め驚きと興味で目を輝かせるのだった。


すると、階段の上から一段一段ゆっくりと降りてくる一人の男に三人は目を向ける。


「待っていたよ、君達が冒険者となって魔王の元へ行くと言う人間だね?」


その男は、自分の顎鬚をさすり不気味な笑みを浮かべ階段の踊り場からルイス達を見下ろしていた。


こいつが人間の王か…

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