第五話 【魔法】
馬車を走らせてから丸一日が経過していた。
村長の見立てよりも魔獣の数は少なく、初日は一度の戦闘も無いまま、ルイス達は夜も危なげなく越すことができていた。
そして日が昇り、また王都を目指し馬車を走らせていたところだった。
「兄さん!あれ!」
荷台から顔を出し、ハレは声を上げる。
平原で寝転び未だこちらに気づいていない魔獣をハレが指さす。
「ようやく魔獣発見だな。よし、ハレ戦闘の準備をしておくんだ」
「わ、わかった!」
そしてルイスとハレは、見つけた魔獣から少し距離を置き、馬車を止めた。
ルイスは、持ってきていたリュックサックから双眼鏡を取り出し岩場に身を隠し、魔獣を観察した。
「あれは…ゴブリンか?」
「ゴ、ゴブリン…?」
遅れて馬車から降りてきたハレが、首を傾げて復唱する
確かゴブリンは団体での行動を主としているはずだが…一匹しか見えないな。
しかし、あれは何の動物が変異したんだ…?
ゴブリンを見た魔王様方は一様に「これぞファンタジー」とか「王道だ」とか言っていたが、なんの話なのか全くわからない。
猪のように曖昧な表現ではなく、ゴブリンには『ゴブリン』という固有の名称があるのも謎だ…
おっと、今はとにかく戦闘だ。
「いいか、ハレ。僕が奴の注意を引くから、ハレが倒すんだ、魔法でも何でもいい。村で教えた事を思い出すんだ」
「わ、わかった…やってみる」
ハレはそう意気込むと持ってきていた、身の丈と同じくらいはあろうかという長さの杖を構える。
「よし、その息だ。頼んだぞ!」
ルイスはハレにそう言い残し、隠れていた岩場から身を出しゴブリンへと駆けだすと、一気に距離を詰める。
遮蔽物などない平地で寝転んでいたゴブリンは、突然死角から飛び出してきた人間に驚き、硬直していた。
その隙をついて、ルイスは素早くゴブリンの後ろ手に回り込み、注意を引く。
ゴブリンが立ち上がってルイスを目で追い、ハレに背中を向けたところでルイスは大きく息を吸う。
「今だ!ハレ!」
「はい!…我が肉体に懇願する、眠りし魔力を解放し彼の者を焼き尽くせ!」
ハレが詠唱をすると、杖の先端に埋められている宝石が赤く光り、同時に先端に魔法陣を展開させる。
魔法陣は一定の速度で回転し、その中心から炎の球体を生成しゴブリンめがけて一直線に飛んで行く。
「グッギャアァ!」
ハレに背を向けていたゴブリンは炎への反応に遅れ、放たれた魔法が直撃する。
ゴブリンはわずかに断末魔を上げると、そのまま倒れ動かなくなった。
「…おお」
「兄さん!やりました!倒しましたよ!」
ハレは喜びながら杖を抱えてルイスの元へと走ってくる。
…だが、ハレが走る直ぐ横に不自然に膨らんだ落ち葉の山があり、ルイスはそれを見て血の気が引いた。
「ハレ!ダメだ戻れ!」
「えっ…」
反射的にその場で止まってしまったハレの真横にある落ち葉の山から、短剣を持ったゴブリンが不気味な笑みを浮かべて飛び出す。
「い、いやあああ!」
突然現れたゴブリンに、ハレは腰を抜かし倒れる。
ゴブリンは飛び上がって逆手に持った短剣をハレに振りかざした。
「やめろおおおおおお!」
ルイスはその場から、ハレを襲おうとするゴブリンにめがけて手をかざす。
すると、ルイスの手の周りの空気が揺らぎ、それと同じくしてかざした手の前に魔法陣が生成される。
ルイスは大気中の微量の魔力、『魔素』を使いゴブリンめがけて細い稲妻を放つ。
「グガアアアアッ!」
稲妻は、光のような速さでゴブリンへと達し、ハレに短剣が振り下ろされる直前に一瞬でゴブリンの体を丸焦げにした。
「はあ…はあ…」
「に、兄さん!」
腰を抜かしていたハレは立ち上がって、ルイスの元へと駆ける。
「大丈夫か、ハ…レ……」
「兄さん?に、兄さん!」
ハレに声をかけるルイスの意識は徐々に薄くなっていき、ルイスはその場で倒れこむ。
ああ…やっぱ人間の体では魔素は扱えそうにないな…。
ハレを危険な目に合わせてしまうし…ああ、これは…先が思いやられる…
倒れたルイスに、ハレは涙を流しながら必死に何かを叫ぶが、ルイスは聞き取ることができず意識が完全に途絶える。
そして、その影は二人の後ろへと迫っていた。
ハレは、自分達の後ろに立つ者に気づき恐る恐る振り向く。
「兄さん…目を、覚まして…私もう……」
ハレは恐怖に顔を歪め、気を失ったルイスに願うが、ルイスが目を開ける様子はなかった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます