第四話 【始まり】
その日、村長に呼ばれたルイスとハレは村長の家へとやってきていた。
「よくきたの、それじゃあ早速王都からの返事を伝えるが…」
「頼む」
「その、なんというか…正確な答えではなかったんじゃ…」
村長の言いように、ルイスとハレは揃って首をかしげる。
「内容は、詳しく話が聞きたいから一度王城へ来てほしい、との事じゃ」
「そうか…」
ルイスは顎に手を当て考え始める。
王都に向かう、つまりは本格的に冒険者として動く頃合いになってくる、しかしハレはまだ戦いに慣れがない。魔力の扱いには長けているようだがそれでも万が一、一人になったら非常に危険だ…なら…
「村長、地図はあるか?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
「兄さん、何か思いついたの?」
「まあ、大したことではないがこの村から王都へ行く道中で、魔獣と何度か戦闘を重ねて行きたいと思ってな」
「それって、私も…だよね?」
「ああ、主にハレに戦い慣れをしてもらって、僕も人間の体である以上は、魔力を扱う練習をしないといけないからな。」
「わ、わかった…頑張るよ」
ハレとの話がひと段落すると村長が戻ってきた
「待たせたの、これがこの村一帯の地形図じゃ」
「王都はどこだ?」
「ここじゃな」
机に地図を広げ、小さな集落に赤い線で囲いがあった。これがここの村らしい。
そして、この村から東へ少し距離があるところに、地図でもかなりの大きさで記されている建物があり、ここは緑の線で囲ってあった。ここが王都だという。
王都までの道中は、幾つかの丘、平原、そして一つの大きな橋を渡る必要があった。
王都の周りは、海水で囲まれており魔獣が街へ入る対策だとか。
その為、王都の正門と対面にある裏門の二箇所に大きな橋があり、基本の出入りはここからになるらしい。
村長は地図を指さし補足を付け足しながら話し、ルイスとハレは黙って頷いて聞いていた。
「なるほどな、入口を指定すれば魔獣が襲ってきても対処がしやすいのか。人間にも結構頭の切れるやつがいるのだな。」
ルイスが関心に浸っていると、村長は一つの白い封筒のようなものを出してきた。
「これは?」
「王都からの手紙に一緒に付いていてな。
王都に来るなら門番やらの検査を通る必要があるだろうから礼状として提示するといい、との事でな。」
「そうか、それは助かる。そこら辺も後で聞こうと思っていてな。これで解決だ。」
ルイスは礼状を受け取り、椅子に座りなおすと村長と目を合わせる。
「それで、王都へなんだが」
「ああ、すぐに行くのじゃろ?」
「そうしたいところなんだが、ハレの実戦訓練と僕の魔力の扱いの特訓をしてから行きたい。
ここ三週間、色々と試しては見たがまだ足りないんだ。だから手っ取り早く、手頃な魔獣との実戦で腕を磨きたいと思ってな。」
「ふむ、そうか…なら、少し遠回りになるがこの村から南へ出て平原だけを経由して王都へ行くのはどうじゃ?丘付近は縄張り意識の強い魔獣が多いと聞く、その影響で魔獣は殆どが北にある森に住み着いておるらしくての、平原なら安全に王都へたどり着けるだろうし魔獣も温厚なものが多いじゃろう。手頃と言えば手頃じゃが、どうかの?」
「…そうだな、それで行こう。大丈夫かハレ?」
「う、うん。私も兄さんの足を引っ張らないように努力するよ!」
「それじゃあ、明日の朝には村を出たい…のだが、移動手段はどうしたらいい?」
「普段は馬車を使うから、この村にも何頭か馬はおるが…ルイスは馬車を動かせるのか?」
「無理だ。ハレは?」
「無理です!」
「…わ、わかった。村に馬車を動かせる者がいる、そやつに今から教わりに行くぞ」
「わかった」
そんなこんなで、その日は村に住む若い男にルイスは馬車の動かし方や注意点なんかをとことん教わった。
ルイスは物覚えが良いらしく、一度指示されたことや見せてもらったことは難なく取り入れ、あっさりと動かし方を覚えてしまい、見ていた村の人や教えていた男も関心の声を漏らしていた。
ルイスはこの村の人には記憶喪失ということで話をしており、村の人は冒険者の頃よりも覚えが良いんじゃないか、などと冗談交じりに笑っていた。
そして、とうとう夜が明け、日が顔を出す前にルイスとハレは馬車の荷台へ荷物を入れて準備を終わらせていた。
こんな早朝だというのに、村の人は見送りに来ていてルイスたちに応援の声をかけていた。
「それじゃあ、行ってくるよ村長。色々とありがとう。」
「行ってきます!」
「ああ、ルイスもハレも無事に帰ってくるんじゃぞ。本当なら腕利きの村の者も同伴させたいところじゃが、村は復興中故に警備として居てもらいたいのだ。すまないの」
「気にしないでくれ、食料と採掘用の小道具まで貰ってしまって、これ以上何も頼めやしないさ。」
「そうか、まあ村のことは任せてくれ。
…ルイス、今のお主と過ごしたこの一ヶ月程度、疑うような行動は何一つ感じられなかった。だから、お主が言っていた事が本当の事であると信じている。いつか世界が平和になって、魔王と人間が争いなく共存できる日を願っておるぞ。」
「ああ、それが叶うためにも、精一杯努力する。」
「兄さん…」
「ハレも、改めてよろしく頼むな」
「うん!」
こうして、ルイスとハレは馬車で王都へと向かい始めた。
村を出て早々に、ハレは荷台で眠りについてしまい、ルイスは懐かしむような顔でハレの寝顔を見ていた。
「ハレ…君だけは絶対に守るからな。本当のお兄さんに会えるまで待っていてくれ。」
ルイスはボソリと呟き、決意の表情を浮かべて馬車を走らせる。
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