第三話 【真実】


「魔王の…兵士…」

「ああ、それでこちらも一つ確認したい。この村を襲ったのは、本当に魔王様に仕えていた幹部の方なのか」


ルイスが問うと、村長は咳払いをし改めてルイスと目を合わせ会話を続ける。


「うむ、やつはこの村を壊滅させ、気の済むまで暴れたのちに自らそう言っていた。『これは報復、我らは勇者が誕生しないように滅ぼすだけだ』と、言い残して消えていった。」

「報復…やっぱりか」


ルイスは思い当たるところがあった。短にいたから分かる、魔王の真意を。


「いいか、魔王様は決して人間を襲うようなことはしない。少なくとも自らは」

「な、何を言っておる…?魔獣を生み出すのだって魔王が…」

「違う!そこが根本的な間違いなのだ!」

「…どういうことじゃ」

「我々、魔王様の配下や魔獣は大気に充満している微細な魔力を用いて魔法を放つ、この微細な魔力を『魔素』と呼んでいる。

だが、人間は自分の体内で生成される魔力を使って魔法を放っている。人間に関して、これは間違いではないな?」

「うむ」

「そして魔獣だが、あれらは元はただの動物。森や草原で生まれて育った、害のない動物だ。」

「な!?」

「その動物が魔素、つまり大気中にある魔力濃度が高い場所に立ち入ってしまう事で、体内に大量の魔素を取り入れてしまい、その結果、体が変異して魔獣へと変わり自我を失い、同族や目に付く生き物に敵対心を持ち攻撃を行うのだ。」

「だが、その魔素というのは、魔王が発生させているのでは…」

「魔王様が魔素を発生させているのならそれは魔力と変わらないだろう。元々我々は自発的に魔法を扱えないのだ、だから魔素を変換させ魔力と似た性質のものへと変えて魔法を放つのだ。魔獣とは、自然が生み出した敵なのだ。」


その事実は、ルイス自身も魔王城で魔王や幹部が研究に研究を重ねて編み出した答えを立ち聞きしたに過ぎなかった。だが、この事実を人間が知ることができれば和解もありえた。


「つまり魔獣とは人類の、ではなく、魔獣以外の全ての生きる者の敵ということなのか…?」

「要約するとそうだな。魔王様は城周辺にいる魔獣を圧倒的な力を持って服従させることはあったみたいだが、『自我が無い分いつ暴れるかもわからない』とあまり従者を近づけはしなかった。」

「そんな…これが本当のことであればこの世の常識が根底からひっくり返るぞ…」

「確証を与えられる証拠がない今は、記憶の片隅にでも入れてもらうだけで構わない。

それで少し話を戻すが、つまりは魔王様は自分たちが生活する上で必要な資源などを集めるだけで、人間に危害を加え争いを産もうとは全く考えていなかったのだ。

人間から見た魔王様が『悪』であるならば、何もしていないのに勘違いで我々の生活を妨害する人間は、魔王様から見れば『悪』なんだ。

要するに、人間側が魔王様の城に勇者を送り込んだのが間違いだと思わせるために幹部の方はこの村を襲ったのではないかと、僕は考える。」

「なるほど…」


村長とルイスが話し合いをする中、いつの間にかハレは席を立ち、茶を淹れていた。


「すまない、助かるよハレ」

「いえ、私には難しい話みたいなのでせめてお話がしやすい環境を作れればと…」


ルイスが茶をすすっていると、村長は考え込んでいたのをやめ、徐に立ち上がる。


「では、ルイスの話が正しいものであるならばこちらも、それを確認する調査が必要となる。」

「…何が言いたい」

「ルイスには、やはり冒険者へと戻ってもらい高い地位の者と共に魔王城へ行き、その事実確認が取れて無事に戻り、人々が安心して暮らせるよう動いてもらいたい。」

「……わかった。引き受けよう」

「兄さん!?」

「どうしたハレ?」

「い、いや…兄さんはまだ目が覚めたばかりだし、いきなりそんな危険そうなこと…」

「大丈夫だ。僕は君の兄さんではないが、この体は極力外傷が与えられないようにする。」

「やっぱり…見た目は兄さんだけど、中は違う人…なんだね」

「ああ、言い方を変えてしまえば僕はハレの兄さん、本当のルイスさんに体を借りて動いているという表現になる。だから、いつか返すときがくるまでこの体は大切に扱うと誓うよ。」

「……」


ルイスはハレの頭に手を乗せそう言うと、ハレは俯き何かを考え始める。


「村長…」

「なんじゃハレ」

「わ、私も…兄さんと一緒に冒険者になります!」

「な!?」

「おいハレ?何を…」

「事実確認が取れても、地位の高い人だけじゃ世界のみんなに、兄さんの仲間たちは悪くなかったって伝えられないかもしれないから、少しでも広められる人は必要だと思うから!」

「ハレそれはつまり、僕の話を聞いただけに過ぎないのに、僕を信じてくれるのか?」

「う、うん。やっぱりまだ、全部とは言い切れないかもしれないけど私は兄さんを、たった一人の家族を信じたい…」

「…そうか、ありがとうハレ。

村長、僕からもお願いしたい。絶対に危険な目に晒すようなことはしない、だからハレを僕と一緒に…」


ルイスが立ち上がり村長に頭を下げると、ハレもルイスの横へ並び、共に頭を下げる。


「そう願われても、この村を出る事に対してワシは止める権利などない。好きにしろ、何て事を言うつもりはないが、ハレがそうしたいと望むのなら止めはしない。だが約束してほしい。

…ちゃんとこの村に、無事に帰ってくると。」

「…は、はい!」


ハレは返事をし、共に行くことが決まった。


それから、方針もある程度目処が立ち、村長が王都に住む王族に、信頼している冒険者をパーティ加入させてほしい、と掛け合いその返事がくるまでの間にルイスとハレは冒険の準備を含め、戦闘訓練を行うこととなった。


「いいかハレ、魔獣にはある程度攻撃に規則性がある。」

「そ、そうなの?」

「ああ、例えば猪の魔獣だ。こいつには突進して牙なんかで攻撃するという、普通の動物でいた頃からの狩の本能が、そのまま健在している。

つまりは攻撃の際に使用する魔素や、重心は前方に集中していることが多い。それならば、突進のタイミングを見て、その勢いを生かした倒し方って言うのが、戦闘を行う前から導き出せる。

こういった、特性や元の習慣なんかを思い出したり、あるいは観察して研究をすることで、自信を持って初めから戦うことができる。

こういう技術は戦闘において基礎であり、とても重要なことなんだ。よく覚えておくようにな」

「う、うん。頑張る…」


まあ、僕も詳しい事は魔王様の会話や、戦闘傭兵の隊員なんかに聞いただけに過ぎないから、実戦経験は少ないが自分ができないからといって、やり方を教えないでいるというのはただただ身を危険に晒すだけだし、今は出し惜しみせず、早く冒険者となって魔王様に会い、今まで僕が思ってきたことが真実であると確かめなければいけない。そのためにも…


「行くぞハレ!」

「は、はい!」


ルイスとハレは、毎日様々な戦闘訓練を続けた。

木剣での実技や、杖や魔法陣を通しての魔法訓練。本を読み漁り、様々な知恵を身につける日もあった。


そうした日々を過ごし、村長が掛け合いの手紙を王都に出してから約三週間、ようやく返事がきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る