第百四十八話 エドソンのいぬ間に迫る影

「なんだエドソンはいないのか」

「はい。そうなんですよ。ちょっと出てしまっていてぇ~」


 エドソンくんとメイさんがここを出た後、薬師のロートさんとその奥さんが一緒に来てくれました。


「あらあら、貴方以前に道に迷っていた子よね? 今はここで?」

「はい~そう~なんです~エドソンくんにぃ~色々と助けてもらって~」

「そうそう。何だかんだで色々とねぇところで貴方はスロウのお知り合い? ロートといえばこの町一番の薬師と有名な人だよね。その奥さんと知り合いなんて一体何がきっかけでぇ? スロウってこうみえてのんびり屋と言うか文字通りのんびりというか」

「おい、このやかましい娘はなんだ?」

「あはは……」


 ロートさんに聞かれて返答に困るよ~。でもクイックちゃんは確かにせっかちだけどその分仕事も早いんだよね。一方でスロウちゃんは確かにのんびり屋さんなんだけどやってくるお客さんのウケがよくて、そして書類仕事に関しては普段の様子と違って字もうまいししっかりしてる。


 人にはやっぱり長所と短所があるんだなって皆を見てると思うよ。勿論私もだけどね。


「それで~ここで仕事をさせてもらってるんです~」

「こっちはまだその話が続いていたのか……タイプが真逆だな」

「でもふたりともとっても仲がいいんですよね」

「うふふ。仲の良い友だちがいることはいいことね。私もうちのがいてくれるから毎日が楽しいし」

「いや、俺は友だちじゃなくて旦那だぞ」

「旦那でもあり友だちでもあるのよ」


 ロートさんがやれやれといった顔を見せてる。でも、とても仲睦まじい夫婦だなとは思える。


「しかし、坊主にはお礼を言っておきたかったんだがな」

「お礼ですか?」

「あぁ。坊主のおかげでシリコーン油の精製がラクになったからな。おかげでこれまでが嘘と言えるぐらいの量が確保できるようになった。仕事も早くなったしな」

「本当ですか! いやぁあれも苦労したんですよ~喜んでもらえてよかったです~」


 エドソンくんに言われてロートさんの役に立つ魔導具の作成にも関わったんだよね。


「ん? 何だ嬢ちゃんもあれを作るのに関わってたのかい?」

「はい! エドソンくんが厳しくて厳しくて何度も失神ししそうに、いや、したかな? とにかく頑張った甲斐がありました~」

「そ、そうか……大変だったんだな」

「お嬢ちゃんがんばり屋さんなんだね。うん。若いうちはそうじゃないと」

「アレクト先輩はすごいと思いますよ。エドソンさんは魔導具に関しては妥協がなくて厳しいんです。でもなんだかんだでしっかりついていって求めるレベルに沿った物を作っちゃうのだから」

「えぇ~そんな褒められると照れるよ~」

「ふむ……調子に乗りやすいのが欠点かもな」

「それぐらいいいじゃないですか」


 あれ? ロートさんが何か言ってたような? でも奥さんは優しそうで本当にいい人――


――ドォオォオオオォオオォオォオン!


「きゃぁああ!」


 ブラちゃんの悲鳴が聞こえた。今すごい音が外から聞こえてきた。建物も揺れたし、これって何何? どうなってるの?


「おい、何が起きたんだ?」

「わからないけど、さっきから爆発音が続いてるわよ」


 ロートさんが眉を顰めた。奥さんの言う通り確かに音が続いてる。派遣として来てくれている皆も不安そうだ。こういう時は私がしっかりしないと!


「私、様子を見てきます!」

「まて、俺も行くぞ」

「でも、お客様にそんな」

「いいから早く出るぞ。男の俺が指を咥えてみてられんだろう」

「あ、ありがとうございます。でも危ないですから後ろからそっとでお願いします!」


 そして建物の外に出る。すると仮面をして黒い外套を纏った集団が見えた。杖持ちが何人かいる。


「フレイムジャベリン!」


 これは炎の槍を何本も生み出して飛ばす中級魔法!


「嬢ちゃんあぶねぇ!」

「あわわ! 大地の恵み、我が手、だ、駄目間に合わ!」


 目の前に炎の槍が迫る。もう駄目、と思えたその時、光の盾が現れて槍がすべて防がれた。


「敵対者感知致しました。マスターの命令に従いギルドを防衛致します」


 え? これってエドソンくんが使ってた魔導具の七変化の小人たちセブンチェンジドール


「ちょっと! なんでホーリーシールドなんて上級魔法が!」

「知らねぇよ。糞! 建物にも全く影響ねぇしよ!」


 建物……そういえば今の槍も何本か建物に向かっていったのに傷一つついてない――


「だったら俺が直接やってやるよ!」

「気をつけろ! 剣を持ってるぞ!」


 ロートさんが叫ぶ。長剣を持った仮面の人物がこっちに向けて駆けてきた。動きが速い! もうすぐそこまで!


「恨むなら調子に乗ったエドソンってガキを恨みな!」

「え? どうしてエドソンくんのことを!」

「お前が知る必要はねぇ!」


 声からして男――剣が振られて私に迫る、その時、別の人形が割り込んで剣を盾で受け止めた。


「な、こんな人形に!」

「アレクト様への暴行を確認。反撃致します」

「な! ぐわぁあぁあぁああ!」


 人形が剣を振ると逆に男が吹き飛ばされた。つ、強い!



「ちょっと一体どうなってるのよ!」

「知るかよ! くそ、こんな人形がいるなんて聞いてねぇ――」

「ギルドに仇なす狼藉物を排除します」

「屋根の上にもう一体!?」


 見ると確かにギルドの屋根にあの人形。あの子は魔法使いみたいな格好をしている。


「――サンダーブレイク!」

 

 人形の魔法で彼らの頭上が迸り、落雷が発生する。


「う、うそ! 雷の上位魔法なんて、き、きゃぁああぁあぁあ!」

「ぐわぁああぁああぁあ!」

「あぴぇぴえぇええぇえぇえぇええ!」


 次々と黒い外套の人達が雷に打たれて倒れていく。け、結局突然やってきた怪しい人たちは魔導具の人形の助けで無力化されたんだけど、でも、この怪しい人たちって一体何者?

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