第百四十九話 ギルドにやってきた女騎士
sideアンジェリーク
「ふむ――これは一体何があったのだ?」
話を聞き、私はギルドを襲撃したという連中を捕らえに向かった。しかし、まさかあのエドソンのいる魔導ギルドが狙われるとは――
彼といつも側にいるメイドとは面識がある。思えば変わった魔獣を操りブラックウルフの群れから助けてくれた頃からだな。
あれから時折関わることがあったが――
「それが~え~と、え~と」
「大変だったんだよ。何か突然妙な連中が押し寄せてきてさ。こっちは薬師のロートとその奥さんも来てるし、お客さんに怪我させたらいけないし、でも相手も物騒な武器とかもって魔法まで使ってくるしもう本当大ピンチって思ったら可愛らしい人形が――」
「すまんがもう少し落ち着いて話してくれないか?」
倒れている連中を確認し、詳しい話を聞こうと思ったのだがな――片方はやたらのんびりしていて話が始まらないし、かと言ってもう一人はせっかちすぎて話が頭に入ってこない。
「ご、ごめんなさい。実は――」
二人に変わって説明してくれたのはギルドの責任者であるアレクトというメガネを掛けた少女だった。
「そう言えばアレクトさん最近はまたメガネですね」
「あはは。最初は嬉しかったんだけどやっぱり長年つけていたから落ち着かなくて。それにずっと借り物なのも――だから自分で魔法のメガネを作ってみたんです!」
奥で事務作業をしていた少女の声にアレクトが反応していた。
ふむ。よくわからないが一度はメガネを外していたらしいな。メガネを外したら見えない気もするが――今はそれはいい。
「つまり彼らについては全く身に覚えないと?」
「は、はい。どうしてここが狙われたかも……」
「それについては最近魔導ギルドは調子がいいという噂も耳にしましたからね」
アレクトはギルドが襲われたことを不思議がっていたが、外では随分と話題になっていたのも事実だ。
「そんな噂が……前みたいに全く知られずひっそりと運営しているよりはいいけど、狙われるとなるとちょっと複雑ですね」
「そもそも、いくら噂になったからと言ってこんな連中が大挙して狙うようなものなのかい?」
私が責任者のアレクトとと話していると不機嫌そうな顔をした初老の男が口を挟んできた。
この御方については私もよく知っている。薬師のロートといえばこの町では知らないほうが珍しいぐらいだからだ。
「ロート様も奥方様もお怪我がないようで何よりです」
ロート氏は夫婦でギルドに来ていたようだ。襲撃者に一緒に襲われたらしいが、どうやらエドソンが作成した魔道具に救われたようだ。
今もギルド内で可愛らしく動き回って後片付けをしている。本当見た目には愛らしい人形だというのに随分と優秀なのだな。
「ふん。ま、もし怪我があっても自分の薬で治すさ。それより銀閃の女騎士とも称される程のアンジェリーク卿自らがわざわざやってくるのだからそちらこそ何か気になる点でもあるんじゃないのか?」
ちょっとその二つ名は恥ずかしいのだが……しかし、どうやらロート氏からは警戒されているようだな。
「え! それって領主様お抱えの騎士団の団長様の名前じゃ!?」
「おやおや、気がついてなかったのかい?」
アレクトが私の名前を知って驚いていた。確かにエドソンとメイというメイドのことは知っているが彼女とは初対面だ。
ロート氏には薬を納品してもらっていたから私もよく知っている。ただ、最近になって何故か伯爵の意向でドイル商会の薬を仕入れることになってしまったが。
正直性能が違いすぎて戸惑いのほうが大きいのだがな。
「私が来たのはたまたまですよ。丁度警備長との打ち合わせをしていた時に話を耳にしましてね。エドソン殿とは面識もあったので私が直接伺うことにしたのです」
「あ! そういえば前もエドソンくんがハリソン家に招待されましたね」
そう――悪魔化の際には私も驚かされたが、とにかくその件で一度屋敷に招待されている。その他にも、まぁとにかくそういう意味では無関係ではない。
「そういえば確かに悪魔化のこともあったか……だが、何か思うところがありそうに見えたのだがな」
「そうですね。確かに襲ってきた連中は気になるところですよ。全員ではないですが何人か手配書の回っている顔ぶれがいます。裏ギルド所属の連中です」
「う、裏ギルド!」
アレクトが驚いていた。悪名高い裏ギルドに狙われるとは思っていなかったのかも知れない――
「なるほど――どうやらあの坊主も随分と厄介なことに巻き込まれているようだな……」
ロート殿が真剣な目つきでつぶやいた。彼もまた何かしら思うところがあるのだろう。
それにしても不思議な子だ。薬師のロートは確かに腕利きだが変わり者としても知られていた。
しかしそのロートが随分とあの子を気に入っているようだ。いや、それだけではないか。フレンズ商会や奴隷商のジャニスとも関わりがあると聞くし、いつの間にかこの街で大きな人脈を築きつつあるようだ。
だが、だからこそ危険と言えるのだが――
とにかく一通り話を聞いた後、私は外で待機させていた馬車に無頼漢達を乗せてからアレクトに伝えた。
「そうだ。彼が戻ってきたら伝えて貰えるかな? アリス様とサニス様がまた会いたいと言っていてな。ハリスも美味しいお茶を用意しておくと言っていた。何れまた
「は、はい! それはとても光栄に思うと思います!」
緊張した面持ちでアレクトが了承してくれた。さて、それでは私は私の仕事を続けるとしよう――
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