第百二十六話 豚の手も借りたい
「それは本当かね!」
私が解決策があると伝えるとデニーロ男爵がすぐに話に食いついてきた。
この様子からかなり切羽詰まっているのがわかる。本来時間があれば魔導具作成はアレクトに任せたいところだが切迫している状況なら仕方ないか。
「役立つ魔導具があるそれでとりあえずの問題は解決出来るだろう」
「何? 魔導具だと? 魔導具でそんなことが可能なのか?」
デニーロが信じられないような顔で反問してきた。私の見た目が子供だから、というわけじゃないんだろうな。この辺りの魔導具の技術はかなり遅れてる。だからそういった役立つ魔導具を知らないのだろう。
「デニーロ卿。エドソンの腕はこの私が保証しますぞ。街でも彼の魔導具はとても評判が良く人々の暮らしにたいへん役立っているほどです」
するとフレンズがデニーロに私を後押ししてくれた。デニーロも華sに耳を傾けてくれている。
「うん、私も最近知ったばかりだけどそれでもとんでもないのはわかるよ。見た目と違って凄いんだエドソンくんって」
「見た目と違っては余計だ!」
全くどうもロールスは私を子ども扱いしてきて困る。
「ごめんねぇ」
「くっ、頭を撫でるな」
何故か頭をなでなでされた。ロールスの中で私はどういう扱いなのか。
「確かに約束通り素晴らしい腕の職人をお連れしたぐらいですしな。これは疑うようなことを言ってもうしわけなかった。この通り、どうかお力を貸して頂けぬか?」
改めてデニーロが私にお願いしてくる。
「勿論。これからのこともあるしな。協力は惜しまない。ただ一点、これから扱う魔導具は一時的に貸し出すという形を取らせてもらいたい。勿論、その後について必要であればそのための契約を結び正式に魔導具の開発もさせて頂く。それで宜しいかな?」
「勿論。問題が解決するのなら願ったりかなったりですし、それほどのことが可能な魔導具なら是が非でも取り引きさせて頂きたく思う!」
よし、決まりだな。なら早速準備にかからないとな。
「それでは今から一人助けを呼ぼうと思う。魔導具の設置も必要になるので可能ならデニーロ卿側でも人を確保して頂けると嬉しいのだが――」
「そういうことなら任せて欲しい。鉱山の仕事ができなくなり仕事をしたくても出来ない鉱夫がいるので彼らにお願いするとしよう」
よし、これで手もなんとかなりそうだな。
私は早速宿に戻り
「あれ? これを使うってことはもしかしてパパにお願いするの?」
「いや、鍛冶に関しては今後お願いするが魔導具に関してはもっと適した者がいる。まぁ待っていてくれ」
そして私は久しぶりに屋敷に戻り適任者を連れて戻ってきた。
「というわけで、これから設置する魔導具について詳しい説明はこのブタンに聞いて欲しい」
そしてデニーロが集めてくれた鉱夫たちに紹介する。ブタンも最初は私が戻ったことに驚いていたが、事情を話して来てもらった。私の魔導具に関してはメイと同じぐらいブタンも詳しい。
ただメイは私と同行してもらうことになるから指南役をブタンにお願いする形だ。
「ただいまご紹介に預かりましたブタンです。旦那様がお世話を掛けているようで」
「いや、待て待て、何で私が世話を掛けている前提なんだ!」
「違うのですか? 正直ずっと心配だったもので。旦那様は何というか魔導具以外のことに関しては少し残念な面もあるので」
「誰が残念だ!」
「ププッ」
くっ、ロールスも笑っているじゃないか!
「お、おい、あの豚喋ったぞ?」
「豚って喋るのか?」
「しかも何か執事みたいな格好もしてるぞ」
さて、ブタンの紹介も終わったのだが。妙だな。鉱夫達はまるで
「いやはや、驚きました……あれは魔物ですかな? エドソン殿は魔獣も魔導具で飼いならしていると聞き及びますが」
するとデニーロがやってきた更に妙なことを言い出した。
「……彼は
「え? 種族なのですか? 初めて聞きますが……」
デニーロの目が点になる。まさか、冗談だろう? ワーマルはそこまで珍しい種族というわけでもない筈だ。
「フレンズ少しいいかな?」
「はい。どうかされましたか?」
「デニーロ卿はワーマル族を知らないと言われている。フレンズはどうだ?」
「その件ですが、実は私も驚いております。ただ、人狼の話なら噂で聞いたことはありましたが……」
人狼?
「もしかして狼型のワーマルのことか……」
「正直私もワーマルというのは初めて知りましたのでなんとも言えませんが、人の言葉を解す人狼がその昔現れ人々を襲い食い殺し恐怖させたと……」
馬鹿な。人狼が人を襲うだと? 確かにワーマルの中でも狼型はプライドが高く、比較的好戦的でもある。しかし理由なき殺害はしない種族だ。
ましてや食い殺すなんてありえない。
「メイは知っていたか?」
「いえ、私もワーマルが知られていないというのは少々驚きです」
「だね。私でも知っているもの」
ロールスも不思議がっていた。この様子だと人間のみが知らないのだろうか?
しかしビスティアに関しては奴隷としてだが暮らしていた。ふむ、どうにも知識に偏りがあるな。
「しかし、そうなると心配だな。人は自分たちの知らないものを必要以上に怖がる傾向がある。ブタンを恐れて作業が進まないようでは――」
「ハッハッハ! いやあんたおもしれぇなぁ!」
「気に入ってくれたなら何よりです」
「いやいや、失礼だけど見た目豚だから会話が成立するのかなと思ったんだけどよ」
「それがだ、まさかあんな持ちネタ。プッ、てか自虐的すぎだろうあんた!」
「こんなのでよろしければまだいくらでもありますよ。仕事が落ち着いたらでよろしければおみせ致します」
見ると、ブタンがいつの間にか鉱夫達の中に入り和気あいあいと話していた。
「御主人様。どうやらその心配は不要のようですね」
メイの言う通り、ブタンは鉱夫達に随分と受け入れられているようだった。
確かにこれは杞憂だったな。ブタンは長いこと私の元で執事をしていたのだ。執事というのは相手の気持ちを慮り相手が何を望み何をしたいのかを察して動く必要がある。
それが人とのやり取りでも活かされているのだろう。
「いやはや驚くことばかり。ブタン殿は実に人の心を掴むのが上手い」
デニーロも驚き感嘆の声を上げていた。さて、これで作業は問題がなさそうだな。
さぁならば魔導具設置の仕事に入るか。
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