第百二十四話 見た目と名前で良し悪しが決まるわけじゃない
さて、いよいよこの日がやって来た。ベンツからロールスが町に降りるための許可をもらい三日経ち、ロールスにお願いした宝飾品も完成した。
そして私はメイやロールスとまたデニーロの治める町に戻ってきたわけだが。
「うわぁ~ここが人の町なのね! あぁ、人が一杯!」
「人の町ですからね」
「あ、メイさん、あれは何? 何々?」
「串焼きの屋台ですね」
「食べてみたい!」
そう。ロイスが大はしゃぎなのだ。まぁずっとベンツと一緒に山暮らしだったわけで、初めてやってきた人の街に興奮する気持ちもわからなくもないけどね。
「もぐもぐ、これ美味しい! こんなに美味しい食べ物があるなんて感激よ!」
「はは、可愛らしいお嬢ちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
幸せそうな顔で串焼きを食べているな。串焼き屋台のおじさんの瞳もどことなく優しい。
そしてロールスはきっと目にするもの全てが新鮮に映っているのだろう。
その気持ちはわからなくもない。私も随分と昔になるが初めて人里に出た時は感動したものだ。
ただ300年経って久しぶりにて町に来た時は別な意味で驚くことになったけど。
「坊主はどうだ旨いか?」
「――坊主?」
そんなことを考えていると屋台の男が言った。ふむ、坊主とは誰のことだろうとキョロキョロと見回してしまう。
「あはは、エドソンくんのことじゃない」
「わ、私のことだと!」
「はは、坊主はこんなに可愛いお姉ちゃんや綺麗なお姉さんと一緒で羨ましいなぁ」
お、お姉ちゃん? まさかそれはロールスのことを言っているのか? 百歩譲ってメイが私よりお姉さん扱いされるのは、釈然としないが仕方ないとしてロールスより下と思われているというのか!
「しょげないしょげない。エドソンくんも可愛いよ」
「可愛いと言われて喜ぶ年ではない!」
全く失礼な話だ。串焼きは美味いが。
さて、観光したい気持ちもわからなくないが、約束がある。私はフレンズを迎えに行きロールスを紹介した。
「ほぉ、これはまた可愛らしいお嬢さんですね。しかしエドソンさんが自信満々にご紹介してくださるぐらいですから相当な腕前なのでしょうな。お若いのに実に素晴らしい」
「えへへ、貴方凄くわかっているわね! 気に入ったわ!」
「それはそれは光栄の極みです」
おだてられてロールスが喜んだ。流石フレンズは人の心を掴むのが上手いな。
そして私達は再びデニーロの屋敷に訪れたわけだが。
「よく来たな。待っていたぞ」
屋敷に着くとデニーロがそう言って出迎えてくれた。だが、何やら随分と難しい顔をしているな……
「さて、こっちの準備は出来ているが、お前の言っていた腕利きの職人とやらはどこにいるんだ?」
「ここにいるだろう?」
「ここ?」
私はロールスに目を向けるが、デニーロは思案顔である。どうやら気がついていないようだ。
「細工師は私よ」
「は? 嬢ちゃんがか?」
「そうよ」
ふふんっとロールスが得意がる。だが、デニーロの顔色がみるみると赤く染まっていった。
「ふ、ふざけるな! こんな年端も行かない少女に宝石の何がわかるっていうんだ!」
デニーロが叫ぶ。随分な言い草だな。そもそも妙に不機嫌そうでもある。
そんな彼の態度に当然だがロールスがムッとした顔を見せた。
「人を見た目で判断するなんて、それで貴方本当に宝石のコレクターなの? ねぇエドソンくん、本当にこの人大丈夫? いくら私が腕を奮って細工した宝飾品を持ってきたって見る人の目が曇っていたら正しい判断なんて出来ないわ」
「な! わ、私の目が曇っているというのか!」
胡乱げな目を向けるロールスにデニーロがムキになって語気を強める。う~んそれにしても流石はあのベンツと気の強そうなジープの娘だな。全く物怖じしていない。
「まぁまぁデニーロ卿。とにかく一度見ては頂けませんか? エドソンはいい加減なことを口にする御方ではありませんし――」
憤るデニーロだがフレンズが間に入り上手いこと気を静めてくれた。ロールスにはメイが対応し、場合によっては自分と私で判断するのでと伝えロールスも納得してくれたようだ。
「ならばついてくるが良い」
そして例のごとく地下室へと向かう。すると眼鏡を掛けた男が立っていた。人族で言えば壮年の男性といったところか。
「お前か。子どもの癖にこの町の細工師に文句をつけたというのは」
「こ、子供扱いするな~~~~!」
「御主人様、どうか落ち着いてください」
全くもうどいつもこいつももう!
「ところで貴方様は?」
「私はあのマカロス・フォーリアの一番弟子。マカロニ・グランタだ」
フレンズの問いかけに男が得意げに語るが、そのマカロスという男を知らないから何が凄いのかわからんぞ。
「そういえば以前もその名前を聞きましたね」
「マカロス・フォーリアといえば大陸一とも呼び名高い細工師だ。その一番弟子である彼も当然それだけの腕をもつ、今日の宝石も彼がこの日のために用意してくれた」
メイが思い出したように言うと、得々とデニーロが語ってきた。
「ロールスは知っているか?」
「さっぱりね」
「おい、ちょっと待て、まさかそれだけ大口叩いておいて連れてきた細工師とやらはこの少女なのか?」
マカロ二が訝しげにロールスを指差した。全くどいつもこいつも見た目で判断し過ぎだろう。
「私じゃ悪いの?」
「冗談じゃない! 百歩譲って若いという点は目を瞑るにしてもマカロス師匠のことをまるで知らないなんて、細工師としてありえない」
マカロニが頭を振る。よっぽど自分の師匠の知名度に自信があるのか。
「何を言われても知らないものは知らないわ。それに、そもそも今回宝飾品を作ってきたのは貴方で師匠ではないのでしょう? それなのにいちいちその師匠とやらの名前を出す気持ちがよくわからないわ。貴方がやる細工は貴方の物で師匠のものではないんでしょう?」
「え、あ、いや確かにそうだが……」
ロールスの言い分が正しい。そもそも本当に良い物というのは作った人物の名前で決まるものじゃない。
「……確かに言われてみればそのとおりかもな。だが、当然マカロニの作る宝飾品は素晴らしいものだ。これからそれを証明してくれることだろう。いいかな?」
デニーロが少し考える仕草を見せた後にマカロニに話を振った。
「勿論だ。ここまで言われて黙っていられるか。お嬢ちゃん良く見ておくんだな。これが私が最高のルビーを最高の腕で細工した品、名付けてクィーンレッドローズだ!」
「お、おお、これは!」
そしてマカロニが自分の作成した宝飾品を台の上に置き、フレンズが驚きの声を上げる――
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