第百二十話 見てられない
「三日後だな! だがそこまで言っておいて、もしこれ以上の物が用意できなかったらどうするつもりだ!」
「その時は何でも言うことを聞いてやろう」
「よし言ったな! その言葉忘れるなよ!」
「勿論だ。しかし、それならば私がもし用意できたらのことも考えてもらわないとな」
「面白い。その時には私が貴様の言うことを聞いてやる!」
よし、上手く話に乗ってくれたな。
「メイ、今の言葉しっかり聞いたな?」
「はい御主人様」
「フレンズも大丈夫だな?」
「え? は、はい。聞きましたが……」
「よし、言質は取れたってわけだ」
私が頷くと、むぐぐ、とデニーロが唸り。
「それはこっちのセリフだ! 私は絶対に貴様に約束を守らせるからな!」
「勿論だ。魔導具師として私は言ったことは守るさ」
そして私達は男爵家を出た。話を決めた以上、私達は早急に準備に掛かる必要がある。
「しかし、一体どうなさるおつもりなのですか? 三日だとかなり時間に余裕もない気がしますが」
デニーロの屋敷を出た後フレンズが心配そうに眉を落とした。確かに三日は決して余裕のある時間には思えないだろう。普通ならだが。
それを何とかする相手と、会いに行ける魔導具もあるからな。ただその前に必要な物がある。
「問題ない、が、ちょっと商業ギルドで聞きたいことが出来たな」
「ふむ、それが今回の件と関係有るのですね?」
「無論だ」
「わかりました。では急ぎましょう!」
そして私達は再び商業ギルドを訪れたわけだが。
「これはこれは。領主様とはお会いできましたかな?」
「あぁ、おかげで助かった。それで一つ聞きたいのだがこの町で一番旨い酒を売っているのはどこかな?」
「旨い酒ですか。それなら勿論ナポレール酒造ですな。地図で言えばこの位置ですな」
商業ギルドのマスターが地図を出して教えてくれた。ここから少し離れているか。
「あそこの蒸留酒は最高で遠方からわざわざ買付にくる商人が後をたたない程ですからね。文句無しにこの町一番です」
ほう、なるほど蒸留酒か。それなら丁度いいかもな。
「ただ、今あそこは――」
「わかった。教えてくれてありがとうな。早速行ってみるとしよう」
「え? あ――」
私はフレンズを連れてギルドを出た。
「御主人様、今マスターが何かを言おうとしていたような……」
「うん? そうか? ふむ、まぁいい。もう出てしまったしな」
何か用事があったとして、帰りにまた寄ってみるとするか。
そして私達はナポレール酒造までやってきた。木造でなかなか年期の入った建物だった。こういう酒造りの店はこれぐらいの方が期待できる。
代々受け継がれてきた味というものがあったりするからな。なるほどそう考えてみればここなら旨い酒があってもおかしくない。
「うん? 何か用か坊主?」
建物の中に入るとキラリと光る頭をした男が怪訝そうに聞いてきた。茶色い髭を蓄えた男だ。人の年齢で言えば40代半ばといったところか。
「ここで旨い蒸留酒を扱っていると聞いて買いに来た」
「馬鹿いえ。うちは子どもに売るような酒はおいてんねぇよ」
腕を組み不機嫌そうに答えてきた。くそ、だからいちいち見た目で判斷するなというのに。
「お酒は御主人様が呑むわけではないのです。贈り物として購入できればと思いまして」
「ん? お、おぉ。こりゃまた偉いべっぴんなメイドさんがいたもんだなぁ」
メイが私に代わって説明すると途端に表情が変化し鼻の下を伸ばして接してきた。わかりやすいなおい。
「お二人とも信頼に足る御方です。それに私もその旨いお酒に興味がありますね」
「ん? あんたは?」
「フレンズ商会のフレンズと申します」
「ほう、商人かい」
店主がフレンズを見ると、ニコリとフレンズが微笑んだ。流石普段から接客に慣れてるだけあって人懐っこい空気がよく出ている。
「ナポレール様のお作りになる蒸留酒は大陸一とも評される程とお聞きしまして、宜しければ何本かお譲り頂けませんか?」
「おお、大陸一かあんたわかってるじゃないか。それに、そっちの子どもが呑むわけじゃないんだな」
くっ、だから私は子どもではないと言うのに! まぁ、私が呑まないのは確かだが。
「だがあいにくと売ることは出来ねぇな」
「な、何だと! どういうことだ? ここは酒を製造しているのだろう?」
今後のためには旨い酒は必須なのだ。手に入らなというのは困る。
「あぁ確かにな。酒造を名乗ってるぐらいだ。だけどな、その酒を造る為の魔導具が調子悪くてなぁ。作ってもらったとこに修理を頼んでるんだが材料がまだ用意できてないって言われてて今は休業中なんだよ」
「な、なんとそうだったのですか」
「あぁ、しかしあんたらどこでうちのこと聞いたんだ? 商業ギルドなら知ってたと思うんだけどなぁ」
商業ギルド、そういえばマスターが何か言いかけていたが、そうかこのことだったんだな。しかし――
「店主よ今、魔導具の調子が悪いと言ったな?」
「あぁ。蒸留のためのな。全く俺も出来れば早く仕事を再開させたいんだがなぁ」
弱ったように店主が髭をさすった。しかし、魔導具と聞いては黙っていられない。
「ならばその魔導具を私に見せてみろ。すぐにでも直してみせるぞ」
「は、小僧がか?」
「小僧ではなーーーーーーい!」
「御主人様落ち着いてください」
ジロジロと訝しむように見られた上にこの発言だ。ついムキになってしまったぞ。そしてメイよ何故頭を撫でる。
「こちらのエドソンは、見た目こそ若いですが、これでかなりの腕を持った魔導具師なのです。私も随分と彼の腕に助けられました。なので悪いようには致しませんので拝見させて頂けませんか?」
フレンズがそう言って頼むと、店主が顎を擦って表情も変化した。
「ふむ、そこまで言うならな。ただし、壊すなよ?」
「壊すか!」
全く私を何だと思っているのか。とにかく、店主のナポレールに案内され酒房の魔導具を見せてもらったのだが。
「……本当にこれで酒を作っていたのか?」
「あぁ、そうだ。何だやっぱり無理そうか?」
む、無理そう? それは私に言っているのか? 冗談じゃない。むしろ呆れているのだ。何だこの稚拙な魔導具は。火の魔石を利用した作りのようだがフラスコにパイプを繋げ魔石の熱を伝えるというあまりに単純過ぎる作りだ。故障の原因はパイプの一部が破損したからだ。実にわかりやすいが……
「本当にこんなもので修理にそんな時間が掛かっているのか?」
「あぁ、素材の一部に魔物のを使ってるとかでな」
それはまぁ見ればわかる。継手に使ってるこの木材はトレントのものだ。
だが、何だそれは1 大体熱を伝えるパイプに何故トレントだ! あんなもの熱伝導率が悪すぎだろう! わざわざ効率を下げてるようなもんだ!
「これは駄目だ我慢できん。店主、安心しろ私がもっといいものに改造してやる」
「は、改造? いや、俺は別に元のままでも」
「ふざけるな! こんなもの使っていてはいい酒も台無しになる! いいから任せておけ!」
そして私はすぐに作業にとりかかった。ふふ、魔導具師としての血が騒ぐぞ!
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