第百十三話 線路を敷いて魔導列車を動かそう!
「線路? 列車? はて、それは一体何でしょうか?」
私が考えていた設備について語ると、フレンズもフレームも2人揃って頭に疑問符の浮かんだ顔を見せて頭を捻った。
おいおい、いくらなんでも冗談だろう?
「いやいや、鉱山があるぐらいなのだから流石に線路は知っているだろう?」
「?」
「ちょっと、わからないですね。それも魔導具の一種ですか?」
う、う~む。厳密に言えばそうなのだが、しかし魔導具に限定しなくても線路は作れる。
ドワーフなどはけっこう昔から線路とトロッコという簡易的な乗り物で鉱石を運搬していた。ベンツには私の考えていた仕組みを利用して魔導トロッコも作成してあげたりしたこともある。それが私の考えるところの魔導列車の試作品だったわけだが。
「大体、鉱山があるのだから運ぶ道具は必要だろう。これまで一体どうしていたのだ?」
「基本的には動物を使ったりあとは奴隷ですね」
私は思わず絶句した。これまでも前時代的な馬車が未だに主力であったり畑の魔物対策が冒険者だったりと300年経っても全く進化が見られないとは思っていたが、鉱山に関しても動物や人力頼りとは。
「全く、色々と驚かされるが、とにかく鉱山迷宮から運び出すには線路と列車は必須だ。そのために色々考える必要があるが……」
当然だが魔導列車の作成には鉄と魔法銀が必要となる。鉄と魔法銀を運ぶための列車に鉄と魔法銀が必要というのも妙な話に思えるがな。
線路に関してはとりあえずは木製でもいいだろう。この森には材料になりそうな木材が揃っている。
魔導列車の作成だがこの鉱山迷宮をそのまま利用しようと思っている。つまり迷宮の中に列車を作れる作業場を設ける。
後は高炉だが、普通の高炉では正直火力が足りないんだよな。それに魔導列車に動力となる機関が必要だ。
単純に考えれば魔導車の動力を利用すれば手っ取り早いが魔導車より巨大となる魔導列車にそのまま転用するとなるとこの周辺の素材だけでは厳しい。そうなるとやはりここは魔導燃焼機関で妥協しておくべきか。
完全魔導機関より効率もパワーも落ちるが素材はぐっど入手しやすくなるだろう。
ただ、今回ばかりは流石に魔導ギルドだけでは手に余る。アダマン鍛冶店は勿論、金属加工が得意な職人を集めようと思うが、列車そのものを知らないようでは作り方を覚えるのも大変だろう。
それに私は魔導具の作成と言っても鍛冶が得意なわけではない。金属の加工となると専門外だ。
というわけで今必要なのは鉱山迷宮内で魔導列車を作成できる場所を確保すること。勿論鉱石が採れる近くである必要がある。
後は場所の確保後に設置する高炉の準備。これは今回はアダマンの店にある高炉をベースに加工していく。
そして動力を作成するための素材の確保に職人たちを指導する監督だ。と言っても監督に関してはすでに誰にするかは決めてある。というよりもあいつ、私も良く知るベンツ以外に考えられない。
ただ、あいつを外に連れ出さないといけないんだよな。しかし普通にお願いしても無理だろうな。
何かあいつが外に出たいと思えるような材料が必要だ。それにはドワーフの特徴を利用する必要がある。
とにかく私はメイとも相談し今後の方針を決めた。先ずはこの鉱山迷宮を更に探索し条件にあった場所を見つける必要がある。ただ出てくる魔物のことも考えるとフレンズとフレームはこれ以上付き合わせることは出来ないだろう。
とにかく、先ずは2人にも私とメイが導き出した考えを話してきかせた。
「正直私にはその魔導列車や線路が何なのかh掴みきれませんが……ただ動かすために必要な素材というのは手に入りそうなのですか?」
フレンズが疑問を投げかけてくる。魔導列車を動かす為にはそれ相応の素材が必要だが。
「とりあえず、魔石が必要となる」
「魔石……確か魔核があれば作れるんだったよな? だったら狩って狩って! 狩ってきてやるぜ!」
ハザンが張り切り力こぶを見せつけてきた。ただ、今回に関してはそれだけだと厳しい。大量の魔石が必要だからな。しかも魔石の種類は限定的だ。魔石と言ってもどんな魔物の魔核で作成した物でもいいというわけではない。魔導列車のような乗り物だと特にそうだ。
である以上、魔物の核を使って作成するにも限界があるし時間も掛かってしまう。
「魔物を狩るだけでは必要な量を得るのに時間が掛かってしまうから正直厳しい」
「それならどうされるおつもりで?」
眼鏡の弦をクイクイっと押し上げながらフレームが聞いてくる。魔物を狩っても無理なら一見厳しそうに思えるのかもしれない。
だが私には1つ考えがあった。
「今回必要なのは火の魔石だ。そして可能なら魔核を加工したものではなく天然物、つまり鉱山から採掘できる魔石が望ましい」
「うん? しかし兄弟、魔石が採掘できる場所なんてそう簡単には無いはずだろ? それともこの鉱山迷宮にあるのか?」
「いや、そもそも魔石は金属が採れるような場所からは採掘できないからな」
魔石が採れる条件というのは実は我々エルフとも関係が深い。精霊が関わっているからだ。
だが、ここで採れないにしてもだ。
「しかし、私には1つ覚えがある。以前この周辺について調べたことがあったが、丁度この森を境界とした男爵料が鍵だな」
「あぁ! そうか、わかりましたよエドソンさん。今私も思い出しました」
うむ、流石に商人のフレンズは今の話で気がついたようだな。フレームも同じなのか眼鏡のレンズがキランっと光る。
「あぁ、そうでしたね。確かブジョー男爵領には天然の魔石採掘所があって、しかもそこで火の魔石が採れるはずです」
そうなのだ。まさにブジョー男爵領で私が必要としている火の魔石が手に入る。つまり男爵領との話さえ通れば魔導燃焼機関の開発も進める事が出来る。
「しかし、問題は相手が取り引きに応じてくれるかですが……」
「それだが、私はこの鉱山から採れる鉄や魔法銀を材料に上手く話を進められたと考えている。だが、私にはその男爵との面識がない。そこで2人に協力してもらえると嬉しいのだがな」
「そういうことでしたか。それであれば、あの男爵領は宝石が採れることでも有名で
「ならば私は契約に必要となる書類を纏めておくとしますか」
よしよしいい感じで話がまとまってきたぞ。と、その前にもう一つ。
「ときに、ブジョー男爵領では旨い酒が手に入ったりはしないかな?」
「おお、よくご存知で。確かにあそこにはかなり上等な酒を作っている職人がいるといわれてます。ただ、頑固一徹な職人らしくこだわりも強いのか本数はあまり作ってないようなのですよね。その分情報も出回ってないのですが良く知ってましたね」
「何、そこはただの直感さ」
私はそう答えるが。
「御主人様、火の魔石が採れるからそう予想したのですね」
うむ、流石メイは良くわかっている。火の魔石が採掘できる周辺というのは火の精霊が多い。そして火の精霊が多いと酒に適した原料がよく育ち質も向上するのだ。
ついでに言えば火の精霊は宝石好きとも噂される程、火の精霊が多いところでは宝石が良く採れる趣向にある。
つまり火の魔石が採れるような場所では自然とこの2つが結びつくことが多い。
何はともあれ、これで方針は決まったな。なのでフレンズとフレームは町まで送り届け私とメイ、そしてハザンの3人で鉱山迷宮に再び潜る。作業場所の確保のためにね――
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