第百十二話 鉱山迷宮

「……御主人様。内部の反応を見るに鉱山迷宮であることは間違いないと思われます」

「あぁありがとうメイ。君は本当に優秀だな」

「……お褒めに頂きありがとうございます」

「いや、お礼を言いながらなぜ私の頭を撫でる!」

「……御主人様成分を補給したかったのです」


 自分成分なの! うぅ、どうにもメイに頭を撫でられるとむずかゆい気持ちになる。


「しかし兄弟、鉱山迷宮なんて俺は初めて聞いたぜ」

「何? そうなのか?」

「正直、私も初めてですね」

「そんなものがあったら商業ギルドでも大騒ぎですよ」


 なんてことだ。鉱山迷宮なんてものは300年前はわりとゴロゴロしていたんだがな。鉱山迷宮は基本的には魔力マイフの濃いところに現れる。そういった意味では迷宮に近いがその中でもより鉱石が多く産出されるものを鉱山迷宮と呼ぶのだ。


 迷宮なので普通の鉱山と異なり魔物も出現するのと、鉱山迷宮が出現するとその影響でメタルリザードやマジックシルバといった魔物が大量出現するようになる。そして何が出てきたかである程度鉱山の中身も知ることが出来る。


 メタルリザードだけなら鉄。マジックシルバなら魔法銀。そして今回はその両方が出てきたので鉄も魔法銀も期待できる。


「重要なのは鉱山迷宮で採掘できる鉱石は純度がとても高いということだ。つまり良質な鉄や魔法銀が安定して採掘出来る」

「おお!」

「そ、それはなんと素晴らしい……」

「よくわからないが、この迷宮があれば魔導ギルドは助かるのか?」

「勿論だハザン。これもお前のおかげだぞ」


 私がそう答えると、へへ、とハザンが鼻をこすった。


 しかし、全くこいつは思いがけないことをしてくれる。


「さて、とにかく中を調べてみるとしよう。魔物が出るので危険を伴うが2人はどうする?」

「出来ればついていきたいですが……」

「しかし私には戦う力がありません」

「それは問題ない。メイやハザン、それに私もいる。それとこれも渡しておこう」


 そして私は2人に腕輪を手渡した。するとフレームが不思議そうな顔を見せる。


「これは何ですか?」

「アレクトに作らせた防護の腕輪だ。それをはめていれば大体の攻撃や魔法は跳ね返してくれる」「えぇええええぇえええ!?」


 フレームが素っ頓狂な声を上げた。何だ一体?


「どうした? そんな珍しい代物でもないだろう?」

「いやいや、魔法の効果のある腕輪なんて普通作ったりしませんよ! 迷宮などで手に入れてくる人は稀にいるようですが!」

「へ? そ、そうなのか?」

「はは、今更だが兄弟。このソードリボルバーや何とかアーマー?」

「マイフリキッドアーマーだ」

「そうそうそれよ。それだって普通は作ったりシないもんなんだぜ。俺が前使っていたゼーツンゲも迷宮で手に入れたものだし、市場に出回っているのも迷宮で手に入ったというものがほとんどだ。まぁその迷宮にしても鉱山迷宮なんてとんでもないもんがあるって知らなかったけどな」


 なんてことだ、私の中では迷宮で手に入るものは一部の物好きが趣味で集める程度の実用性のない代物という認識でしかなかったのだがな。


 だが、それもこのあたりでの常識なのだろう。今思えば腕輪の作成一つで随分と驚いていたし。ただ彼らも帝都がどうなっているかまでは知らぬようだし都に行けばまた違うのかもしれないが。


「私も最初は随分と驚かされましたがだんだんと慣れてきましたよ。あんな凄い魔導具を見せられているのですから」

「あぁ、よくよく考えてみたらそうか。勝手に掃除をしてくれたりダイエット効果のある魔導具を作ったりするのだしな……」


 何故か呆れ顔なフレームだ。私からすればその程度の魔導具がないことが驚きだったりするのだが……。


 とにかく私達は鉱山迷宮に足を踏み入れることにするが。


「え~と、その飛んでいるものはなんですか? 蜂のようにも見えますが……」

「これはマイフサーチビーだ。鉱山迷宮内はマイフ、まぁようは魔力だな。その濃度が濃い。だが魔力濃度が濃すぎると人体に影響が出る。体が重くなったり場合によっては細胞が耐えきれなくなって破裂することもある」

「お、恐ろしいですね……」

「あぁ、そこでこの魔導具の出番だ。これは周囲の魔力の濃度をつねに感知してくれる。そのうえで魔力が濃い場所を見つけると教えてくれたうえ周囲の魔力を利用し数を増やした後巣作りを始めるんだ」

「巣を作ったらどうなるんだ?」

「その巣によってマイフの濃度が減少し人が自由に活動できるようにしてくれる」

「それは便利ですねぇ」


 この魔導具のおかげで私達は安心して先に進むことが出来る。内部は暗いが移動式魔灯によって灯りは確保された。


「こっちは魔力が濃いようだからビーに任せて先にこっちへ向かおう」

「いや、本当に助かる」


 そして途中で魔物も出現した。私がマイフルでメイも素手で、ハザンもソードリボルバーで撃退していった。


 しかし、やはり魔物の数は多いな。腕輪の効果があるとはいえ、フレームやフレンズも不安そうにしていたが。


「先ずは鉄の鉱脈だな」

「お、おお! 本当だ。しかも確かにこれは素晴らしい!」

 

 鉱脈を発見しフレームが感動に打ちひしがれていた。そして我々は更に迷宮を探索。奥にはしっかり魔法銀の鉱脈も確認できた。途中途中で魔力の濃いところもあったがそれはマジックサーチビ~によってなんとかなるだろう。


 とにかく、鉱脈があることを確認できたので我々は一旦外に出て、フレームやフレンズ、ハザンにメイと共に話し合う。


「ガハハ、兄弟、勝ったなこれはガハハ!」


 そう言ってハザンが豪快に笑った。何に勝ったかというところだが、まぁあの連中が悔しがる顔を思い浮かべれば少しは溜飲も落ちるというものか。


「一応確認だが、ここは誰の土地でもないのは間違いないのだな?」

「はい。それはたしかにそうです。そしてこの鉱山は確かに素晴らしいもの。それは間違いありません……ですが、問題点も多いですね」

「ほう、問題点というと?」


 フレームの話にフレンズが問いかけた。


「先ず一般的な鉱山と比べて魔物が非常に多い。それが問題です」

「……確かに鉱山迷宮は基本的には迷宮と一緒です。なので魔物は多く出ますね」


 メイがそう答えた。さっきの探索中も結構な数の魔物と遭遇したしな。


「だが、そんなもの俺たちで倒しちまえばいいだろう?」

「う~ん、皆さんの強さはわかりますが、鉱山全体で考えれば、それだけでどうにか出来るというほど簡単ではないかと思います」

「それならば、例えばエドソンさんなら、魔物を何とか出来る魔導具も開発出来るのでは? 以前キッコリさんに森の魔物が逃げ出すような魔導具を作られたとか」

「あぁ、確かに作った。だが、迷宮の魔物は定期的に倒さなければいけないからな。ただ寄せ付けなければいいというものではない」


 迷宮では黙っていても魔物が出現する。放っておけば鉱山内の魔物は増えるばかりだ。


「そうなると、採掘途中で魔物に襲われるリスクは高まりますね」

 

 フレームが腕を組んで唸り声を上げた。実はこれは簡単に解決できる方法があると言えばある。


 鉱山内で働くゴーレムを設置するなどという手だ。ただ、これを作成するのにかなりの鉄と魔法銀が必要であり現状それがないという状況である。


 と、同時にあまり魔導具だけに頼る手はしたくないというのがある。それをやってしまうと鉱山をきっかけに生まれるはずの町の人々の働き口がなくなってしまうからだ。


 なので、少々原始的だが私は古くからある手を先ずは提案する。


「魔物の件だが、それを解決する手はじつはある。あのマジックサーチビーが役立つ形だが、あの魔導具が作った巣を利用するのだ」

「巣を?」

「そうだ。迷宮内の魔物の動きはある程度魔力によって左右される傾向がある。なのでビーが作成する巣の効果を調整し魔物をおびき寄せる程度の濃度に変化。それで魔物が集まるルートを採掘ルートとは別に作る。こうすることで採掘する側の危険は減らせるだろう。別ルートとの分かれ道にだけゴーレムを設置することで、侵入を防ぐことも可能となる。あとは定期的に別ルートの魔物を駆除すればいい」

「お、おお! それは素晴らしい!」

「いやはや驚きました。まさかこんなあっさりとそのような妙案を考えつくとは」

 

 フレンズとフレームが感嘆の声を漏らすが、実は300年以上前からある原始的な手段だ。その時は魔導具の力は使わず魔力の濃い所までの道を作るという手であり、それはそれで結構な人手が必要だったようだがな。


「これで鉱山内部の問題はなんとかなりそうですが、しかし、まだ問題は山積みですね。やはり採掘方法が、この地は結構な高いところにありますし鉱山から出た後も魔物は多いですから」


 つまり鉱山をふくめて全体的な鉱石を運び出す手段ということだな。しかしこれには実は私に考えがあった。


「……御主人様、嬉しそうですね」

「はは、それはそうだ。あれを作るのは楽しいものだからな。それなりの規模だから中々作る機会はなかったが」

「ということは兄弟。何か思いついた手があるのか?」

「勿論だとも」

「ほう、それは一体?」

 

 私が返事をすると、ハザンやフレンズ、そしてフレームも興味深そうに耳を傾けてきた。


 なので私は一度ごほんっと喉を整え。


「私はここに線路を引き、魔導列車を走らせようと思う!」


 そう宣言したのだった――

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