第百十一話 森へ――
「おお、俺の情報が役立ったといういことか兄弟!」
「あぁ、それはもう大役立ちだ。だがその前に一つ確認だが、今その森は中立と言っていたがそれは一体どういう意味だ?」
これはかなり重要なことだからしっかり聞いておかないとな。
「あぁ、正確に言えば誰もその土地を持っていないと言ったほうがいいのか? 元々その森はプジョー男爵領との境目にあってな。だから共通の狩場ということにしてどちらも開墾せずそのままにしてあったわけだ」
なるほど、つまり未だ手つかずの土地ということだな。
「そういう場所で、もし例えば資源になり得るような物を見つけた場合その権利はどうなる?」
「え、え~とそれは……」
ハザンが腕を組み頭を悩ませた。私としたことが聞く相手を間違えてしまったようだ。ハザンが権利関係の規則に詳しいわけなかった。
「そういう場合は先に見つけた方の領が権利を有する筈です」
代わりに答えてくれたのはフレンズだった。流石に商人だけあってこの手の話では頼りになる。
「もし見つけた人物が領地とは関係なかった場合は?」
「それは、難しいところですね。ただ、内容次第では見つけた人物に権利が渡る可能性が高いかと。ただ、揉め事に繋がることも多いようですが、もしかしてエドソンさん。その森に何か大事なものが隠されているのですか?」
「うむ、あくまで可能性だが……よし、とにかくそれであれば無駄にはならないだろう。先ずはその森に行ってみるとしよう」
「おお! だったら兄弟。俺も一緒に行くぜ!」
「私もご同行して宜しいでしょうか?」
ハザンはもう来る気満々だな。フレンズも興味あるようだ。そうだな、だったら――
「これが噂のエドソンさんの魔獣ですか。いやはこれは凄い!」
「相変わらずこの魔獣は速いな兄弟!」
私達は森へ急ぐため魔導車で現地に向かうことにした。相変わらずハザンは魔獣と思っているようだけどな。ついでにフレンズも感動しているようだがやっぱり魔獣という判断だ。
「しかし、私もご一緒してよろしいのですか?」
そしてもう1人、眼鏡をクイクイっと直す男、商業ギルドのフレームが後部座席から私に尋ねてきた。そう、今回は折角だから商業ギルドにもついてきてもらったのだ。
「勿論だ。この件は商業ギルドにも関係していることだからな」
「われわれがですか?」
「そうだ。鉄や魔法銀の件では商業ギルドも苦い思いをしているだろう?」
「……えぇ、全く急な話で驚きましたよ。我々商業ギルドではなく冒険者ギルドが管理すると言い出すのですから」
私も情報を集めていた時に商業ギルドから話は聞いていたけどね。その時も随分と不満を漏らしていた。
「だから今回はうちと商業ギルドで協力して冒険者ギルドの鼻を明かしてやろうと思っているのだ」
「ふむ、それは中々面白そうなお話ですが、一体どうやって?」
「それを今から確認しに行くのだ。さぁメイ頼んだぞ」
「……はい御主人様」
そしてメイがアクセルを踏み込み加速する。ハザンがはしゃぎフレンズは動揺し、フレームは悲鳴を上げた。
未だにこの辺りでは主要な馬車よりずっと速いからな。出そうと思えば音速も超えられるがまぁそこまでしなくていいだろう。
そんなわけで目的の森にはあっというまにたどり着いた。流石に森に入ってからはスピードを落として進む。
さて先ずはハザンの言っていたことを検証するために森を魔導車で見て回ったが。
「いたぞ。メタルリザードだ!」
「あぁ、本当に群れているな」
「倒してくるぜ!」
「いや、今回は別に無理して倒す必要は……」
「……もう行ってしまいました」
メイが口にし、視線の先にハザンがいた。速いな! 全く。このあたりはやはり冒険者の血が騒ぐと言ったところか。
「狩ってきたぜ!」
そして意気揚々とハザンが戻ってきた。10匹のメタルリザードが倒されているのがみえる。
「へへ、兄弟の作ってくれたソードリボルバーのおかげで硬いメタルリザードもスパスパだぜ」
ハザンが剣に頬ずりしながら語る。気に入ってくれているのは結構だが、少し気持ち悪いぞ。
「……あの、もしかしてメタルリザードで鉄を賄おうというつもりですか? でしたらその……」
するとフレームが言いにくそうにしながら私を見てきた。何を言いたいのかは表情を見ればわかるが。
「わかっている。私とてメタルリザードだけでどうにかなるとは思ってはいないさ。とは言えこれはこれで素材としては役立つからな」
肉と魔核を回収し更に先へと進む。森の中では数多くのメタルリザードがいた。この量は確かに普通ではない。
「よし、メイこれならやはり可能性は高い。山の方へ向かってくれ」
「……はい御主人様」
私が言うとメイが進路を山へと向けた。麓は緑の多い地帯だが、山の中腹あたりからは岩肌が多くなっていく。
「エドソンさん、山に来てどうするつもりなのですか?」
「ま、見ていれば、ムッ! あれは!」
問いかけてくるフレームに応じている途中で、私は1匹の魔物を発見した。
「うん? あれは馬か?」
「ただの馬ではありませんね。1つ目の馬です」
ハザンが興味ありげに馬に目を向け、フレンズは気がついた容姿を語る。
「……はい。あれはマジックシルバという珍しい魔物ですが、群れていますね」
マジックシルバは銀色の皮膚を有する1つ目の馬だ。本来あまり姿を見せない魔物でもあり、みつけても1匹ということが多いのだが今回はそれが群れをなしている。
「よっしゃー! 狩ってやるぜ!」
「おい、それは構わないが気をつけろ。そいつは、て本当に話を聞かないなアイツは……」
やれやれと思って様子を見ていると、近づいたハザンに一斉に顔を向けたマジックシルバの目が光を発し、ハザンの肉体が徐々に銀と化していった。
「何だこりゃ? どうなってる!」
「マジックシルバは銀欲の瞳という能力を持っているんだ。その目を見たら体が徐々に銀化する」
「そういうのは早く言ってくれよ兄弟」
「言おうとしたら既に飛び出していたんだろう全く」
仕方がない。私は魔導車の屋根に移動しマイフルでマジックシルバの肉体を次々と撃ち抜いていった。
「はい、終わりと」
「驚きました。エドソンさんは戦闘もこなせたのですなぁ」
「……悪魔を倒した時は御主人様も活躍されました」
「あの事件のですか? いやはや大したもので」
フレンズとフレームに驚かれ、そしてフレームは車を下りてマジックシルバへと近づいていく。
「お、おい兄弟。俺は大丈夫なのか?」
「問題ない。メイ頼む」
「……はい。お任せを」
そしてメイがハザンに向かって魔法を唱えた。メイには魔法を行使する力も備わっているからな。治療魔法でハザンの銀化しつつあった体もすぐにもとに戻った。
「はは、流石メイさんだ。大したものだ。感謝するぜ」
「……どういたしまして」
恭しくメイがお礼を受け取っているその先ではフレームが興味深そうにマジックシルバの死体を見ていた。
「驚いた……このマジックシルバという魔物、皮膚が魔法銀で出来てますよ」
「そうだ。マジックシルバの特徴の一つだな」
「なんと! それならこの魔物を狩れば魔法銀の問題は解決ですか?」
話を聞いたフレンズが興奮気味に語り、ハザンも、
「だったら俺が狩りまくるぜ!」
と張り切ったが。
「……いえ、たしかに魔法銀ですが採れる量はさほど多くはないでしょう。メタルリザードと一緒で皮膚の薄い層のみが魔法銀なようですから」
中々の観察眼だな。マイフルで貫かれた傷痕だけでそれを判断したか。
「あぁ、しかもメタルリザードと一緒で死んだ後は不純物が増す。これだけで量を賄うのは厳しいだろうが、しかしそれはあまり問題ではない」
「と、いうと?」
「ここにマジックシルバの群れがいたことが重要だ。これはかなり期待できるぞ。急ごうメイ!」
「……はい御主人様」
そして再び私達は魔導車に乗り込み、そして
「よし、ここだ恐らくここにアレが存在する」
マップを頼りに移動する。そこで岩山の中にぽっかりと開いた闇穴を見つけたわけだが。
「見つけたぞ。ここだ」
「え~と、それでエドソンさん。ここは一体?」
「洞窟のようですが」
「まさか、迷宮か!」
フレンズとフレームが?顔を見せ、ハザンは興奮気味に語る。うむ、ハザンは冒険者の勘なのかさすがと言えるだろう。
「あぁ、そうだが、迷宮は迷宮でもこれは鉱山迷宮だ!」
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