第百八話 ハザンとドルベル
あの2人が捕まったことにアレクトやブラは驚いていた。好きなタイプではなかったようだがわざわざギルドに魔導具を依頼し料金だってしっかり支払っておきながらそんな真似するとは考えていなかったのだろう。
「本当に驚きなのです」
「あぁ、だが私はなんとなく気がついていたぞ。だからこそ、用心のために安全装置を付けたり、映像を記録させたり録音できる術式を施したのだからな」
「ふぇ~そうだったんですか?」
「でも、どうしてわかったんですか?」
「……ここのところ色々ありましたからね。御主人様も少し性格が悪くなったのです」
「メイ、最近私への当たりがキツくないか?」
「……そんなことはありません。むしろ少しぐらい性格が悪いぐらいのほうが逆に魅力的というものです」
私に微笑みかけつつ、そんなことを言う。全く、こいつはどこまで本気なのか。
「あ、エドソンくん照れちゃって可愛い」
「か、からかうな!」
全く、ブラも言うようになったものだ。
「とはいえ、用心深くなったのも確かだ。今回の依頼も飛び込みにしては注文が細かったしな。金払いは良かったがそれが逆に怪しいと思い、フレンズやジャニス、それに商業ギルドなども頼って情報を集めたのさ」
その結果、チャライがこれまで何度も特に女絡みで問題を起こしていながらギルドに見逃されていて事実上ギルドの命令に逆らえない犬のようになっていたこと。
それにあのデブリがドイル商会のおかげで甘い蜜にありつけていて公私ともにどっぷりな関係にいることがわかった。そうなれば当然何かあると思ってしかるべきだろう。
「その結果がこれですか。でも結果オーライですね」
「まぁな」
「また問題が起きたら流石に不味そうですからねぇ……」
アレクトが不安そうに眉を落とす。一度問題が起きたとされているからな。それも事実はどうだったか怪しいものだが。
「そういえば最近ハザンさんみないですね」
その時、ジャニスから派遣された職員の1人が思い出したように言った。
あぁ、そうだな。ハザンか、あの時、ドルベルも色々好き勝手言っていたがな。
「……ま、あいつも色々忙しいのだろう」
「……もしかして御主人様寂しいのですか?」
「馬鹿言うな。それに、あいつは本来冒険者だしな」
まぁ、しばらく顔を見てないと調子が狂う気もするがな――
sideハザン
「おい! それは一体どういうことなんだドルベルの旦那! 俺は一切聞いてないぞ!」
「だから今いっただろう? もう魔導ギルドには関わるな。私はそう言ったんだ。勿論、あのエドソンという男にもだ」
納得がいかず俺はマスターのドルベルに詰め寄った。だがこいつの答えはかわらなかった。
全く何だってんだ。依頼が片付きギルドに戻ってきたら早々にマスターの部屋に呼ばれ、かと思えば魔導ギルドに立ち入るのを禁ずるときたもんだ。
ここ最近やたらとギルドから指名依頼を請けると思っていたが、まさか俺を魔導ギルドに近づけさせない為なのか?
全く冗談じゃないぜ。何を考えていやがるのか俺にはさっぱりだが、そんなことを言われてはいそうですかって納得出来るかよ。
「ドルベルの旦那。確かにあんたはこのギルドを纏めるマスターなのかもしれねぇ。でもな、だからって俺の交友関係にまで口出しされたらたまったもんじゃないぜ」
「……馬鹿を言うな。それで済む話じゃない。とっくに報告は上がっている。魔導ギルドのあの男にもしっかり伝えさせてもらったが、お前、魔導ギルドからの依頼を勝手に請けていただろう? わかっているのか? お前は冒険者ギルドの人間なんだぞ?」
「チッ、そんなことかよ。なんだ冒険者ギルドってのはいつからそんなしみったれたことを言う組織に成り下がったんだ? そもそもあれは俺が友の為に協力したに過ぎない。それに俺は兄弟に協力したからといって冒険者の仕事をないがしろにした覚えはない。冒険者としての仕事も全うした上でのことだ」
確かにギルドの規定ではギルドで知った情報を利用して依頼主と直接交渉して勝手に依頼を請けるような真似は禁止されている。だが兄弟は冒険者ギルドに依頼するような間柄じゃない。そもそも関係が良好ともいえなかったしな。
だが兄弟はそんな状況でも俺を嫌ったりはしなかったし、俺のために最高の装備だって作成してくれた。それに俺が冒険者としての仕事がある時はそっちを優先するのが当然と、文句を言うこともなかった。
なのに完全の冒険者ギルドがこの体たらくだ。全くここ最近のギルドはどうかしている。こんなの俺が憧れた冒険者像とかけ離れたものだ。
「今回だって指名依頼は全てこなした。失敗もない。仕事はこうしてしっかりこなしてるんだ。俺がプライベートで何をしようがあんたに指図される覚えはない!」
思わず机を拳で叩きつけ叫んじまった。だが、俺は間違っていない。
「……確かにハザン、お前の仕事ぶりは私もしっかり評価している。今回の働きも見事だった。文句のつけようもない」
「当然だ。俺はいつだって仕事に手を抜いたことはない」
「あぁ、そうだな。だから私はそろそろお前を昇格させてもいいと思っている」
「……何だって? 昇格、というとAランクということか?」
「そうだ。今のお前の実力なら十分にその資質がある。勿論Aランクともなれば私だけの判断でどうにかなるものではないが、しかし私の推薦文が重要なのはお前も知っているだろう?」
確かに。冒険者のランクはBランクまでなら各ギルドのマスターによる判断で上げることが出来る。しかしAランクやSともなるとそうはいかない。
責任もより重大となり、それ相応の実力と立ち振舞が要求されるようになる。だからギルドマスターだけの判断では決められず、冒険者ギルド全体を管理する執行部が最終判断を下す。
とは言え、執行部が判断する材料はギルドマスターの推薦状だ。ギルドマスターは定期的に執行部に報告書を送るがその時に推薦状があればそれも一緒に添えられる。
「私としてもできれば次の報告日には、お前の推薦状も一緒に送りたいと思っている。だが、それにはどれだけギルドに貢献しているかも加味しなければいけない。仕事だけ見ている分には問題ないが、魔導ギルドとの付き合いがあるとなると、私も考え直さなければいけないぞ」
「…………」
つまり、無事Aランクに昇格したければ、魔導ギルドに近づくなと言うことか。
「どうだ? Aランクには随分とお前もなりたがっていただろう? それに手が届きそうなんだ。お前がこれからも冒険者ギルドの為に尽くし、余計なギルドなどには目もくれず冒険者ギルドに貢献してくれるなら、お前がAランクに昇格できるよう推薦状も精一杯書かせて貰うよ。お前にとっては大事な時期だ。いい加減あんなギルドとの付き合いはやめて本業に専念したらどうだ?」
「くだらねぇ」
「……何だと?」
「くだらねぇと言ったんだよ、何がAランクに推薦してやるだ。そんなものをちらつかせれば俺が言うこと聞くとでも思ったのか? なめんじゃねぇ! 大体そんな事しなきゃなれねぇAランクなんざ俺にとっては何の価値もないんだよ」
「……本気で言っているのか?」
「本気だよ。大体俺は自由を求めて冒険者になったんだ。それなのに不自由を迫られたんじゃ本末転倒だ」
「はは、自由だと? お前は何か自由を履き違えていないか? 自由もルールがあればこそだ」
「その言葉あんたにそっくりそのまま返すぜ。あんたこそルールを履き違えているんだろ。ギルドのルールはあんたが都合よく利用するためにあるもんじゃねぇんだぜ」
ドルベルの眉間に皺がよる。俺を見る目にも険が込められていた。
「とにかく、そんな話ならもう俺は行くぜ」
「待て、お前が何を考えているかわからんが、もし今後お前が魔導ギルドに協力するようなことがあれば、冒険者としての資格を剥奪する。それだけは覚えておけ」
「面白い。だが、そんなものあんたの判断だけで決められるのかよ」
「私だけの判断? 馬鹿いえ。いいことを教えてやろう。領主様も魔導ギルドを危険視し始めている。もうすぐある決定もくだされる。そうなればどのみちあのギルドはこれ窓どおりとはいかない。終わりだよ。貴様も今一度よく考えてみることだな」
何だって? 領主が、魔導ギルドを? 一体、どういうことなんだ……。
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