第百六話 安全装置外れません!
side???
「YO! YO! 君たち可愛いYOねー!」
「いやだチャラ~い」
「そうだYOー! 俺っちの名前はまさにチャライ! 一発で名前当てちゃうなんて運命感じちゃうYO! よかったらこれから飯でもDOU?」
「え~? どうしようかなぁ」
「馬鹿やめなってこんなチャラ男。ほらいくよ」
「は~い、じゃあねチャライく~ん」
「残念、また今度Neー!」
チッ、クソブスが。わざわざこのオレっちが声をかけてやったってのに。覚えとけよ。冒険者舐めんな。絶対居場所突き止めて仲間つれて報復にいくからな。
ま、どっちにしろ今はオレっちには大事な仕事があったわけだけど。マスターに言われたとおり、あの魔導ギルドで杖として使える魔導具を作成してもらった。
後はこの杖を使って適当に破壊活動し、この杖が暴走したことにすれば任務終了だ。
さて、どうせなら劇的なものにしたいな。そうだ、ギルドで見た猫探しがあったな。あの猫に魔法ぶっ放して死んだ後、この杖のせいにしてしまおう。へへ、我ながら頭いいぜ。
確かこのあたりで猫が集まるのはっと。オレっちは路地裏の猫のたまり場に向かう。そこに、ビンゴ! 迷い猫がいたぜ。他に沢山猫がいるな。
よし、あいつら全員この杖でぶっ殺そう! さっきナンパに失敗した腹いせも出来るし一石二鳥だぜ。
よし、そうと決まれば早速、猫どもに杖を向けて魔力を込めるぜ。
「ほら、強化して放て! ファイヤーボール!」
『目標確認、驚異指数0、攻撃対象ではありません。安全装置解除できません』
「……は?」
思わず変な声が漏れちまったじゃねーか! は? なにそれ? 驚異指数? 攻撃対象じゃない? は?
「こ、この野郎! 持ち主のオレっちが魔法で攻撃するって言ってんだから動けや! ほらもう一度いくぜ、ファイヤーボール!」
『目標確認、驚異指数0、攻撃対象ではありません。安全装置解除できません』
「ふ、ふざけるなゴラァアアアァアア!」
――ビクッ!
「「「「「「「「ニャンニャンニャンニャンニャンニャニャニャーーーーン!」」」」」」」」
あ! 畜生しまった! オレっちの声に気づいて猫どもが逃げちまったじゃねーか。このポンコツが!
「くそ、今更文句を言っても仕方ないか。こうなったら生き物じゃなくてもいいか。この辺にあるもの徹底的にぶっ壊してやる! 今度は頼んだぜオレっちの杖さんよ! ワイドフレイム!」
ワイドフレイムは広範囲に炎を撒き散らす魔法だ。杖で効果が上がれば辺り一帯を燃やし尽くすぜ。勿論それは魔導具の杖が暴走したせいにするけどな。ヒャッハーーーー!
『目標確認出来ません。市街地での使用は特別な場合を除いて許可されておりません。安全装置解除出来ません』
「は? な、お、おいこら! 何言ってやがる! いいから魔法を使わせろと言ってんだよ! こら!」
オレっちは杖の頭を何度も叩いては杖を通して魔法を発動させようと試みた。だが、この杖同じことばっか繰り返してさっぱり機能しねぇ!
なんだこれ、欠陥品だろこれ! それで文句を言ってやろうか? いややろうとしていることからしてそれを素直に言うわけにはいかねぇ。
こうなったら、もう杖無しでやってやるぜ!
「ファイヤーボール! ワイドフレイム! ファイヤーアロー! はっは、燃えろ燃えろーーーー!」
「おいお前! そこで何をしている!」
「やめないかこら!」
あ、しまった。衛兵に見つかっちまった。いや、むしろこれはチャンスじゃね? よし、こうなったら。
「ち、違うんだYO! オレッちは暴走した杖をなんとか止めようとしたんだYO! でもこいつが全くとまらなくて」
「杖だと?」
「そうだYO! この杖は魔導ギルドが作った特別製なんだYO! だから信用して持ち歩いていたのに勝手に発動してこのザマなんだYO!」
◇◆◇
「なるほど。それで私達が現場に呼ばれたってわけか」
「こいつらだYO! オレっちに粗悪な魔導具の杖を売りつけた魔導ギルドの作成者だYO!」
杖を引き取っていった男。チャライという名前だったな。そいつが私を指差して文句を言ってきた。やれやれ、またか。
「彼はこう言っている。見てもらったらわかると思うが、けが人こそ出なかったが道に置かれていた物が燃えて建物も焦げてしまっている箇所がある。それに彼の話だと危なく猫も燃やしてしまうところだったそうだ。もしそれが本当ならとんでもないことだぞ? 魔導具の暴走は、確か以前も魔導ギルドがやらかしているのだからな」
腕を組んだ衛兵2人が厳しい言葉を投げつけてくる。チャライはヘラヘラとした顔でこっちを見ていた。随分と余裕だな。
「確かにその杖は私が考え作成させたものだ。魔導ギルドから正式にその男に販売もした」
「ほら見たことかYO! オレッちは何も悪くないYO!」
「だが、魔導ギルドの魔導具に不備はない。そもそも市街地ではその杖は使えない。安全装置だって働いた筈だ」
「安全装置?」
「何だそれは?」
「その杖には間違って関係ない人間や動物、それに物を壊したり出来ないよう安全装置となる術式が組み込まれている。なので基本的に町中では使用不可だ。勿論依頼が町で起こる場合もあるから目標を補足して驚異指数が一定値を超えていれば安全装置は解除されて杖での魔法行使が可能となる」
「お前! 頼んでもいないそんな余計なものを!」
「何?」
「え? あ、いや、と、とにかくそんなもの知らないYO! 起動してなかったYO!」
「そうか。なら私に向かって魔法を使ってみろ」
「……へ?」
「言っただろう? 構わんから私に何か魔法を撃ってみろ。私は自分の魔導具に自信を持っている。私に魔法を放とうとしても安全装置が作動し発動できない」
「ふ、ふざけるな! 大体貴様は作成者だろ! 何か対策しているに決まってる!」
こいつ、口調が変わったな。いや、こっちが素か。
「……なら、私が代わりに的になりましょう」
だが、そこでメイが前に出てそんなことを言った。確かにメイでも問題ない。
「お、お前だってそいつの仲間だ信用できるわけが!」
「ふむ、なら私が的になろう」
「は?」
チャライがやたら拒んでくるが、そこで意外にも衛兵の1人が的になると名乗りを上げた。
「お、おいお前いいのか?」
「構わない。私には原因を追求する責任があるしな。しかし、これでもし発動しなければ言い訳できないぞ?」
「問題ない。だが、今はそれよりもそこのお前が心配するところじゃないのか?」
チャライに目を向けると、仰け反って妙な声を上げていた。
「あ、あぅううう」
「? どうした? 私は構わないから早くやりなさい」
「そ、それは無理だYO! ま、魔力がもうない!」
「……それならばどうぞこの指輪を」
「そ、そんな指輪が何の役に!」
「……この指輪を身につけることで魔力の回復が早くなります。魔法一発分ぐらいすぐですよ」
「ほう、そんな便利な魔導具があるのか」
「うむ、魔導ギルドで販売している」
「いくらなのかな? 良ければ」
「そこ! 何で仲よさげにしてるんだYO!」
「おっとすまないつい。それで回復したか?」
「お、オレっちは指輪が苦手なんだ!」
「それならマジックポーションもあるぞ。これを飲めばいい」
私はポーションの入った瓶を取り出す。用意が良いな、と衛兵が驚いていた。
「ぽ、ポーションは味が苦手で」
「君、いい加減にしないか! あれも駄目これも駄目と、それでは我々は君を疑わざるを得ないぞ!」
衛兵にきつく言われチャライが慌てていた。全く往生際の悪い。
「もういい。手っ取り早く終わらせよう。開発者権限で命じる。音声再生だ」
『声紋確認。承知いたしました。再生致しますj――こ、この野郎! 持ち主のオレっちが魔法で攻撃するって言ってんだから動けや! ほらもう一度いくぜ、ファイヤーボー……』
そしてこのチャライの行為と発言が全て杖から再生された。こんなこともあろうかと杖にはログ機能と録音機能もつけておいたのさ。
「ほら、さっさと歩け!」
「う、うぅ、こんなはずじゃなかったんだYOーーーー!」
そしてチャライは衛兵に連行されていった。
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