第百五話 証明の証明
「一体どういうことなのだこれは!」
魔導ギルドにオーダーメイドでお手伝い型ゴーレムを注文し、引き取っていった肥え太った男が後日怒鳴り込んできた。
偉い剣幕でまるで本当に怒っているようだな。
「あの、何か私どもの魔導具に問題がありましたか?」
窓口の対応をお願いしている少女が問いかけると男、そう言えば名前はデブリだったな。そのデブリがカウンターに拳を叩きつけた。
「このギルドに作ってもらったゴーレムが暴走したんだよ! おかげで家がメチャクチャだ!」
「え! 暴走!?」
離れた席で驚いていたのはアレクトだ。全く、お前がそんなに慌てふためいてどうする。
「ど、どうしましょう! メイさんどうしましょう!」
「落ち着いてくださいアレクト様。大丈夫ですから」
涙まで流し始めたアレクトをメイが上手く宥めていた。ブラや他の皆も不安そうにしており、その様子を認め、デブリの口元が僅かに歪む。
「とにかくこれは由々しき事態だ! 領主様にも勿論報告し、何故こんな欠陥品かつ危険な代物を売りつける魔導ギルドなんかにブランド化を認めたのかと商業ギルドにも抗議を!」
「落ち着くが良い。先程から聞いていれば随分と一方的な話にも思えるが、本当にうちが作成したゴーレムが暴走したのか?」
「な~にぃ?」
私が前に出て、話に加わると、デブリは片目を大きくさせ、私を睨んできた。とりあえず窓口に立っていた少女には一旦下がってもらう。
「この私が嘘を言っているというのか! 貴様が作ったポンコツのせいで家がめちゃめちゃにされたんだぞ! あれじゃあもう住むことも出来やしない!」
「そうは言ってもな。私が直に目にしたわけじゃない」
「ふん、だったら家まで来るが良い! そうすれば嫌でもわかるだろうさ!」
「よしわかった」
「では私もお付き合い致します」
そして私とメイはデブリの家に向かった。中々の広い敷地であり、その中にボロボロになった家があった。元々は2階建ての家屋だったようだな。それなりに立派な物だったのだろうが、今は壁が破壊されボコボコに穴があいてしまっている。
「見たか! これをあのゴーレムがやったのだ!」
「ふむ、それでミターナは?」
「ふん、今は中で黙らしている。下手に動いてまた暴れられたらたまらんからな」
鼻息荒く強気な態度を見せるデブリ。とにかく、私達はミターナの前まで向かった。名前は結局変えていないようなのでミターナに呼びかける。
ミターナの今のご主人さまはこのデブリだが、作成者の情報は残っていてその中には私の情報もある。
だから私も話を聞くことは可能だ。
「ミターナ、起きているか?」
「はい。ご主人さまに命じられ、今は待機を続けております」
「当然だ! また暴れられたらたまらんからな!」
「……ミターナ、主人のデブリがこの家を破壊したのはお前だと言っている。暴走したとな。本当か?」
「否定、私は破壊に関する命令は許可されておりません。故にこの家を破壊するという行為は不可能です」
うむ、まさにそのとおりだ。ミターナはあくまで手伝い専用だ。だから破壊したり何かを傷つけたりといった行動はしない。唯一主人に身の危険が訪れた時のみ護衛機能が働き、例え何者かに襲われたとしても相手を取り押さえたり無力化するのが優先される。
こういった対策を取っておかないと、何に悪用されるかわからない。それにわざと暴走させて欠陥品だとイチャモンを付けてくる奴がいたりするからな。
「デブリ様、ミターナはこう申しておりますが?」
「ふん、当然だろう暴走していたのだから。自分が何をやったのかなんて覚えているわけがない!」
「いえ、私にはログ機能が搭載されております。私の行動は何かあったときのためにしっかり記録されております」
「……は?」
「聞いてのとおりだ。引き取ってもらってからの行動は全て記録する術式が構築されている」
「な、な! 馬鹿なそんなもの頼んでいないぞ!」
「当然だ。これは何か問題が生じたときのための安全措置として組み込んであるものだからな」
「そ、そんなものプライバシーの侵害だ!」
「お言葉を返すようですが、魔導具の安全に関しての規約事項は契約書にしっかり明記しております」
「そういうことだ。第一このログ機能はミターナを問題なく正しく扱っていれば知られても問題のないものだと思うが?」
「そ、それは……」
「とにかくログを確認させてもらうぞ」
「そ、そんなの認めんぞ!」
「メイ、契約書を持ってきているだろう?」
「はい。しっかりご説明致します」
「な、な……」
そしてメイが契約書を片手にデブリと話している間に、私はミターナのログを確認するが。
「ふむ、確認したがミターナが暴走したような痕跡はなかったぞ。それどころかそなたが家を破壊しろと命じたり自分を攻撃しろと命じたが全て拒否し、その後は家の掃除や庭の手入れを行ったとある。尤もその後はどういうわけかずっと待機だったわけだがな」
「う、嘘だそんなものはでたらめだ!」
「しかし、ログという証拠があるのだが?」
「そんなもの! 魔導ギルドが自分たちのやった不始末を隠すために適当にでっち上げたに決まっている!」
酷い言われようだな。
「言っておくがそんなもの何の証拠にもならないからな! 大体現実に家は壊れているんだ! これをどう説明する! こんなもの私に出来るわけがない!」
やれやれ今の話の中で私は一言たりともお前がやったなんて言っていないのだがな。ログに破壊を命じられたとあったことだけは伝えたが。
「全く、そんな捏造された証拠だけを用意してよりにもよって客を疑うとは。魔導ギルドというのはとんでもないな。後から知ったことだが魔導ギルドは一度魔導具の暴走で問題になったそうではないか。それを事前に知っていればこんなもの頼まなかったというに。案の定貴様らの作った魔導具が暴走した! これでもうお前たちも魔導ギルドもおしまいだ!」
「わかったわかった。そこまで言うならここではっきりさせるとしよう。開発者権限で命じるミターナ。記録した映像を出せ」
「映像だと?」
「承知いたしました」
デブリが目を白黒させているが私に言われ、ミターナの体が青白く光ったかと思えばミターナが記録した映像が立体化して現れた。
「ミターナは目とは別に全方位を映像として記録できる術式も構築されている。今丁度ログに残っていた待機中に来訪者ありという部分を抽出させてもらったところだ」
「な、なんだと!」
ログは何か会ったときの為に事細かく残されているからな。その上でこうして映像も残されている。
『さぁ入ってこい!』
『へいへい』
『でも、本当にいいのか? この家を破壊して?』
『構わん。徹底してやってくれ!』
『よし、許可を貰ったしさっさとやっちまうぞおまえら』
『『『『『おう!』』』』』
そして映像にはこんな記録が残されていた。明らかにミターナの仕業ではない、別の男たちによるものだ。
「――映像を見る限り、デブリ様が連れてきた男たちが家を破壊しているように思えますが?」
「そうだな。ミターナは命じられたとおり、じっと黙って待機しているが、その間に随分と派手にやらかしたものだ」
「な、なな、こ、こんなものデタラメだ! 何の証拠にも!」
「それなら一体どんな証拠ならご納得されるのでしょうか?」
メイが問うと、急にデブリがしどろもどろになり。
「え? いや、それは――」
「そもそもだ。私たちはそなたから、うちの魔導具が暴走した、という話しか聞いていない。私達がやった証拠が信じられないというのも結構だがならばそっちはこのミターナがやったという証拠を提示出来るのか?」
「あ、う、それは……」
「とにかく、こっちにはしっかりとしたログもあり、映像だって残っている。これ以上無いほどの証明と言えるだろう。にもかかわらず納得されていないようである上、こちらも謂れのない罪を着せられそうになったのだ。魔導ギルドとしてもしっかり対処はさせてもらう。メイ、商業ギルドに向かい大至急この家を壊したと思われる男たちをあたるのだ。見るにこいつらは素人ではないからな腕の良い職人、おそらく大工をやっているもの達だろう。まぁ映像は残っているのだからすぐに見つかると思うがな」
「そ、そんな、こんな筈じゃ――」
そして、それからすぐ家の破壊を頼まれたという職人は見つかった。内密にと言われていた仕事だったようだが、映像を見せたら巻き込まれたらまったものじゃないと自分たちが依頼を請けてやったとあっさり証明されデブリは連行された――
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